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32・氷雪暴風
しおりを挟むーーーテメェは絶対ぶっ飛ばすッ!
(あかん…完全にキレとる…)
ここまで激怒したバルトを見るのはいつぶりだろう、今はアルマの声もきっとバルトの耳には入らない。一度こうなってしまったらバルトの気がある程度収まるまで好きにさせるしか無い事をアルマは経験上知っていた。
「まぁまぁ、落ち着きなよ。あの時、俺は人と話してる途中だったろう?しかもそれは君の仲間だ」
「うるせぇ、死ねッ!風撃エアハンマー!」
「危なッ!」
バルトが放った魔法を既の所すんでのところで躱した筋肉はこっちに向かって手の平を向ける。身体が大きなせいか迫力が凄い!
……くっ、何やのこの歴戦の勇者感、まるで死地を何度もくぐってきた様な…。
「おいっ、「死ね」は無いだろ!? このクレーマー野郎!人が穏便に済ませようって思って言ってるのに!…これ以上は俺も容赦はしないぞ?」
「ハッ、どうせ魔法は撃てねぇんだろ?やってみろよ!」
そうだ…噂ではあの筋肉は魔力量こそ化け物級だが一切の魔法が使えない…って話やった。最近まで言葉も話せない状態だったらしい事から噂の信憑性は高いと思っとったけど…。
ーーー喰らえッ筋肉魔法トルネード!
突如両手を広げグルグルとその場で回転を始める筋肉。そしてに徐おもむろに回転しながら上半身を倒すと右手で砂を掬い投げる!続けて左手!右手!
「うぶっ、ペッペッ…ただ砂掛けただけじゃねぇか!」
「見縊みくびるなよ?ただの砂も俺の筋力で飛ばせばーーその衝撃は弾丸に等しい!」
コマの様な回転は徐々にスピードを上げ、砂は散弾の様にバルトとアルマに降り注いだ。
ーーーザバッザバザバザバッ!
「痛っ、ぶへっ、地味に痛い!?……口に入る!もう前向いてられへん!」
バチバチと襲いかかる砂粒と小石、顔や防具の無い所に当たると結構痛い!
(うぅ…一見ふざけた攻撃やけど…砂煙で視界と呼吸を制限されて魔法詠唱が出来へん!? これを狙ったんか?)
ーーーザバッザバッ・・・ザッ・・・・・?ーー止まった?
だんだんと晴れてゆく砂煙の向こう側に、両手を地面につけグッタリしている筋肉が見えてくる。
「…ちょっ……待った…酔ったわ…ウプッ」
「……な、何がしてぇんだテメェは! 舐めやがって、ぶっ殺す!」
「自滅?…な、何ちゅうふざけた攻撃っ!?」
側から見れば人をおちょくった様な攻撃だが、何故かアルマの頭の中ではさっきから警鐘が鳴りっぱなしだ。
何せ身体一つで空を飛んで土壁アースウォールを破壊する様な筋肉だ、その思考はこれまでアルマが対峙したどんな敵ともかけ離れ過ぎていて次に何をするのか全く予測が出来ない!
(おかしい…いくら何でもふざけすぎとる。こんなんでウチらがやられる訳が……ハッまさか…)
「バルトッ!ジョルクや!ジョルクの攻撃が来る!!」
「あぁ!? チッ、そうかっ時間稼ぎかッ!」
(あの筋肉は自分に注目を集めてジョルクの詠唱の遅さをカバーしてるんや!そうはさせへんでっ!)
「バルト、合わせてやっ!混合魔法氷雪爆風アイスブラスト!」
「おうッ!」
流石は上位部隊、長い時間を共に戦ってきたチームの連携力はピカイチだ。怒りで我を忘れていた筈のバルトもアルマの声にすぐ反応する。狙うはジョルクが隠れるあのシールド!
(この混合魔法はウチの作り出す氷の粒をバルトの暴風で飛ばす魔法。畝うねりながら吹き荒れる暴風に混ざった鋭利な氷はあらゆる物体を削り取る!
腕輪で効果は半減とはいえ、支えの無いシールドの足場ごと吹き飛ばすくらいの威力はあるんや!隠れとるジョルクごと吹き飛ばしたるわっ!)
氷雪暴風アイスブラストーー例えるなら、大量の刃物が入った竜巻が襲って来る様なものだ。渦巻く暴風の中に混じる鋭く小さな氷の粒が光に反射しギラギラと輝いた。
最上大業物と言われる日本刀、その鋭利な刃物の輝きは凶器でありながら見る人に感動を与えると言う…。
だが、二人の放った氷雪爆風アイスブラストの輝きは違う!言うなればそれは大型の掘削機、人を切り裂くと言う行為は同じ筈なのに、与えられた作業を淡々とこなす無機質な機械の鈍い輝きには一切の感動は無いーーそこに存在あるのは単純な恐怖だ。
ーーードゴゴゴォォッーー!!
まともに暴風を喰らったシールドが切り揉み状に吹き飛んだ!
もしもシールドがしっかりと地面に固定されていたならば、無数の氷刃に削られボロボロに破壊されたに違い無い。
ーーーガランガランッ!
転がるシールドの表面には夥おびただしい傷が付き、所々は欠けてしまっている。流石にこの威力では隠れていたジョルクも無事では済まない………。
「…………は?ーーー誰もおらんやんけっ!」
しかし、暴風に吹き飛んだシールドの裏は既にもぬけの殻だった…。
◇
ウップ…横回転しすぎて具合悪くなった、そういえば俺は乗り物酔いするタイプなんだった。体質って異世界こっちに来ても変わらないんだな…。この筋肉魔法トルネードは危険過ぎる!…封印しよう。
揺れ過ぎ、狂った三半規管を休めながらバルト達が放つ氷雪暴風アイスブラストを検分する。
成る程あれは確かに凄そうだ…あの場に俺が居たとしても二人を庇えたかどうかは分からない。
(でもいくら強力な攻撃だとしても、残念ながら其処にはもうジョルクもヨイチョも居ないんだよ!)
俺がドームへ突っ込んだタイミングで二人は逃亡を開始している。今頃はヘルム達と合流している筈だ。そもそもだ……ジョルクの索敵魔法があれば敵に会わぬルートで拠点に戻るのは簡単な事なのだ。
ーーーガサガサッ
「居たっス!あそこっ!間に合ったっす!」
「ようバルト!苦戦中か?後は俺達に任せとけ!」
遂に林の中からロッシとユーシスが現れた。
位置的には俺を頂点としたV字、せめて前後に挟まれる形ならば同士討ちも狙えたのに。
他勢に無勢、筋肉魔法は封印、シールド無し、もう攻撃役ジョルクは居ないーー。
(状況は最悪………いや狙い通り、とは言えないが……まだ許容範囲内だ)
ーーー俺の筋肉はまだ冷めちゃいない!さぁもう一踏ん張りだ!
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