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下の口
しおりを挟むとある病院。
肛門科の診察室にて、医師と二人の患者が向き合っていた。
「受けの尻穴から声がするんです。俺が『下のお口で咥えて』とか『下のお口は素直だよ』とか、そんな呼称を繰り返していたばかりに……っ! 俺のせいだっ。本当に『下の口』が喋り出すなんて、これっぽっちも望んでいなかったのに……先生、どうすれば良いのでしょうか?!」
「ちがっ、違うんです、攻めは悪くない! 僕が……、僕が攻めの言葉責めに興奮しすぎたから……ッ! つい、心の中で『もっと下の口を詰ってほしい』なんて願ってしまったから……っ!」
診察室に響き渡る、受けの悲痛な叫び。
患者は今にも顔を覆って泣き出しそうな様子であったが、白衣を着たお爺ちゃん先生はこの状況を冷静に受け止め、手元のカルテをペン先でトントンと叩いた。
「大丈夫ですよ。攻めさん、受けさん、まずは落ち着いて。おふたりは夫夫ですね?」
「はい、そうです……」
「なるほど、なるほど。これは、過剰な言葉責めによる直腸の言語学習反応……いわゆる『発声門』の形成ですね。医学的には『括約筋性言語表出症候群』と呼ばれています」
「そんな病名があるんですか!?」
病名がついているとは思いもしていなかった攻めは、驚いて叫んだ。
他にも同じような症例があるのは救いだが、どう考えても奇病の類いだ。
まさか不治の病ではあるまいな。
沈痛な面持ちで震える受けの肩を、攻めは何度も摩った。慰めると同時に、攻めも気が動転して落ち着いていられないのだ。
「俺が、毎日……毎晩、『下の口は欲しいって言ってる』とか『下の口でおねだりしてごらん』なんて教え込んだからか……? さ、さっき風呂場で……」
「……『……もっと……』って」
受けは顔を真っ赤にして、もじもじと股間を抑えながら告白した。
「僕の意思じゃないんです。お尻の、その、穴が……勝手に、ヒクヒクして……『もっと、攻め様を挿れてぇ……』なんて、誘うような声を出すんです……ッ!」
「それは大変だ」
医師は眼鏡のブリッジを指で押し上げた。
「本来、排泄を司る器官が愛の言葉を覚え、コミュニケーションを求めて独立した意思を持ち始めた。これは非常に希少な症例ですが、治療法は一つしかありません」
攻めと受けはハッと顔を上げ、身を乗り出す。
「どうすれば治るんですか!?」
「上の……本物の口で、下の口が発する以上の『本心』を伝え続けることです。下の口が『もう僕が喋る必要はないな』と満足するまで、徹底的に」
2人は顔を見合わせた。
長い時間を共にするうちに、言葉にして伝えることが疎かになっていた。
その事実に、今さらながら気付かされたのだ。
攻めは思わず受けの腰を抱き寄せた。
だが、受けも負けじと攻めに身を寄せると、優しく頬を撫で、キスを捧げる。
「攻め……、好きだよ。ずっと、今も昔も変わらず、君が好き」
「俺もだよ。だから、責任を持って上も下も、受けが喋れなくなるくらい愛すから、覚悟して」
その瞬間。
受けのズボンの後ろあたりから、微かに、だがはっきりと。
「好き過ぎて、切ない……。足りない、もっと身体に分からせて……?」
切望に満ちた、甘い吐息のような声が漏れ聞こえた。
「処置室はあちらです。どうぞ、ごゆっくり」
別室へ移動する2人。
医師は無言で処置室の「使用中」ランプを点灯させた。
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