いつか、あの宙に

双子烏丸

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いつか、あの宙に

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 見上げた空は、満点の星空。
 夜も遅く、他の子供達も寝静まっている中、屋敷の中庭には人影が一つあった。
 そこにいたのは、まだ十一、十二才ほどの美しい少年。
 少年はその長い銀髪を、草むらに絡ませ、仰向けになって空を眺め、星を眺めている。
 


 今日は天気が良く、星がよく見える。
 無数に瞬き、輝いている星空、そしてそんな夜空を貫く、白く細い一本の線……。
 それはこの惑星の点在する、軌道エレベーターであることは、少年は知っていた。
 エレベーターの基部に広がるのは、広い大都市。夜なのにも関わらず、街は明かりに包まれ輝いている。
 そこは他所の星からの訪問者のための、ホテルに店や娯楽施設、それらの集まった華やかな不夜城――。少年には、殆ど縁がないものだった。



 そして軌道エレベーターの頂上には、巨大な宇宙ステーションがある。
 ここからでも、まるで足を広げた蜘蛛のようなステーションと、明かりと思える光が見える。宇宙ステーションと大都市を繋ぐ軌道エレベーターの白い筋は、さながら宙に浮かぶ大蜘蛛の怪物が、地上に向けてその糸を垂らしているかのようだ。
 そこには常に、多くの星々から宇宙船が訪れて、エレベーターで地上へと降りている。この大都市と宇宙ステーション、そしてそれを繋げる軌道エレベーター、惑星の赤道上には、これらが計八つ点在し、各惑星からの人々や物を出迎える。


 ここは宇宙に広がる人類社会の、人間、物を星から星へと移動させるための、言わば中継地点、そのために多くの人間がこの惑星へと集まり、一時の娯楽とサービスを楽しみ、商売、取引を行う。
 地上の大都市の多くは、主にそのための場所だ。


 
 この屋敷は、そんな大都市の外れにある、古い屋敷。
 かつては宇宙貿易で設けた商人の屋敷だったが、老朽化によりその手を離れた。
 今は老いた老婦人に渡り、孤児を受け入れる孤児院となっていた。
 交易の中継地点として栄える惑星だが、集まる大勢の人々の中には、戦争や災害で故郷を追われた者や、資金の尽きた貧乏人も流れ着く。
 そんな困窮の中で親を失った子供、ここは、そんな子供たちのための屋敷である。


 少年も、そんな孤児の一人。物心つくまえに引き取られ、屋敷で暮らしていた。親の顔すら、覚えていない。
 しかし……少年は辛くなかった。貧しいがここの生活に不自由はなく、他の子供達もいる、寂しくもない。
 そして何より、叶えたい『夢』があった。

「やっぱり、そこにいたんだな。俺にはすぐに分かったぜ」

 星空を眺める、少年の目の前に現れたのは、少年と同年代の、茶髪の男子だった。

「相変わらず、ここから見る星空は、いいな。よく二人で星を眺めて、いつか、この惑星を出て宇宙を周りたいと、そんな話をしていたよな」

 そんな風に、彼は熱く語る。
 一方少年は、そんな彼の顔を横目に、素っ気なく言った。

「……君も来ていたんですね、ライ」

 ライ――それはこの男子に対する、愛称だった。
 すると、やや苦笑いを見せながらライは続ける。

「知っているだろ? 俺は明日、ここから出て行くんだ。何しろある企業が、将来の就職を条件に、高校までの面倒を見てくれるそうなんだ」

 それを聞いた少年は、軽く呆れてため息をつく。

「それって、大丈夫なんですか? 就職を条件に会社が面倒を見るだなんて、色々と怪しくはありませんか?」

 ライは愉快そうに、笑みを見せる。

「その辺りは大丈夫さ。院長さんのお墨付きだし、それに……聞いた所だと将来の仕事は、宇宙輸送業務らしい。宇宙船に乗って、星から星へと積み荷を運ぶ仕事だ、一足先に夢が叶いそうだ」

「……」

 すると少年は再び空に目を向け、沈黙する。
 
 

 地上から形を捉えられるくらいに、はるか上空を飛行する大型の宇宙船が見える。
 あの平たい四角形型の船は、恐らく巨大輸送船の類だろうか――。そう少年は考えた。

「おい、聞いているのか?」 

 ライの言葉に、少年は我に返る。

「……ええ」

 しかし、相変わらず、心は上の空の様子な少年だった。

「全く、どうしたんだよ? 一体何が不満なんだ?」

 少年はフッと、吐息を付く。

「いいえ、何でもないですよ。……と、言いたいですけど」

 そして寂しげな表情を見せて、こう続ける。

「……やっぱり、ここから居なくなるのは寂しいですし、そして、悔しいです。僕より先に夢を叶えることが」

 ライは少し、はっとした様子を見せる。
 ――が、突然ニッと笑って、少年の顔をいきなり覗き込んできた。

「わっ!」

「ハハハっ! 何拗ねているんだ!」 

「……驚かせないで下さいよ」

 突然驚かされたせいか、頬を少し膨らませる少年と、相変わらず笑っているライ。

「どうして、そう笑っていられるのですか?」

 その問に、彼は答える。

「だってさ、別にこれが永遠の別れってわけじゃ、ないだろ。それだったらお前も宇宙に出て来るといいさ」

「……えっ?」

 そんな言葉に、少年は唖然とする。

「いつか、あの空の向こうに行く夢は捨ててないだろ? 俺みたいに輸送業じゃなくったって、その手段は幾らでもあるんだ。その時になったらまた、こうして並んで、星でも眺めようぜ。
 まぁ……その時には互いに、どんな星を見たって珍しくないだろうが……それでもきっと、いい景色なのは変わらないだろ」

 いつになるか分からないが、きっと叶うと信じている様子のライ。
 少年はポカンとしていた。が、ライの調子につられてクスりと笑う。

「……ふふっ。いつ叶うか分かりもしないのに、よくそこまで自信満々に……」

「はっ! ようやく笑ってくれたな。だけど、当の本人がその様子じゃいけないな。叶うか、じゃなくて、叶うと信じなきゃ」

 笑いかけるライ、そして彼に少年は微笑み返す。
 空は相変わらずの、星空模様……。
 いつか、何処かの惑星で再会し、再び星空を眺める日が来る。
 ――――それはまた、別の話となる。

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