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最終章 レースの決着
リスタート!
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――――
フウマから、前半戦前のジンジャーブレッドとの出会いを、すべて聞いたシロノ。
「……」
「これが、話の全てさ。
確かにジンジャーブレッドの機体には、反則まがいの妙な加速機構が取り付けられて、親善試合や前半戦ではそれを使っていた。
……でも、前半戦で彼は、無理やり使わされたんだ。本当は普通のレーサーとして、戦いたかったはずなんだ」
そうフウマは、強く訴えかける。
「話は、分かりました。私は――ジンジャーブレッドの事を、見誤っていたのですね」
ここまで言われれば、シロノも認めるしかなかった。
彼は卑怯者ではなく、己の命を懸けてまで、精一杯レーサーであり続けようとしたのだ。
「……うっ、……く、う……」
そんなさ中、先ほどまで倒れていた、ジンジャーブレッドの両瞼が、ぴくりと動く。
「――ジンジャーブレッドさん! 気が付いたんだね!」
フウマは目を覚ました彼に、声をかけた。
「ああ。……心配をかけたな。それに……」
ジンジャーブレッドは、今度は棒立ちになっていた、シロノに顔を向けた。
「ジンジャーブレッドさん、ご無事でしたか」
シロノは一言、そう言った。
「どうやら、君も、知ってしまったみたいだな……」
彼はその表情から、すべてを察した。
「ええ。何しろ、こんな状況ですから。
……謝ります。何も知らないのに、私は勝手なことを言ってしまい」
謝る彼に、ジンジャーブレッドは首を横に振る。
「いや。私もゲルベルトに利用されたと言え、分かったうえであんな事をしたのだ。
レースを台無しにした罪は、消えないさ」
「それでも、どうか……謝らせて下さい。これが私なりの、けじめですから」
シロノは謝り、そして続ける。
「そして、もし良ければ再び、あなたとまたレースをしてみたいです。――ジンジャーブレッドさんが、望むのなら」
心からの彼の一言。
未だ痛みは残るが、それでもジンジャーブレッドは優しい、笑みを見せた。
「ふっ、それは嬉しい。望むところだとも」
すると、そんな中でフウマが言った。
「でも……僕たちは、人質にとられているんだ。
レースはこれ以上……」
そう、フウマ達はそれぞれ大切な人を人質にとられ、レースなど出来る状態ではなかった。
すると――。
「おい、そこにいるんだろう、フウマにシロノ」
そう呼びかけが、ハッチの方から聞こえた。
「……リッキーまで!」
そこにいたのは、リッキーだった。
「ははは! あまりにも遅いからさ、俺も傍に着水したってわけだ。
ちなみに、マリンとティナも同じく、な」
フウマがハッチから外を覗くと、そこには新たに彼のワールウィンドと、そしてクリムゾンフレイムとアトリも海面上に浮かんでいた。
「皆さんまで、こうして……」
シロノの反応に対し、リッキーは――。
「まあな! 何しろ、これからレースを再開するってんだから、三人の事を待っててやらないとな」
その発言に、フウマは戸惑う。
「えっ!? でも……レースなんて、出来るわけが……」
するとリッキーは、ある事を伝える。
「実はな、さっきまた通信が入ったんだ。今度は、ジョセフからな。
……喜べ! 親父を含めた人質全員は、ついさっき解放されたんだ。ゲルベルトの奴も、銀河捜査局に逮捕されたってさ。
つまり、もう安心ってことだ!」
これを聞き、フウマ、そしてシロノも安堵の表情を見せる。
「アインは……無事なのですね。良かったです」
「それにミオも、これで一安心だよ」
そんな二人にリッキーは、こう言葉を投げかけた。
「これでまた、レースも再開出来る、というわけだ。
…………んっ!?」
すると彼は、奥のジンジャーブレッドの姿に、目が入った。顔の一部が破けた、その姿。彼は驚きを見せる。
「……ジンジャーブレッド、その姿は……」
確かに驚きはしたが、それでも彼には、落ち着きがあった。
「ふむ、君はあまり、驚かないのだな」
「まあな。何しろあんな事の後だ、そこまでビックリは出来ないぜ。
――おっと、話がそれてしまったな。とにかくフウマもシロノも、機体に戻ってくれ。詳しい話はその後だ」
改めてリッキーは、二人にそう伝える。
