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12話「敵はお前か」

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「えーと...何処へ行きましょうか。私、旅の経験があるので大概の場所なら案内できますが......」

 ライフはなぜ旅の経験あるのか、なんて野暮なことは聞かない。この世界には知らない方が幸せなことなんて星の数ほどあるし、その質問は今すべきことでないことだけは明確であった。

 この娘は......何を知っているのか。それはもう少しの間、彼女の宝箱に閉まっておくのが最善であろう。

 だが、それでもブラフを掛ける余地はある。彼女は味方か、それとも───

「そうだな...聖都とかどうだ?ここから近いだろう?」

「聖都...ですか?神都ではなく?」

 ───彼は内心、ほくそ笑む。

「ああ、そうだったそうだった。神都だったな。間違えたよ」

「もしかしてライフ様、地理には疎いのですか?でしたら私が教えて差し上げますが......」

「大丈夫、今回は偶々だ。というか、俺は内輪でも地理は得意な方でな。心配するな」

 ああ、認めよう。彼女は─────敵だ。

「ところでメラ、カーネーションは好きか?」

「カーネーション......あの赤いお花ですか?はい、綺麗で好きですけれど......」

 その花言葉は、軽蔑。

▼▲

「さてぇ、人の王ぅ?何かぁ弁明はあるかしらぁ?」

 そこは血の海だった。ただ一つの慈悲もなく、無惨にも切り裂かれた死体が幾重にも重なり、至るところに溢れるピンクの臓物は哀しく転げるのみを許された。

「......貴様、正気か?あの馬鹿どもを一人残らず殺すだと?」

 国王の顔はいつになくやつれ、疲れか絶望か、いずれにせよロクな理由ではない。
 震える唇で紡ぐ言葉に感情が乗っておらず、まるで生をなくした亡者の戯言のよう。

「我が神に誓ってぇ、絶対順守されるぅ、確定事項なのですぅ~」

「狂ってやがる......」

 恍惚とした表情で語る女にそう吐き捨てると、袖に隠していた短刀で己の喉を迷いなく一突き──できず、その腕は女とは思えない腕力で止められる。

「自殺ではぁ、神の御元に辿り着けませんわぁ。やるなら四肢をもいでぇ、首を跳ねてぇ、家畜たちに食べさせなきゃぁ~。命はぁ、巡るのですよぉ?」

 可憐な瞳に狂気的な光を灯し、絶望を刈り取る姿はまさに死神。王の周りで無感情にそれらを見つめる無数の体温をなくした人形達が囁く。

『王も早く此方へ来ては如何ですかな?』
『はははっ、シャルティは強情だからな。でも、こっちは楽しいぞぉ?』
『あなた、ここの景色は綺麗ですよ。お花畑や海、森林や王都に似た町並みもございますわ』
『パパー、もう一度一緒に遊ぼうよー!』

 もちろん、そんなものが聞こえる訳はない。何故なら彼らは既に死んでおり、命燃やさぬ脱け殻では存在することさえおこがましい。
 だが、そんな肉片でも。この状態の国王を決壊させるには十分すぎる幻覚だった。

「ぁぁ、ぁあぁぁ......」

「続きは輪廻の果てで、踊りなさい、道化」

 その日、国王の首が宙を舞った。
 それが何を意味するのか。

 つまるところ───王都は、崩壊したのだった。
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