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14・イアマの街
しおりを挟む馬車がすれ違える程に広い石畳。
街の中を流れる川の曲線、その周りには深い緑が道々に陰を落とし、赤い屋根と白い石壁に統一された街並みを美しく際立てている。
そんな日本とは違う街並みを、オールアウト力尽きたした俺は門番が持ってきた荷車に荷物にくと共に乗せられ大通りをゴトゴト運ばれている。
口髭のおっさんとイケメンは早々に何処かへ行ってしまい、捕虜の男は門番が連行していった。
あの男、最後まで俺を睨んでたな…まぁ、恨まれても仕方がないけど…。
今は小柄な男の子が先導し、馬が荷車を引いている。常に肉と共に運ばれてる様な気がする・・・
(だが、脚は限界だし正直助かる。明日は筋肉痛来るなコレ!)
明日来るであろう筋肉痛を想い、ニヤニヤしている俺を不思議そうな顔で見る金髪の少女。
少女は相変わらず荷車に腰掛けている。
荷車の横では緑眼の娘がテンション高めで始終何かを話しながら付いてきている。
おそらくは街の説明をしてくれているのだろうが、全く解らない。悪いのでウンウンと相槌だけは打っておく。
何度か角を曲りながら重厚感が溢れる大きな建物に着いた。入り口には深緑に鳥のシンボルが描かれている、おそらく彼等の拠点なんだろう。
「Χαι Τοουτιακου!」
はいっ到着!
脚に力が全く入らず転がる様に荷車から降りると小柄な男の子が困った顔して俺を見ている。
ははーん、俺をどう運ぶかで悩んでるな?
「あぁ…歩けないけど、動けない訳じゃない。大丈夫だよ、ほら!」
昔はよくこうやって逆立ちしながら公園の階段を上り下りしたものだ。
うん…周りに若干引かれるのも変わらないな。
ドン引きしている男の子と、はしゃぐ緑眼の娘。
金髪の少女は眠そうに…いや寝てるなアレは。
無事に街に来れた事となんだかほのぼのとした雰囲気に、俺はすっかり安心していた。
・・・・俺はちゃんと考えるべきだった。
救助してくれたとはいえ、彼等は本当に『善人いいひと』なのか?
簡単に信用して良かったのかを…
冷たい地面には申し訳程度の藁が敷かれ、無数に擦れた跡が残る板壁。
獣臭が残る小屋で、俺は左右から両腕を押さえ付けられる。
「や、やめろ…やめてくれっ!」
普段なら振り払う事も出来ただろうが、今の俺は下半身に全く力が入らない。
「頼むッ!頼むよ・・・・やめてくれッ!」
顔が熱い、身体中から汗が吹き出しベトベトだ。
俺は泣きそうになりながら必死に懇願するが、緑眼の娘は容赦無く詰め寄った。
「Ιικαρ Σονο Χανασσαι!」
いいからっ その手を 離しなさいッ!
「アッーーーーーッ!!」
「まったく!ちゃんと脱がなきゃ洗えないでしょう!」
クリミアは彼の衣服を剥ぎ取ると次々とアレスに向かって放り投げる。
「うっわ、やめてくださ…臭ッ!これ人の臭いじゃ無いですよ!?」
「いいから洗濯お願いね!」
「・・・・・うへぇ~」
アレスは鼻を摘みながら、馬小屋にあった干し草用のフォークを使って衣服を運んでいった。
両手で顔を覆い全裸で咽び泣く彼に、クリミアは容赦無く水をぶっかける。
孤児院で姉貴肌だったクリミアが、毎回泥だらけで帰ってくる弟達を洗うのは別に特別な事では無い。手慣れた様子でゴシゴシと馬用のブラシで背中を擦り出した。
「えーと、前は自分で洗ってくれるかな?」
◇
「ウグゥ…っはぁ、はぁ」
薄暗い石壁に閉ざされた狭い部屋。
殴り過ぎて折れた棒が何本も転がっている。
後ろ手に嵌められた手錠の鎖は、体が痙攣する度ガチャガチャ揺れる。
「だからッ 俺は何も…知らん」
あれから五日、王国北部の山岳都市イアマを治めるニーガン辺境伯はビエルの報告を聞くとすぐに自らの軍を派遣し王都から来た調査団と共に調査を開始した。だが国境線は長く調査には時間がかかっていた。
王都にあるドライゼ城でも王国東部の防衛を担当するジョンム将軍筆頭に数日に渡り軍議を開くが情報が少な過ぎて対策どころか現状すら把握出来ない有様だった。
「どうだ、何か話したか?」
「あ、ビエル団長!いえ、まだ何も…」
「…そうか、仕方がない。ここからは先生に頼む、お前達は外に出ていてくれ」
門番達は次々に出て行き、部屋にはビエルと白衣の男、パカレー兵の三人となった。
「誰が来ても一緒だ・・・俺は 何も知らん」
(これだけ痛め付けられても話さんとは…兵士の鏡だな)
同じ兵士として尊敬の念すら浮かぶ…が、今は少しでも情報が必要だ。
「あぁ、自己紹介しておくめう。私は魔法学園で教鞭を取っているトレイン。別に君を拷問するつもりは無いし、何かを聞きたいとも思ってないめう」
白衣の袖を捲りながらトレインは静かに語る。
「・・・・・」
ビエルは扉近くの椅子にドカッと座り腕組みして目を閉じる。
「何か話したい事が出てきたら…そこに座っている男に言えばいいめう」
トレインはガラス瓶や計測器など、ごちゃごちゃと様々な道具を所狭しと机に並べてゆく。
「魔法を使う為に必要な物は知ってるめう?
魔力と知識。魔力は多ければ多い程魔法の威力は上がるめうね、水球ウォーターボール」
トレインは兵士のすぐ目の前に赤子の拳程の小さな水球を生み出した。
「鍛えればある程度は増えるが、元々持った素質に左右されるのが魔力めう。私は魔力が少なく水球もこの大きさが限度めう」
ーーーー何だ?何を言ってる?
「だが、知識は違がうめう!」
「知る事に限度は無いめう!」
「知識はイメージをより繊細にするめう!」
「詳細なイメージを持つことで魔法制御は格段に上がるめぅ!」
黄ばんだ水の球は兵士の前でクルクルと回り出す。
ーーーー喉が…渇く…
「水球の水は何処から来るか知ってるめうか?術者の魔力を水に変換しているめう」
ーーーー唇がひび割れ…血が滲む…
「だが、この水球はおまえの体内から抽出した水分で出来てるめぅ」
ーーーーッ!?
「魔法制御を極限まで突き詰めた結果がコレめう!私はこれを同期コネクトと名付けためう」
回る水球の隣にもう一個水球が現れ、クルクルと周りだす。
ーーーー全身から力が抜け、吐きそうになる
・・・・・もう一個
ーーーー目が霞み、手足が震える。
・・・・・もう一個
ーーーー頭が割れ…る
「生徒達を使った実験では水球2個で頭痛や吐き気、最高でも4個で失神してしまっためう…」
「や…やめ…ろ…」
「だが、日頃から鍛えてる他国の兵士は何個までいけるめうか?6個?8個?10個?」
トレインは楽しそうに両手を広げて言った。
「さぁッ、授業を始めようッ!!」
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