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40・変化
しおりを挟むあれから3日、ジョルクの索敵魔法を使って他の分隊をなるべく避けながら森を踏破して行く。
どうしても戦闘が避けられない場面でもジョルクは以前の様に一人で突っ込んで行く事は無くなり、事前に仲間俺に相談するにまで成長した。後はヘルムが夜の見張り時間以外にも戦略模擬板ゲームを誘って来るので少々寝不足気味だって事以外は初日の戦闘が嘘の様に順調だ。ヘルムもあの日から少しずつ変わってきた様な気がする。
「おや?ナル、何処へ行くのですか? 御一緒しても…」
「だ、だだだ駄目だもん!ヘルムの変態っ!」
これまで、人との関わりを意図的に避けていたヘルムが積極的に声を掛ける様になったのだ。
「あぁ成る程…排泄ですね! 恥ずかしがる事はありません。うん、それは確かに重要だ…今後は排泄の時間も考慮しなければ! 排泄を我慢するあまり作戦に集中出来ない様な事は避けなければなりませんからね」
「ひいッ、つ、ついて来るなだもんッ!!」
「兄貴、ヘルムに何を言ったんだ…なぁ?」
「あはは…何だか 最近、違うよね?…前と…」
どうやらヘルムは熱中するとトコトン突き詰めるタイプらしく、最近では人間観察に余念が無い。作戦も仲・間・の・特・性・をちゃんと考慮した物が多くなり、それに伴い成功率はグンと上がった。
良い兆候だが、女の子のトイレに付いていっちゃ駄目だろう…。
「ん?…兄貴っ、この先に一分隊居るぜ!」
「お?じゃあ迂回するか」
あれから2回程戦闘をこなしてはいるのだが、落とし穴や待ち伏せなど、ジョルクの鳥瞰視点ちょうかんしてん魔法を軸とした罠を使った奇襲がメインだ。
「うちの分隊は詠唱時間が長い人スロースターターばかりですからね、まともに撃ち合うと負けますよ」
ジョルクもナルも即発動する攻撃魔法が使えない。だから成るべく戦闘を回避するか、罠に嵌めて詠唱時間を確保する必要がある。
しかもこちらには攻撃魔法士がこの二人しかいない。防御だって俺一人しか居らず土壁アースウォールと違い一度に全員を守る事は難しい。
他の分隊に比べて圧倒的にバランスが悪い為、真っ向勝負では分が悪いのだ。
「……いや、あの辺りは川と斜面に挟まれた一本道っぽいな、迂回するとかなりの時間ロスになりそうだぜ、なぁ」
ジョルクの索敵魔法は付近の地形まで確認出来るんだから凄い。これを今までサーチandデストロイの為だけに使って、しかも全て返り討ちに合っていたとか…勿体無いの極みだ。
「まだ向こうはこっちに気付いて無いんだろ? 暫く休憩兼ねてやり過ごすか…ヘルムどうだ?」
「…そうですね……やり過ごすか、手前に罠を張って誘き寄せるか…相手次第ですが、五人全員を罠に嵌めるのは厳しいと思いますね。誰かみたいに何も考えずに突っ込んで来てくるなら楽なんですがね」
「そんな事するヤツはもういねぇよ、なぁ兄貴?」
何で俺に振るんだよっ! それじゃまるで俺が今まで突っ込んで行ってた奴みたいじゃないか…。
「まぁいいや…じゃあ、此処で休憩がてら穴罠掘るぞ!あと出来れば偵察頼みたい、ヨイチョ頼む」
「わかったよ、ちょっと見て来るね」
ヨイチョもジョルクよりは範囲は狭いが捜索魔法持ちだ、それに一番持ってくる情報が信頼出来る。ジョルクだと「確かに何人か居たぜ、早速やろうぜなぁ!」と、何の情報も得られず終わる可能性が有るからな…。
「な、ななナルは?ナルはどうするもん?」
「ナルはヘルムと川で魚を採ってきてくれないか? そろそろ昼飯時だし、ジョルクは俺と穴掘りな?」
「食材の調達ですね、いいでしょう。十匹は捕らなければなりませんね、いや、今のうちに燻製にして保存食を確保しておいた方が良いですかね? この先の道は川沿いばかりではないでしょうし…ナルっ、さぁ行きますよ!」
「うぅ、最近のヘルムは何か苦手なんだもん…」
ナルはグイグイ来るヘルムに若干苦手意識があるらしいが… まだ人付き合いの経験が浅く距離感が分からないだけで本人に悪気は無いんだ、堪えてくれ…。
◇
さて、今回の落とし穴は深さが2mで幅は1.5m程のお一人様用を複数用意させて頂きました。勿論、穴が何処にあるか分からない様にカムフラージュは完璧、内壁は脆く簡単にはよじ登る事が出来ない仕様になっております。
因みに落とし穴の場所には目印として赤い花が置いてある。この花は木に咲く花なので通常地上には落ちる事は無い。
今までは広めの落とし穴に何人か纏めて落とし、上から魔法で一網打尽にしてきた。だが、この穴の狭さなら魔法を使え無い俺でも対処出来る。例えば土を埋め戻して生き埋めにするとか…いや勿論、窒息しない様に首くらいは外に出すよ?
「しかし、皆んな面白い様に落とし穴に落ちるけど…こっちじゃあまり使わないのか?」
「あぁ、普通は大きな獣を捕まえる時に使うけど…人用の落とし穴ってのはあまり見た事はねぇなぁ」
人は3メートルの高さからの墜落で50%が死ぬらしい。子供でも作る事が出来る程シンプルでありながら、落とし穴は対人にもかなり有効な罠だ。魔法の撃ち合いがメインの戦闘では、ゲリラ戦みたいなのはあまり無いのかもしれないが、穴の深さを調節すれば捕獲も殺傷も思いのままだ。
こんな便利な罠は、今回みたいな森や山のフィールドではかなり有用なので俺はガンガン使わせて貰おう。
罠作りを終え一休みしていると、川からナルとヘルムが沢山の魚を持って戻って来るのが見えた。
「す、凄く、たた沢山獲れたんだもん!」
「ふふん、前の作戦と同じく川にナルの雷魔法を落としたら沢山獲れましたよ」
少し自慢げなヘルムが魚が集まるポイントや、どの様に魚を獲ったかを意気揚々と話す傍らで、俺達三人は大量の魚を捌いてゆく。
そうして周りに燻製の良い匂いが漂い始めた頃、偵察に行っていたヨイチョが戻って来た。
「お疲れヨイチョ、どうたった?」
「ちょっとまずいね…相手はギュスタン分隊だ」
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