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44・魔法士殺し【ウィザードキラー】
しおりを挟む2つの太陽が真上に登り足元の影が消える、灼熱という程では無いが日中で一番暑い時間帯だ。
ここへ来て暫く経つが、この世界に四季はあるのだろうか? あるとしたならば、間違いなく今が夏だ。
(真昼の決闘か、何か昔の映画でそんなのあったな…)
確かあれは西部劇だったか…保安官が四人の悪党と闘う話、まるで今の俺みたいだ。
「兄貴、俺も一緒にやってやるぜ、なぁ!」
「駄目です、これはあくまで貴族同士の決闘です。代理人でも無い平民の貴方が入るとややこしくなるのでやめて下さい」
「でも、いくら何でも一人で五人は…流石に無理じゃないかな?」
普通に考えれば無茶振りも良いとこだ。だけど四人を守りながら正面切って戦うよりは俺的に楽だな。
「そういえば、貴族同士の決闘って戦略模擬板ゲームとかじゃ駄目なのか?あれならヘルム一人で五人抜きとか楽勝なんじゃ…」
何か貴族がチェスとかのゲームで決闘してた映画も観た事があった様なーー。
「…あ、相手は明らかに此方を下に見ています。貴方が魔法無効レジスト出来る事を知らない、もしくは過小評価している可能性が高いですね。今が好機でしょう」
「もしもし? ヘルム様聞いてます?」
「……なんです?私がそんな手を思い付か無いとでも?……アレは…時間、そうっ、時間が掛かり過ぎるから却下したんですよ! そもそも貴方には魔法無効レジストがあるのですから恐る事など何も無い筈でしょう?」
そう、俺には能力チートがあるからな、相手の攻撃を躱す必要すらない。「走って行って殴る」これだけでいいなんて、我ながら恐ろしい能力だ….まさに魔法士殺しウィザードキラー!
おっ、自分で言っててなんだが、中々カッコイイな! 俺の二つ名はコレにしてもらおう。
「ククッ、あの様な醜悪な身体を持つ豚はさっさと西に送り返すべきじゃないか?」
「西のミュースか、確かにお似合いだな!」
貴族様サイドは想像通りではあるが、隙あらば此方に精神攻撃を放ってくるのな。社交会とか絶対行きたくないな俺…ヘルムが仮病使ってでもパーティー行かなかった訳が分かるわ。
「ひ、ひ酷い事言ってるんだもん!」
「アイツら、兄貴はただの豚じゃ無いって事を知らねぇからなぁ!」
「え、醜悪な身体って俺の事なの!? …いや、それよりジョルクお前、俺の事豚だと思ってんの!?」
「何だよ兄貴、褒め言葉だぜ、なぁ?」
ほ、褒め言葉?…た、確かに豚は結構筋肉質ではあるけれど…ちっとも嬉しくねぇな!
しかし、西のミュースねぇ…神に捨てられし混沌の土地だっけ?
ーーーこの世界では、魔力とは生物が生まれる時に神が与えてくれる物神の祝福と信じられている。
魔力量が極端に少ない子は先祖や前世で神を裏切る行為を働いたからだとされ、「忌子」として幼い頃に捨てられたり、殺されたりする事が殆どだ。また、運良く生き残ったとしても、彼等の多くは犯罪集団に属し窃盗、誘拐、殺人、麻薬販売などに手を染める事から人々からは嫌悪の対象となっている。
そんな魔力が少ない「間抜け魔抜け」が最終的に逃げ込む地が「神に捨てられし地ミュース」だ。
オニール大陸は大きく4つの領地に分けられる。
北のナルボヌ帝国、東のパカレー共和国、南のサーシゥ王国、そして神に捨てられし地ミュース。
オニール大陸西に位置するミュースには現在、多種多様な種族が大小それぞれ独自の国家を形成し、まるで戦国時代の様に常に争いが行われている。
ミュースには神が居ないが故に、「神の祝福」を受ける事が出来ない。よって、この地の者には間抜け魔抜けが多い。
過去にはミュースを治める神が居たらしいが、数千年前に起こった神同士の争いの後からその姿を現す事は無くなった。それ以降はこの地を治め様とする神は現れず「神に捨てられた地」と呼ばれる様になり他国からの嘲罵の対象となっていた。
ーーー驚く事にこの世界では神は実在する。
俺はまだ会った事は無いが、特別な祭祀などを行う時に見る事が出来るとの事。普段は神殿の奥に居られるらしい。
サーシゥ王国の神が俺を召喚したかどうかは分からないが、何かを知っている可能性が高いのでいずれ会ってみたいとは思っているんだよなぁ。
◇
「ふんっ、準備は良いか? 後が支つかえているからな、サッサと始めるぞ!」
大した作戦は無いが、ヘルムから「貴族は面子を重んじる傾向があります。あまりに一方的に倒すと毒を盛られる可能性もありますので…」とありがたいアドバイスを貰っている。
走って行って一発殴って終わりの簡単なお仕事だと思ったのに…なんて面倒臭いんだっ!
(仕方ない…最初に一発貰ってからなら向こうの面子も立つだろう…)
「ふんっ、せめてもの情けだ。喜べ、最初の一撃はお前に譲ってやろう」
ハッハッハ、そう来たか!・・・・・どうしよう?
最初の一撃で間違い無くぶっ飛ぶよ?俺の拳にはその軽鎧に付与した防御魔法無効化しちゃうんだから…それに一発貰う予定をどうしたら良いんだ? 毒殺待った無し?
助けを求めてヘルムを見るが露骨に目を逸らされた!
「どうした?この俺が慈悲を与えてやっているのだぞ?」
(はぁ~、仕方ない。取り敢えず毒は後回しだ、毒も無効レジスト出来たりしないかなぁ)
俺は一つ大き目の溜息を吐くと手に持っていたボロボロのシールドを脇道に投げ置いた。相手の魔法を喰らう予定が無くなったのでもう俺には必要無いからな。同じ理由で軽鎧も外していく。
貴族様が何か言っているが、説明した所で理解出来るとは思えないので無視だ。
「来ないなら…俺から行くぞ?」
どうやら貴族様はせっかちらしい、初撃を譲る話はどこにいったのか? 貴族様が詠唱を始めると両手に赤い魔力の塊が具現化し出す。
(威嚇射撃で近くの地面とか爆破されると、石とか飛んできて痛そうだな)
急いで残りのシャツとズボンを脱ぐ、このシャツとズボンはこの世界で貰ったものだ。着替えの無い俺を哀れに思ったのか、カイルがお下がりをくれたのだ。それを太腿の太い俺用にクリミアが直してくれたズボンが3着程ある。生地は綿100%の様なゴワゴワ感がありストレッチ性が少ないものの、作りはしっかりしている。
本当は5着貰ったのだが、「…太腿の所…要らない…」と小学生でも履かない様な短パンにしやがったヤツが居るのでそっちは寝間着用にした。
こんな短い短パン履いてるヤツ、「パワー!!」って叫ぶ芸人しか俺は知らない。
伸縮しないシャツに悪戦苦闘しながらも、やっと上半身が露わになり俺の立派な大胸筋をお披露目した所で貴族様が叫んだ。
「お、おい…待てっ! 貴様っ、何故下着まで脱ぐ!?」
怯えの混じった顔で驚愕している貴族様は、夜道でバッタリ変質者に出会ってしまった女性の様な目でこちらを見ている。
心配しなくとも、パンツまでは脱ぐ予定は無いわっ!
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