筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果

kuron

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 貴族にとって決闘とは一種のエンターテイメントである。勿論、当事者では無く観客にとってはではあるが。

 俺達はギュスタンがあの男を嬲る様を茶を片手に鑑賞し、互いの見解を述べ、議論、そして考察、さらに後悔に泣き叫ぶ平民を観て愉しむ筈だった。

 最初は此方の思惑通りだった、初めての決闘に怯え戸惑う男には気品も威厳も無く実に滑稽であったし、急に軽鎧を脱ぎ出した時などはアルバが茶を吹き咽せる程笑った。
 茶を吹き出すなど夜会では白い目で見られる行為だが、まぁここにはレディも居ないからな、見なかった事にしてやろう。

 ところがだ、あの男が下着まで脱ぎ出した頃から雰囲気がおかしくなってきた。

「な、何と言う身体だ。母上の身体とは全然違うではないかっ!?」

 アルバが悲鳴にも似た声を上げる。

 身体の大きな唯の豚だと思って見ていたが… ブヨブヨした醜い弛たるみも無く、張り詰めた肌に、はち切れんばかりに詰まった筋肉!!
 男は着痩せするのか、脱いだ方が一回り大きく見えた。

「…す、素晴らしい…」

 思わず漏れた言葉に慌てて口を手で押さえる。周りを見渡すが誰にも気付かれ無かったようだ。

 幼少の頃から、人より小柄な事を揶揄われ続けたサイラスは成長するにつれ、大きな物や動物に憧れ的な感情を抱く様になっていった。実家にはお気に入りの大きな馬が2頭おり、サイラスはこの馬に乗ってる時が一番楽しかった。勿論、それは他者を物理的に見下す事が出来るからである。
 そんな彼が人一倍どころか、二倍くらいある男を見て、立場を忘れ思わず感嘆を洩らしてしまうのは仕方がないだろう。

(あ、危なかった…こんな事を聞かれては何を吹聴されるか分かったもんじゃない。…しかし、あの身体は凄いな…)

 一般市民10人よりも巨大な赤熊の1匹の方が強い、だからこそ人は罠や作戦などを必死に考える。それでも勝率は100%では無い。
 過去には一個中隊を壊滅させた巨大な龍の報告だってあるのだ。勿論例外も有るが、自然界において大きさとは力である。

「ククッ、確かに大きな身体だが魔法は撃てないんだろう? 『中身の無い大木は脆い』、直ぐに終わるかもしれんな…ギュスタンに5.000ニルス」
「おいおい、あの男に賭ける奴など居らぬだろうに…同じくギュスタンに5.000ニルスだ!」

 次々とギュスタンにベットされてゆくのを聞きながら、サイラスにはあの男に賭けてみたい欲求がムラムラと湧き上がる。

(いかん駄目だ、ここは俺もギュスタンに賭けて勝負自体を流してしまうのが正解か…)

「勿論…俺もギュスタンだ。賭けにならんな?」
「おいミード、大穴に賭けてみないか?」
「冗談だろ?いくら何でも溝ドブに金を流す様な事はしないさ」

 賭けが流れた所であちらの事態が動いた。男が隙を突き一直線にギュスタンに向かって突進して行ったのだ!

「ははっ見ろっ!何と突進とはなっ!やはり魔法が使え無い噂は本当だった様だ」
「あれでは良い的だ、やはりギュスタンの圧勝だな」
「クククッもう終わりか、次は誰が行くんだ?」

 ギュスタンの爆破魔法は爆破の射程にさえ入ってしまえば直接当たらなくとも効果は絶大だ。対処するには射程外からの攻撃、もしくは土壁アースウォールなどでの防御が必須だがシールドも軽鎧も捨てた男に何か出来ようか。

『爆破ブラストッ!』

(まさか正面切っての特攻とは…期待外れだったな)

 やはりこの程度の大きさでは魔力重視社会である人の世には通用しないのか…

(寧ろ、的が大きな分不利でしかない…)

 男の周囲を覆った爆炎と爆煙を一瞥すると、サイラスは少しでも昂ってしまった自分の心を恥じ、それを誤魔化す様に茶を注いだ。
 だが次の瞬間、周りが驚き騒ついた。

『うおぉらぁあっ!』

 男が爆煙の中から怒声と共に飛び出すとギュスタンに切迫したのだ!

「なんと!…あのギュスタンが外したのか?」
「あの距離で?あり得ん!」

『クッ、爆破ブラストォッ!』

 あわや両者衝突するかと思われた瞬間、ギュスタンは咄嗟に自分の足元へと魔法を放ち二人の周りに爆炎と爆風が吹き荒れる。
 ギュスタンが少し後方までゴロゴロと吹き飛ばされるのが見える。

「なんと!爆風で距離を取ったのか!」

 何という強引な回避方法だ、魔力の加減を少しでも間違えば自分の足が吹き飛ぶ可能性だって有るのに…この判断力と行動力、流石ギュスタンだ、とても真似できん!

「おぉ…あんな顔したギュスタンは初めて見るな…」
「ま、まぁ平民にしては中々面白かったが、やはり華が無いな?決闘ならばもっと互いの魔法をだなーー」
「ククク、その大層な講釈は実践で見せて欲しいものだなアルバ?」

「良いとも!このアルバ様が決闘の見本を見せてやる! まぁ…あの至近距離でギュスタンの爆破魔法を喰らったあの男がまだ立てるならば…だがね?」
「ククッ安心しろ、ちゃんと治してやるさ?この俺がな」
「……マルベルド、いくら君でも手足が無くなってたら無理じゃないか?」

(確かに…ギュスタンも無傷とは言えないが、あの至近距離での爆発だ…今度こそ終わった、終わってしまったか…)

何だと言うのだこの気持ちは…まるで祭りの花火が終わってしまったかの様な寂寥感。俺はどこかであの男がギュスタンを圧倒するのを期待していたとでも?

「お、おいっ!見ろ、煙が晴れるぞ!」

 皆の予想に反して、爆煙の揺らぎから出てきたのはゴツい背中と腕の膨らみをアピールする様なポーズを取る男だった。

『筋肉魔法バック・ダブルバイセップス!俺が一番信用している広背筋にお前の魔法は効かない!』


ーーーな、な何だとっ!?

 男の日に焼けた褐色の大きな背中には、傷一つ付いてはいなかった。
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