「了解しました。それでは、一度自分の機体に、戻りましょうか」
「分かったよ。……ジンジャーブレッドさん、どうか、身体に気を付けてね」
フウマは最後に、そうジンジャーブレッドへと、伝える。
「ああ。……もちろんだとも」
こうして、フウマ、シロノ、そしてリッキーは再び、自分の機体へと戻って行く。
――――
テイルウィンドに、戻ったフウマ。
〈ようやく戻ったね、フウマ〉
そんな彼に、フィナが声をかける。続けてマリンも……。
〈さて、と、話はリッキーから聞いたわね。ジョセフさんいわく、まだ少し話が残っているみたいだから、聞いていってよ。
――でも、後続が迫っているから、どうか急いでよね〉
通信の回線は、マリンとフィナ、リッキーにシロノ、そしてジンジャーブレッドとも繋がっていた。
〈……〉
向こうは何も言っていないが、それでも彼とも通信は、ちゃんと繋がっている。
そして……
〈どうやら全員、揃ったみたいだね〉
通信で語りかけたのは、ジョセフからだった。
〈さて、フウマとシロノも、聞いたとは思うが、今回の事件の黒幕であるゲルベルトは逮捕された。
それに捕まっていた人質も、……こうして無事さ〉
すると、通信の主が、別の人に代わる。
〈……兄さん、僕たちは無事だよ。ちょっと色々あったけど、大丈夫〉
それはシロノの弟、アインからだ。シロノはこれに――。
「どうやら、無事みたいですね、アイン。本当に……安心しました」
〈本当はもっと兄さんと話したいけど、今度はフウマさんのために、ミオさんと代わらないといけないし。
それじゃあ、僕はこれで……〉
と、今度はアインから、ミオへと代わる。
〈私も、こうして平気。何だか、フウマに心配を、かけちゃったかな。……ゴメンね〉
フウマは、彼女の声を聴いて――表情を緩める。
「謝らないで。今は無事なミオの声が聞けて……僕は嬉しいんだ」
〈私だって、その気持ちはフウマと同じだよ〉
「でも、本当にケガはなかった? 何か、酷い事されなかった?」
しかしそれでも、心配した様子のフウマに、ミオはくすくすと笑う。
〈あはは、フウマってば、心配性だな〉
「それは心配するよ! だって僕にとって、君は……」
〈でも……ありがと、私を心配してくれて。けど、そろそろ時間だから、私も代わるね〉
フウマは、こくりと頷く。
「うん。――分かったよ、ミオ」
通信は再び、ジョセフへと。
〈さて……と。無事は分かったと思うから、本題に入ろう。
これで君たちは、再びレースが可能になった、と言うことだ。
何しろ問題は、全部解決したからな〉
すると、ここで通信が別の人へと代わる
〈僕も忘れてもらっては困るよ。だって微力ながらも、解決に手を貸したんだからさ〉
声の主はカイルもとい、ジョンであった。
「カイル……いや、ジョンまで、そこにいたんだ」
〈ああ! ちょっとそこのジョセフさんの、お手伝いさ。
ま、所謂助手って奴!〉
するとカイルを押しのけるように、再びジョセフ。
〈おいおい! 今は俺が話しているじゃないか。それに、お前が俺の助手だって!? 笑わせないでくれよ?〉
そして気を取り直すように、ジョセフは話を再開する。
〈だが、まぁ……そう言うことだ。
これでレースは平常運航、ゲルベルトは捕まり、その不正もレース運営側に通報された。
ジンジャーブレッドの出場権も、これで剥奪。残りは君たちで勝負をすればいいと、言うことだね〉
〈ふっ……。やはり、そうなるか。
これも身から出た錆、だ。私はそれを、受け入れることにしよう〉
これを聞き、ジンジャーブレッドは仕方がない、と言った様子を見せる。
しかし。
「……」
フウマはそれに、不満そうな様子だ。
そして彼は……決意したように、こう言った。
「ゴメン、やっぱり僕はそんなのは――嫌だな」
〈……うん?〉
よく分からないジョセフの様子に、フウマは続ける。
「ジンジャーブレッドさんは、本物のジンジャーブレッドとして、ちゃんと本気のレースをしようとしてたんだ。
不正だって、ゲルベルトに強制されたからさ。なのに彼が、こんな目に遭うなんて、おかしい。
僕はどうしても、彼が望んでいた通り、全力のレースを最後までしたい。それが叶わないのなら……僕も、もうレースをする気はないよ」
これには、ジョセフも困り顔。
〈うーん。気持ちは分かるけど、フウマまで、せっかくのレースを諦めるってわけか?
