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97・援護射撃
しおりを挟む(ーー取り敢えず、私はこの子達とここで待機かな、団長が行ったなら私達が行くのは邪魔にしかならないしね~)
付近には敵はもう居ない様だし、見習い二人の魔力も限界に近いだろう。これから撤退する事も視野に入れクリミアはこの場で待機する事を選んだ。
ーーただ、先程男が言った言葉が頭から離れない。
「…………赤ん坊かぁ」
「ーーまさか、あんな嘘を信じてるのか? その場凌ぎの出鱈目にすぎないと思うがーー」
確かにギュスタンが言うのが正しいのだろう。しかし、突拍子が無さすぎて逆に気になるのだーーあの状況で果たしてこんなおかしな嘘を付くものだろうか?
もし本当だったら?……モヤモヤする胸を押さえ考え込む。そんなクリミアを見てジョルクは大丈夫だと胸を張る。
「なぁクリミアさん、あそこには兄貴が居るんだ、もし誰かが助けを求めてるならーーきっと兄貴が助ける筈だぜ!」
◇
~集落倉庫前~
「ま、また凄いの作ったな……あれどうすんの?」
ナルの魔力を消費させる事は上手くいきそうだけどーーあれはちょっと…………一撃に殺意込め過ぎじゃない? それにあんな魔法使ったら集落ごと無くなるんじゃないかな……と言う事はーー。
「ーーやべえ、あれ止めないとナルが死ぬ! いや、俺も、何ならジョルク達も危ない! アイツ人の身体だと思って無茶苦茶やりやがるな!」
ーー兎に角魔法をキャンセルさせないと!
思い立ったら即行動! 俺は先程の様にロープを左右に振る事で足払いを狙う。
「ぬぐぅっ」
ーー振れなかった。
バトルロープを使った連続した運動が俺の筋肉に思った以上のダメージを与えていたのだ。特に腕は酷い、既に筋肉痛が始まっている。
「腕が動かないなら脚を使うしかないっ! どうせあれが落ちれば終わりなんだーー行くしかねぇ!」
「クルナ! クルナ! クルナ!」
突っ込む俺に向かって人形が赤くドロッとした液体を吐き出した。
「うわっ、汚ねぇっ!!」
思わず飛び退けるーー地面に付着したその液体はブスブスと地面を焦がし穴をあけた。
「これはーー酸か!」
「ハハハ! ジキニ エイショウガ オワル! ミンナ コワレテ シマエバ イイ!」
時間稼ぎの為なのか、切迫詰まったのか分からないが、ここに来て急に人形本体が直接攻撃を仕掛けて来た。一人で喋ってるし、攻撃はしてくるし……アイツ、人形のフリするのはもう辞めたのか?
それは兎も角、あれが魔法で出来た【酸】ならば俺には効かないのだが、薬品を吐いてるなら不味いな。何となく理系の雰囲気がするから嫌なんだよなーあの人形……倉庫にも沢山の薬品が並んでたし…………しかし、今はそれを検証している時間は無い!
(薬品どうこうよりも、単純に汚なそうだから触りたく無いって気持ちの方が強いけど……)
弱気になったのがいけなかったのか、再び走り出す俺の身体が突如バランスを崩して倒れたーー踏み出した先の地面が急に陥没したのだ。
恐らく【酸】が地中で周囲を溶かし続けているのだろう。
「クソッ! お前の唾液どんだけ強力なんだよっ!」
表面に出てこない穴ーーまるで落とし穴だ。迂闊に踏み抜けばまた転倒してしまう、底に溜まった酸が足に付けば走れ無くなるかもしれない……これってもしかして俺が落とし穴掘り過ぎた呪い? 今まで落ちた奴等が急にこぞって俺を呪ってるんじゃないだろうな……もしそうならタイミング最悪なんですけど!?
「ーー水球っ!」
不意にナルの顔を水球が包み込む。
「ごぼっがぼっ!?」
空気を求め必死に水を払うナルだが水球はそう簡単には離れない! 勿論、呼吸が出来なければ詠唱も中断するしかない。
「ダレダ! ジャマ! スルノハ!」
◇
「はぁはぁーーま、間に合った! ナルは僕が止めるッ。だからアイツを……あの人形を!」
ナルの背後から現れたのは、森を駆け抜けてきた所為であちこち傷を負い、息を切らしたヨイチョだった。
「ヨ、ヨイチョ!? 何でここに……いや、そうだな、そんな事言ってる場合じゃないよなーーよしっ、あの人形野郎は俺に任せとけ!」
流石に催眠状態のナルも水中では詠唱を続ける事は出来無い、だがこのまま時間が経てば窒息死してしまう。
これは時間との勝負だーー俺は脚に力を入れると一直線にナルへと向かって駆け出した!
俺は、あの人形が吐き出す【酸】を躱しながら詰めるよりも己の筋肉を信じ、多少の被弾覚悟で最短距離を突っ走る事に賭けた。
サバゲー系の動画で見た事があるのだが、実はジグザグ走りは100m以上距離がある狙撃に対しては有効だが、それ以下なら普通にダッシュした方が被弾は少いらしい。
勿論これは相手から遠ざかるのが前提であって、俺の様に相手に向かって行く場合どうなるのかはーーそういえば、やって無かったわ……。
まぁ要は、相手の攻撃よりも速く攻撃してしまえば良いのだーーどうせ今は走るしか手は無いのだからやるしかない!
相手も多少の事じゃ俺が止まらないと分かっているのか、執拗に目元ばかりを狙ってきやがる! 分かってるじゃないか、眼球は鍛えられないからな。
「クソ! マホウ サエ ハツドウ シテシマエバ!」
俺を狙っても埒があかないと考えたのか、人形はグルリとその頭を回転させると反対に居るヨイチョへと標的を変えた。
「しまった! アイツ、ヨイチョに向かってーー」
ナルの背後から現れたヨイチョは、当然俺との距離があるーー庇う事が出来無い!
「うぉぉお! 間に合ぇえッ!」
ーーパーンッ!
その時、遠くで乾いた音が響くと同時にーー人形の頭が仰け反った。
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