筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果

kuron

文字の大きさ
97 / 287

97・援護射撃

しおりを挟む

(ーー取り敢えず、私はこの子達とここで待機かな、団長が行ったなら私達が行くのは邪魔にしかならないしね~)

 付近には敵はもう居ない様だし、見習い二人の魔力も限界に近いだろう。これから撤退する事も視野に入れクリミアはこの場で待機する事を選んだ。

ーーただ、先程男が言った言葉が頭から離れない。

「…………赤ん坊かぁ」
「ーーまさか、あんな嘘を信じてるのか? その場凌ぎの出鱈目にすぎないと思うがーー」

 確かにギュスタンが言うのが正しいのだろう。しかし、突拍子が無さすぎて逆に気になるのだーーあの状況で果たしてこんなおかしな嘘を付くものだろうか?

 もし本当だったら?……モヤモヤする胸を押さえ考え込む。そんなクリミアを見てジョルクは大丈夫だと胸を張る。

「なぁクリミアさん、あそこには兄貴が居るんだ、もし誰かが助けを求めてるならーーきっと兄貴が助ける筈だぜ!」




 ~集落倉庫前~

「ま、また凄いの作ったな……あれどうすんの?」

 ナルの魔力を消費させる事は上手くいきそうだけどーーあれはちょっと…………一撃に殺意込め過ぎじゃない? それにあんな魔法使ったら集落ごと無くなるんじゃないかな……と言う事はーー。

「ーーやべえ、あれ止めないとナルが死ぬ! いや、俺も、何ならジョルク達も危ない! アイツ人の身体だと思って無茶苦茶やりやがるな!」

ーー兎に角魔法をキャンセルさせないと!

 思い立ったら即行動! 俺は先程の様にロープを左右に振る事で足払いを狙う。

「ぬぐぅっ」

ーー振れなかった。 

 バトルロープを使った連続した運動が俺の筋肉に思った以上のダメージを与えていたのだ。特に腕は酷い、既に筋肉痛が始まっている。

「腕が動かないなら脚を使うしかないっ! どうせあれが落ちれば終わりなんだーー行くしかねぇ!」

「クルナ! クルナ! クルナ!」

 突っ込む俺に向かって人形が赤くドロッとした液体を吐き出した。

「うわっ、汚ねぇっ!!」

 思わず飛び退けるーー地面に付着したその液体はブスブスと地面を焦がし穴をあけた。

「これはーー酸か!」

「ハハハ! ジキニ エイショウガ オワル! ミンナ コワレテ シマエバ イイ!」

 時間稼ぎの為なのか、切迫詰まったのか分からないが、ここに来て急に人形本体が直接攻撃を仕掛けて来た。一人で喋ってるし、攻撃はしてくるし……アイツ、人形マペットのフリするのはもう辞めたのか?

 それは兎も角、あれが魔法で出来た【酸】ならば俺には効かないのだが、薬品を吐いてるなら不味いな。何となく理系の雰囲気がするから嫌なんだよなーあの人形……倉庫アトリエにも沢山の薬品が並んでたし…………しかし、今はそれを検証している時間は無い! 

(薬品どうこうよりも、単純に汚なそうだから触りたく無いって気持ちの方が強いけど……)

 弱気になったのがいけなかったのか、再び走り出す俺の身体が突如バランスを崩して倒れたーー踏み出した先の地面が急に陥没したのだ。
 恐らく【酸】が地中で周囲を溶かし続けているのだろう。

「クソッ! お前の唾液どんだけ強力なんだよっ!」

 表面に出てこない穴ーーまるで落とし穴だ。迂闊に踏み抜けばまた転倒してしまう、底に溜まった酸が足に付けば走れ無くなるかもしれない……これってもしかして俺が落とし穴掘り過ぎた呪い? 今まで落ちた奴等が急にこぞって俺を呪ってるんじゃないだろうな……もしそうならタイミング最悪なんですけど!?

「ーー水球ウォーターボールっ!」

 不意にナルの顔を水球が包み込む。

「ごぼっがぼっ!?」

 空気を求め必死に水を払うナルだが水球はそう簡単には離れない! 勿論、呼吸が出来なければ詠唱も中断するしかない。

「ダレダ! ジャマ! スルノハ!」




「はぁはぁーーま、間に合った! ナルは僕が止めるッ。だからアイツを……あの人形を!」

 ナルの背後から現れたのは、森を駆け抜けてきた所為であちこち傷を負い、息を切らしたヨイチョだった。

「ヨ、ヨイチョ!? 何でここに……いや、そうだな、そんな事言ってる場合じゃないよなーーよしっ、あの人形野郎は俺に任せとけ!」

 流石に催眠状態のナルも水中では詠唱を続ける事は出来無い、だがこのまま時間が経てば窒息死してしまう。

 これは時間との勝負だーー俺は脚に力を入れると一直線にナルへと向かって駆け出した!

 俺は、あの人形が吐き出す【酸】を躱しながら詰めるよりも己の筋肉を信じ、多少の被弾覚悟で最短距離を突っ走る事に賭けた。

 サバゲー系の動画で見た事があるのだが、実はジグザグ走りは100m以上距離がある狙撃に対しては有効だが、それ以下なら普通にダッシュした方が被弾は少いらしい。
 勿論これは相手から遠ざかる逃げるのが前提であって、俺の様に相手に向かって行く場合どうなるのかはーーそういえば、やって無かったわ……。

 まぁ要は、相手の攻撃よりも速く攻撃してしまえば良いのだーーどうせ今は走るしか手は無いのだからやるしかない!

 相手人形も多少の事じゃ俺が止まらないと分かっているのか、執拗に目元ばかりを狙ってきやがる! 分かってるじゃないか、眼球は鍛えられないからな。

「クソ! マホウ サエ ハツドウ シテシマエバ!」

 俺を狙っても埒があかないと考えたのか、人形はグルリとその頭を回転させると反対に居るヨイチョへと標的を変えた。

「しまった! アイツ、ヨイチョに向かってーー」

 ナルの背後から現れたヨイチョは、当然俺との距離があるーー庇う事が出来無い!

「うぉぉお! 間に合ぇえッ!」

ーーパーンッ!

 その時、遠くで乾いた音が響くと同時にーー人形の頭が仰け反った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...