筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果

kuron

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36・終結

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「どわぁぁあ!?」

ーーーバッシャーン!

 予期せぬ地面の喪失、受け身も取れずに顔面から落ちた先は池だった。その直後、俺の背面をガリガリと削りながら過ぎてゆく氷雪暴風アイスブラスト。

ーーーまさに危機一髪!

 後頭部が妙に涼しいのは水に落ちて濡れたせいだよな?危機は一髪いっぱつである事を信じて後頭部に恐る恐る手を伸ばす。

(ほっ、大丈夫ーーちゃんとフサフサしてたわ。脱がなくても確認出来る程に兜は削れちゃってるけど…)

「こ、ここは…うわったっ」

ーーージャバンッ!

 立ち上がり歩き出す足が何かに引っ掛かり転倒する。もう、これだけ水に浸かったのなら今日は水浴びしなくて良さそうだな、水分補給もバッチリだ。

「ゲホッゴホッ…多分…此処が作戦の最終地点だ…」

 明らかに最近作られたたであろう人工的な池と池底の草を結んだ罠に俺は確信する。
 当初の予定では最初に作った塹壕まで俺が敵を誘き寄せる筈だったのだが、恐らくヘルムが場所を変更したのだろう。
 正直助かった、塹壕まではとても無理だった。最初は「俺なら魔法は完璧に魔法無効レジスト出来る!」と思い込んでいたからなぁ。適当にやられた振りして塹壕まで連れて来るなんて楽勝と思っていたのに…腕輪コイツのせいで、えらく手こずった。

 ザバッザバッっと足元の罠に気を付けながら池の真ん中程まで来た俺は、冷たい水の中に膝を落とし座り込んだ。

「あ~ちょっと簡単に考え過ぎてたな….」

 でもまぁ、後は此処で俺の名札を取りにヤツらが来るのを待って、ナルの雷魔法で一網打尽っと…

・・・・あれ?待てよ…

 これは俺が魔法を魔法無効レジスト出来る前提で練った作戦だ。腕輪を二つも装備した今の俺は…

「ヤバい、魔法無効レジスト出来ない!」

 ーーこ、このまま作戦を続行すれば俺もビリビリしちゃうじゃないかっ!? 


 折角ここまで来たのに今更作戦をふいには出来ない。物理的な攻撃なら俺の鍛え上げた筋肉で何とかなりそう? だけど電撃は…無理だろうなぁ。いっそ名札だけ此処に置いて逃げちゃうのは!……ダメだよなぁ。
 もう、この機会を逃せば勝機は無くなってしまいそうだし…うーん。

 そうこう悩んでいるうちにバルト達の声が近付いて来た。

(くっ、腕輪の事はヨイチョ達も知ってるんだし、何とかしてくれるだろう! いや、待てよ…腕輪コレしてたら俺も回復魔法を受ける事が出来るんじゃないか?それなら最悪の事態は回避出来そうだな)

 以前、「回復魔法を魔法無効レジストするのはやめてくれ!」とアレスに怒られた事があった。
 あの時はどうして良いかサッパリ分からず、俺が魔力操作を出来る様になれば魔法無効レジストのon offを切り替えられる様になるんじゃないか?だから早く魔法覚えろっ!っ話で終わったんだが…こんな簡単な方法があったとは!
 これで筋トレ時に多少無理して筋肉断裂とかしちゃってもアレスに治して貰えるな!

 一安心ひとあんしんした所で俺は池の真ん中で気絶したフリを開始する。追ってきた四人全員が漏れなく池に入ってくれると良いのだが…。
 因みに誰かが代表で名札を取りに来るパターンも想定済みで、その時はジョルクの風魔法で池に叩き落としてもらう予定である。

「石弾丸ストーンパレット!」

 不意にガツンと頭に衝撃が走る!

ーーー痛ッ!?

 俺が本当に気絶してるか確かめたのだろう、思わず声が出る所だった。堪えた俺偉い!
 そして…やった奴、ユルサナイ!