それはさすがに、勿体ないんじゃないかい〉
彼はそう言うも、フウマはなおも続ける。
「でも、もう決めたことなんだ。ミオとも全力でレースをするって、約束したもん。それには、ジンジャーブレッドさんと一緒じゃないと――」
そしてシロノ、リッキーもまた……。
〈あんなにすごいレーサーと戦える機会は、滅多にないしな。……勿体ないぜ〉
〈ふっ――、私もジンジャーブレッドさんとは、改めてちゃんと戦いたいですからね。
フウマと同じく、向こうが全力の勝負を望むなら、『白の貴公子』として、それに応えたいですから〉
二人はそう言い、さらにフィナとマリンまで。
〈私だって、ジンジャーブレッドさんを置いてレースを続けるなんて、出来ません。
やっぱりみんなで、最後までレースがしたいから〉
〈気が合うわね、フィナちゃん!
ま、それもそうだけど……シロノがああ言うのに、私だけ抜け駆けは、ありえないじゃん!〉
〈みんな……そこまで……〉
ジンジャーブレッドは、心底驚愕したような、そして感動したように、茫然とする。
フウマはそんな彼に対し、言った。
「確かにレースでは失格になるかも、しれないけどさ。それでもレースそのものは出来るんだ。
だから、最後まで一緒に飛ぼうよ、ジンジャーブレッドさん! 僕たちはみんな、貴方と勝負がしたいんだから!」
それは真剣な、フウマの想いだ。
そしてまた、ここにいる全員の、想いでもあった。
〈……私は〉
葛藤する、ジンジャーブレッド。
思い悩み、苦悩し――、その末に彼は、決意を固めた。
〈私は……やはり、最後までレースがしたい。
ジンジャーブレッドの名を持つ者として、何より私が、レースが大好きなのだ。
これは私の我が儘である。それに、付き合ってくれるのか?〉
それに、フウマは当たり前と言うように、満面に笑ってみせた。
「もちろん! 大歓迎さ! それに、これは僕たちの我が儘
でもあるしね――お互いさまさ!」
フウマの言葉に、リッキー、シロノ、フィナにマリンも、そして――ジンジャーブレッドも、皆想いは一緒だ。
ジンジャーブレッドはふっと、笑ったかのように息をついた。
〈――そうか、なら、レースを再び始めよう。
記録に残らないかもしれないが、ゴールまで付き合うことにしよう〉
フウマはにこっと笑って、こう返した。
「うん! 最後の最後まで、一緒に頑張ろう!〉
二人の話を、聞いていたシロノ達。
〈そうと決まれば、そろそろ、再開しましょうか。マリンの言う通り、もうすぐそこまで迫っていますしね〉
「ああ! じゃあ――G3レース、ラストスパートと行くよ!〉
フウマ達は操縦桿を握り、再び空へと飛び立つべく、動いた。
フウマから、前半戦前のジンジャーブレッドとの出会いを、すべて聞いたシロノ。
「……」
「これが、話の全てさ。
確かにジンジャーブレッドの機体には、反則まがいの妙な加速機構が取り付けられて、親善試合や前半戦ではそれを使っていた。
……でも、前半戦で彼は、無理やり使わされたんだ。本当は普通のレーサーとして、戦いたかったはずなんだ」
そうフウマは、強く訴えかける。
「話は、分かりました。私は――ジンジャーブレッドの事を、見誤っていたのですね」
ここまで言われれば、シロノも認めるしかなかった。
彼は卑怯者ではなく、己の命を懸けてまで、精一杯レーサーであり続けようとしたのだ。
「……うっ、……く、う……」
そんなさ中、先ほどまで倒れていた、ジンジャーブレッドの両瞼が、ぴくりと動く。
「――ジンジャーブレッドさん! 気が付いたんだね!」
フウマは目を覚ました彼に、声をかけた。
「ああ。……心配をかけたな。それに……」
ジンジャーブレッドは、今度は棒立ちになっていた、シロノに顔を向けた。
