砂の塔

ぱんぶどう

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 また何度目かの乾季がやって来た。
 乾燥した空気が肌を乾かし太陽が焦がすように照りつける。私たちのキャラバンは一度ウルの町で待機する事となった。近くの砂漠で別の行商隊が嵐に巻き込まれたと言う情報が入ったのだ。少しの間この街に止まりついでに何か目ぼしい物も仕入れようと言う目論見もあった。
 少しの暇をもらい私はニムロドの元を訪れることにした。最後にニムロドに会ったのはこの街の外れにある集落であった。そこは肌の病気を持つものや、酒に溺れたもの、落伍者達の町であった。その頃の彼は酒に溺れ、生気を失っているようであった。あのようなことがあったのだから無理は無いと思ったが荒々しくも勇敢な狩人であった彼の姿を知っているだけに辛いものがあった。
 ひと月程前、行商者の仲間からニムロドが町の中に住み始めたと言う話を聞いた。それのみを頼りに私は彼の元を訪れた。久々にあった私を認めると彼は快く招き入れてくれた。彼の頬は昔と比べると痩せ少しぎらぎらとした荒々しさも無くなったように見えた。私たちは昔の話に花を咲かせ酒を飲んだ。酔いが回る頃ニムロドがぽつぽつとあの夜の話をし始めた。
「あの夜、長老達が俺の塔を見に来たあの夜に夢を見たんだ」彼は酔っていたが目は真っ直ぐと一点を見つめていた。
「夢の中で声がした。『ニムロド、お前はどこにいるのか。』と。俺は必死で答えた。『しもべはここにいます。どうぞお話しください。』すると声が返した。『ニムロド、ニムロドよ。お前は何をしたのか。お前の行為によって民達は混乱し、戸惑っている。古くからいたもの達は新しい考えに戸惑い、否定し、裁き、帰って来たもの達や新しいもの達は古いものをないがしろにしている。双方がいがみ合い、傷つけあい、苦しんでいる。両方からの叫びと祈りが私の元に届いた。あなたの行為によりすべての民が苦しんでいる。』『お言葉ですが』と俺は言った。『お言葉ですが、あなたは私が祈った時に私の前に現れて救ってくれませんでした。若者達がこの土地を離れて行ってしまった時も、余所者達がこの土地を蹂躙しようとした時もあなたはそばにおらず、私が呻き、叫ぶことすらできない苦しみの中で祈った時にもあなたは沈黙し見て見ぬ振りをしていました。だから私は塔を建てたのです。あなたに気がついてもらえるように。私たちが、民達があなたのことを忘れないように。そして民が再び一つになるように願って。高く高く。』」ニムロドは酒を飲みながら言った。彼の瞳には涙が浮かんでいた。
「『ああニムロドよ』と声が言った。『ニムロドよ。なんという間違いをしたのか。私は願えば全てを叶えるが時に人はそれを理解しない。全てのものに時がある。あなたの願いは聞き入れられていた。私は沈黙していたのではない。まして見て見ぬ振りをしていたのではない。あなたが苦しんでいる時、そばにいてともに苦しんでいたのにあなたは気がつかなかったのか。私はともにいてあなたが倒れそうな時は地面とあなたの間に入りあなたの頭が地面に落ちないようにし、崩れてしまいそうな時はあなたを支えていたのにあなたの目は、心はそこから背けられていた。あなたは民を一つにしようとしたが私はこの民を散り散りにする。それが唯一の道だ。風が吹いて全ての民が一つとなるその時がくるまで。』」彼は嗚咽した。まるで子どもが親の前で泣くかのように。まるで叫びだ。と私は思った。一人の男が生まれ落ちた悲しみを知ったが如き咆哮。いや、産声と言うべきであろうか。喋ることもままならないほどの叫びを数分続けた後彼は口を開いた。
「最後に、あの声が言ったんだ。その言葉が耳を離れない。」私は彼の言葉を待った。彼が自分との決着をつけるのを待ったのだ。一人の男が自分の運命と決着をつけるのを待ったのだ。きっとそれは必要なのだと思った。彼と言う一人の人間にとって。英雄としての彼ではなく弱さを持った彼にとって。きっとその言葉は私には理解できないのであろう。しかし彼にとってはそれは重要な真理なのであろう。そしてその瞬間は思っていたよりも早く訪れた。
「『さあ、起きて目覚めなさい。あなたが高く高く積み上げた砂の塔は今自らの重さで崩れさった。』」
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