 一発で気が済んだのか、ジャブジャブと複数人が此方へ向かって来る音がする。
 何だかドッキリの仕掛け人みたいになってきたなと思いながらニヤケそうになる顔を必死で堪え気絶したフリをする。

「ひゃっはー!「名札」は早い者勝ちっスよ~」
「あ? テメェそういう事かっ!ふざけんな!」


ーーーうわっ、これは辛いッ!

(ヒャッハーだと?一体どこの世紀末民族が来たんだよ!?)

 口の中で下唇を噛み締め、込み上げる笑いを堪える。全く、笑ってはいけない時に限ってツボに入るのは何故なんだろうか?

 そして遂に一人が名札を奪おうと俺の後ろ首に手を掛けた。気取られ無い様、僅かに顎を引きネックレス型の名札を顎と首に挟み込んだ。

「う~ん? 取れ無いっス!」

 雷魔法の詠唱は複雑だと聞いている、なるべく時間を稼がなきゃならない。あんまり顎に力を入れるとバレそうだな、これは意外と力加減が難しい…。

ーーーその時、焦る女の声が響いた。

「あ、あかんッ!これは罠や!」

 おっと、気付かれた!流石、女の勘ってやつかな。まぁ明白あからさまっちゃ明白あからさまではあるのだけれど。
 だけど気付かれた所で素直に逃がす訳には行かないんだよね。

「チッ、時間が無いっ!おいロッシ、この水を凍らせろっ、足場を固めて穴の外まで走る!」
「そ、それっス!流石バルトっ」


「残念…逃がさねぇよ?」

 俺は正面に立っていたバルトの両足を水中で掴むと思い切り引っ張り掬い倒した。そのままバルトの胴体を両足を使いカニバサミで捕らえる。
 そして、背後に居たヤツの襟首とバルトの隣の男の手首をしっかり捕まえた。

 逃げ様とする三人をしっかりと拘束しながら空に広がる雷雲を眺める。バリバリと蠢く紫電はまるで生き物の様だ。

(う~、早く落ちて欲しい気持ちと、出来れば落ちて欲しくない気持ちの葛藤が凄い!感電って嫌なんだよなぁ)

 電気は何故あんなにも人を不快にさせるのだろうか? 例えば冬場の静電気、パチンと一瞬の出来事だし正直痛みのレベルだって低いのに…もう二度と金属製品には触りたくなくなる。
 これからそれの何万倍の電気を浴びる事を考えると恐怖でしかない。が、俺はもう覚悟を決めた!

「お、お前も逃げないと巻き込まれるっスよ!ここは一先ず協力して…苦しっ、苦しいっス!」

 ジタバタと暴れ何とか逃げ様とするバルト達、だが逃がす訳がないだろう…。

「巻き込まれる?…そうかもしれないな。だけどそれはお前達を離してやる理由にはならないわ…」


ーーーそして遂に空から閃光が池に向かって突き刺さる!

 眩い光に目が眩む、と同時に轟音ッ!

「うおっ!耳がッ!?」

 耳鳴りで何も聞こえ無い、まるで 時が止まったかの様な世界。無数の光が線となり、見えない迷路をジグザグと駆け抜けては瞬く間に消滅していった。

 何だかとても幻想的な物を見た様な気がして暫く頭がボーッとしていたが、ふと周りを見ると、力無く口から泡を噴いたバルト達が半分池に沈んでいた。

「うおっ!溺れちゃう!? 誰かー、手伝ってぇ!」

 慌ててバルト達を引き上げてると、池に駆け寄ってきたヨイチョ達がまるで狐に摘まれたような顔で上から覗き込んでいるのが見えた。


「な、ななな何でもう動いてるんだもん!?」
「あはは…よ、良かったじゃない…」
「なぁ?言ったろ、兄貴は大丈夫だってよぉ!」
「あれは人ですか…本当に?」


 えっ?…そういえば、何で俺平気なんだ??
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