「ジンジャーブレッドさん、ご無事でしたか」
シロノは一言、そう言った。
「どうやら、君も、知ってしまったみたいだな……」
彼はその表情から、すべてを察した。
「ええ。何しろ、こんな状況ですから。
……謝ります。何も知らないのに、私は勝手なことを言ってしまい」
謝る彼に、ジンジャーブレッドは首を横に振る。
「いや。私もゲルベルトに利用されたと言え、分かったうえであんな事をしたのだ。
レースを台無しにした罪は、消えないさ」
「それでも、どうか……謝らせて下さい。これが私なりの、けじめですから」
シロノは謝り、そして続ける。
「そして、もし良ければ再び、あなたとまたレースをしてみたいです。――ジンジャーブレッドさんが、望むのなら」
心からの彼の一言。
未だ痛みは残るが、それでもジンジャーブレッドは優しい、笑みを見せた。
「ふっ、それは嬉しい。望むところだとも」
すると、そんな中でフウマが言った。
「でも……僕たちは、人質にとられているんだ。
レースはこれ以上……」
そう、フウマ達はそれぞれ大切な人を人質にとられ、レースなど出来る状態ではなかった。
すると――。
「おい、そこにいるんだろう、フウマにシロノ」
そう呼びかけが、ハッチの方から聞こえた。
「……リッキーまで!」
そこにいたのは、リッキーだった。
「ははは! あまりにも遅いからさ、俺も傍に着水したってわけだ。
ちなみに、マリンとティナも同じく、な」
フウマがハッチから外を覗くと、そこには新たに彼のワールウィンドと、そしてクリムゾンフレイムとアトリも海面上に浮かんでいた。
「皆さんまで、こうして……」
シロノの反応に対し、リッキーは――。
「まあな! 何しろ、これからレースを再開するってんだから、三人の事を待っててやらないとな」
その発言に、フウマは戸惑う。
「えっ!? でも……レースなんて、出来るわけが……」
するとリッキーは、ある事を伝える。
「実はな、さっきまた通信が入ったんだ。今度は、ジョセフからな。
……喜べ! 親父を含めた人質全員は、ついさっき解放されたんだ。ゲルベルトの奴も、銀河捜査局に逮捕されたってさ。
つまり、もう安心ってことだ!」
これを聞き、フウマ、そしてシロノも安堵の表情を見せる。
「アインは……無事なのですね。良かったです」
「それにミオも、これで一安心だよ」
そんな二人にリッキーは、こう言葉を投げかけた。
「これでまた、レースも再開出来る、というわけだ。
…………んっ!?」
すると彼は、奥のジンジャーブレッドの姿に、目が入った。顔の一部が破けた、その姿。彼は驚きを見せる。
「……ジンジャーブレッド、その姿は……」
確かに驚きはしたが、それでも彼には、落ち着きがあった。
「ふむ、君はあまり、驚かないのだな」
「まあな。何しろあんな事の後だ、そこまでビックリは出来ないぜ。
――おっと、話がそれてしまったな。とにかくフウマもシロノも、機体に戻ってくれ。詳しい話はその後だ」
改めてリッキーは、二人にそう伝える。
「了解しました。それでは、一度自分の機体に、戻りましょうか」
「分かったよ。……ジンジャーブレッドさん、どうか、身体に気を付けてね」
フウマは最後に、そうジンジャーブレッドへと、伝える。
「ああ。……もちろんだとも」
こうして、フウマ、シロノ、そしてリッキーは再び、自分の機体へと戻って行く。
――――
テイルウィンドに、戻ったフウマ。
〈ようやく戻ったね、フウマ〉
そんな彼に、フィナが声をかける。続けてマリンも……。
〈さて、と、話はリッキーから聞いたわね。ジョセフさんいわく、まだ少し話が残っているみたいだから、聞いていってよ。
