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62・人形創作者【パペットクリエイター】
しおりを挟む「そうさ、何たって僕は人形創作者だからね!」
ーー人形創作者ーー
それは愛玩用、実験用、劇用など様々な場面で使われる人形の創作を生業とする者達である。
人形は貴族の家に生まれた女性ならば幼少期に必ず持っていると言っても良い程馴染み深い物だ。サイラスも不本意ながら幼少期にバクスから貰った覚えがある…確かあれはまだ実家に有る筈だ。
一部の腕の良い人形創作者が造り出す人形の中には目の飛び出る様な高額で取引される物も有ると聞く。また義足などの創作者として名を馳せる人形創作者も居る。
この様に貴族間では人形創作者は割と認知度が高い職種ではあるが、人を材料にする創作者など聞いた事が無い!
ーーミチミチッブチッ
男は取れた義足の肉を裂きながら地面から無理矢理引き剥がす。
「ん~、立つだけなら何とかなるかな?」
「イケル!イケル!ナオス!」
そんな事を言いながら男は義足の損傷具合を確認し、傷口に指を突っ込んでグチュグチュ中を掻き回す。
ーーーゲェッゲェ!
そうして右手に装着したマペットの口からドロッとした赤黒い固形物を吐き出させるとそれを開いた傷口に詰めてゆく。
「よし!修理完了!やっぱり僕は天才だと思わない?」
男は直した義足を乱暴に縫いつけ装着すると具合を確かめる様に立ち上がる。が、力が入らないのかガクガクと膝が揺れ傷口からは先程詰めた赤黒い物が溢れ出す。だが、そんな事はまるで気にも留めず男は満足そうに右足を見ながら何度も頷いている。
「ところで…お前、罠猟の経験はある?」
「……何、罠猟?」
男が魔力を込めたその長い左腕を空高く掲げると、付近一帯の地面に無数の魔法陣が浮かび上がったーーその数は何と十を越える!
「魔法陣が…こんなにっ!?」
恐らくは先程と同じ罠が周辺に幾重にも張り巡らされていた事にサイラスは驚愕する。
「知らなかった?罠ってのは沢山仕掛けとくものなのさ!」
「オマエ!ニゲル!フカノウ!」
全ての罠を一斉に発動されたなら付近一帯の地面は弾け散る!そうなればサイラスは疎か、隠れているヘルムやユニスも只では済まない!
(いや、発動前に全ての魔法陣に傷を付ければ! ーー駄目だ、広範囲に土槍を落とすには魔力が足りない…)
あの時、男に向かって声を掛けずに背後から攻撃してしまえば良かった、頭上に土槍を落とす時に躊躇すべきでは無かった。
覚悟の差がサイラスを窮地に追い込んだのだ。
「チッ!考えろ…何か手は無いか」
嗜虐性の高いあの男が罠を一斉に発動するだろうか?否、きっと単発で発動させ逃げ惑う俺をいたぶるに違いない。
それにヤツは死体が必要みたいだ、ならば全てを一度に瓦礫の下に埋める様な事はしないだろう。
(罠の発動が同時じゃないなら…躱し様はある!)
ーー次々と発動する罠を回避し続ける、それは想像するより容易い事では無い。
…ジョルクの様な身体能力と体力が有れば可能だろうか?もしくはギュスタンの爆破魔法を使えれば全ての魔法陣に傷を付ける事が出来るかもしれない。では、どちらも持ち得ないサイラスはどうすれば良いか…。
「さぁさぁ、お前はどんな台詞で僕を楽しませてくれるのかなぁ!」
◇
ーー男が魔力を込めて長い腕を振り下ろす!
サイラスのほぼ真下に設置された罠が発動!
周囲に筍の様に突き出す土槍!
そして地面はその残酷な口を閉じるッ!
ーーバクンッ!!
「一つ!」
サイラスは迫る土槍に収納を使い、逃げ道を確保すると背後へ飛んだ。そして着地と同時に直ぐに川に向かって走り出した!
「ほらほら、もっと速く逃げなきゃ捕まえちゃうよ?」
「ギャハハ!ニゲロ!モット!」
走る先の地面に土槍が生える!
が、サイラスは罠が発動する寸前、土槍を一つ解放しそれを地面に突き刺した!
そしてその土槍を掴むと強引に身体を右へと方向を転換する。
ーーーバクンッ!!
「二つ!」
「残念!罠はそっちにも有るんだな」
直ぐ様、別の魔法陣が発動!盛り上がる地面に足を取られ体制を崩すがゴロリと転がる事で魔法陣の範囲から脱出する。
ーーバクンッ!!
「ハァハァーーみ、三つ!」
サイラスは危なげながらも発動する罠から何とか逃れて行く。そんな姿を楽しげに眺める男は上機嫌だ。
「頑張るお前にプレゼント!今度は二つ同時だよー!」
「ホラ!ガンバレ!ガンバレ!」
「クッ、収納!ーーか、解放!!」
死と生を分けるギリギリの回避は体力は勿論、精神の消耗が半端無い。
ーーガッン!!
「ーー痛ッ!!あがぁぁぁ!!」
ーー遂に、一つの顎がサイラスを捉えた!
いや、正確に言えばサイラスは自らの魔法で負傷したのだ。
顎が閉じる寸前、逃れる時間を稼ごうと複数の土槍を突っ張り棒の様に解放したサイラス、結果それが裏目に出た。
確かに時間は稼げたがそれは僅か数秒、自ら解放した土槍の鋭利な刃がサイラス左手首を切断してしまったのだ!
「やったっ!!ーーおや、まだ諦めてないの?その必死な表情堪らないね!」
「ギャハハ!ヒッシスギ!ウケル!」
「グ…ハァハァーー6・7…」
「オイ!ソロソロ!シトメロヨ!」
「分かってるよ!次で仕留めるさ!」
軽く無い傷を負い、走り回り肩で息をしながらも未だ諦める様子が無いサイラスに男は次第に焦燥感に駆られてゆく、それと同時に確かな違和感を感じ始めていた。
走る速度が速い訳じゃ無い、魔法も使ってはいるが…無数に張り巡らされた罠をーーあんなに躱し続ける事が出来るものだろうか?と…。
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