――でも、後続が迫っているから、どうか急いでよね〉
通信の回線は、マリンとフィナ、リッキーにシロノ、そしてジンジャーブレッドとも繋がっていた。
〈……〉
向こうは何も言っていないが、それでも彼とも通信は、ちゃんと繋がっている。
そして……
〈どうやら全員、揃ったみたいだね〉
通信で語りかけたのは、ジョセフからだった。
〈さて、フウマとシロノも、聞いたとは思うが、今回の事件の黒幕であるゲルベルトは逮捕された。
それに捕まっていた人質も、……こうして無事さ〉
すると、通信の主が、別の人に代わる。
〈……兄さん、僕たちは無事だよ。ちょっと色々あったけど、大丈夫〉
それはシロノの弟、アインからだ。シロノはこれに――。
「どうやら、無事みたいですね、アイン。本当に……安心しました」
〈本当はもっと兄さんと話したいけど、今度はフウマさんのために、ミオさんと代わらないといけないし。
それじゃあ、僕はこれで……〉
と、今度はアインから、ミオへと代わる。
〈私も、こうして平気。何だか、フウマに心配を、かけちゃったかな。……ゴメンね〉
フウマは、彼女の声を聴いて――表情を緩める。
「謝らないで。今は無事なミオの声が聞けて……僕は嬉しいんだ」
〈私だって、その気持ちはフウマと同じだよ〉
「でも、本当にケガはなかった? 何か、酷い事されなかった?」
しかしそれでも、心配した様子のフウマに、ミオはくすくすと笑う。
〈あはは、フウマってば、心配性だな〉
「それは心配するよ! だって僕にとって、君は……」
〈でも……ありがと、私を心配してくれて。けど、そろそろ時間だから、私も代わるね〉
フウマは、こくりと頷く。
「うん。――分かったよ、ミオ」
通信は再び、ジョセフへと。
〈さて……と。無事は分かったと思うから、本題に入ろう。
これで君たちは、再びレースが可能になった、と言うことだ。
何しろ問題は、全部解決したからな〉
すると、ここで通信が別の人へと代わる
〈僕も忘れてもらっては困るよ。だって微力ながらも、解決に手を貸したんだからさ〉
声の主はカイルもとい、ジョンであった。
「カイル……いや、ジョンまで、そこにいたんだ」
〈ああ! ちょっとそこのジョセフさんの、お手伝いさ。
ま、所謂助手って奴!〉
するとカイルを押しのけるように、再びジョセフ。
〈おいおい! 今は俺が話しているじゃないか。それに、お前が俺の助手だって!? 笑わせないでくれよ?〉
そして気を取り直すように、ジョセフは話を再開する。
〈だが、まぁ……そう言うことだ。
これでレースは平常運航、ゲルベルトは捕まり、その不正もレース運営側に通報された。
ジンジャーブレッドの出場権も、これで剥奪。残りは君たちで勝負をすればいいと、言うことだね〉
〈ふっ……。やはり、そうなるか。
これも身から出た錆、だ。私はそれを、受け入れることにしよう〉
これを聞き、ジンジャーブレッドは仕方がない、と言った様子を見せる。
しかし。
「……」
フウマはそれに、不満そうな様子だ。
そして彼は……決意したように、こう言った。
「ゴメン、やっぱり僕はそんなのは――嫌だな」
〈……うん?〉
よく分からないジョセフの様子に、フウマは続ける。
「ジンジャーブレッドさんは、本物のジンジャーブレッドとして、ちゃんと本気のレースをしようとしてたんだ。
不正だって、ゲルベルトに強制されたからさ。なのに彼が、こんな目に遭うなんて、おかしい。
僕はどうしても、彼が望んでいた通り、全力のレースを最後までしたい。それが叶わないのなら……僕も、もうレースをする気はないよ」
これには、ジョセフも困り顔。
〈うーん。気持ちは分かるけど、フウマまで、せっかくのレースを諦めるってわけか?
それはさすがに、勿体ないんじゃないかい〉
彼はそう言うも、フウマはなおも続ける。
「でも、もう決めたことなんだ。ミオとも全力でレースをするって、約束したもん。それには、ジンジャーブレッドさんと一緒じゃないと――」
そしてシロノ、リッキーもまた……。
〈あんなにすごいレーサーと戦える機会は、滅多にないしな。……勿体ないぜ〉
〈ふっ――、私もジンジャーブレッドさんとは、改めてちゃんと戦いたいですからね。
フウマと同じく、向こうが全力の勝負を望むなら、『白の貴公子』として、それに応えたいですから〉
二人はそう言い、さらにフィナとマリンまで。
〈私だって、ジンジャーブレッドさんを置いてレースを続けるなんて、出来ません。
やっぱりみんなで、最後までレースがしたいから〉
〈気が合うわね、フィナちゃん!
ま、それもそうだけど……シロノがああ言うのに、私だけ抜け駆けは、ありえないじゃん!〉
〈みんな……そこまで……〉
ジンジャーブレッドは、心底驚愕したような、そして感動したように、茫然とする。
フウマはそんな彼に対し、言った。
「確かにレースでは失格になるかも、しれないけどさ。それでもレースそのものは出来るんだ。
だから、最後まで一緒に飛ぼうよ、ジンジャーブレッドさん! 僕たちはみんな、貴方と勝負がしたいんだから!」
それは真剣な、フウマの想いだ。
そしてまた、ここにいる全員の、想いでもあった。
〈……私は〉
葛藤する、ジンジャーブレッド。
思い悩み、苦悩し――、その末に彼は、決意を固めた。
〈私は……やはり、最後までレースがしたい。
ジンジャーブレッドの名を持つ者として、何より私が、レースが大好きなのだ。
これは私の我が儘である。それに、付き合ってくれるのか?〉
それに、フウマは当たり前と言うように、満面に笑ってみせた。
「もちろん! 大歓迎さ! それに、これは僕たちの我が儘
でもあるしね――お互いさまさ!」
フウマの言葉に、リッキー、シロノ、フィナにマリンも、そして――ジンジャーブレッドも、皆想いは一緒だ。
ジンジャーブレッドはふっと、笑ったかのように息をついた。
〈――そうか、なら、レースを再び始めよう。
記録に残らないかもしれないが、ゴールまで付き合うことにしよう〉
フウマはにこっと笑って、こう返した。
「うん! 最後の最後まで、一緒に頑張ろう!〉
二人の話を、聞いていたシロノ達。
〈そうと決まれば、そろそろ、再開しましょうか。マリンの言う通り、もうすぐそこまで迫っていますしね〉
「ああ! じゃあ――G3レース、ラストスパートと行くよ!〉
フウマ達は操縦桿を握り、再び空へと飛び立つべく、動いた。
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