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108・vs. 磁力魔法士
しおりを挟む黒棘は俺の肌に触れた途端にその勢いを無くしパラパラと床へと落ちてゆく。魔法なんて俺には効かないからダメージは勿論ゼロなんだが、それよりもーー何だこいつ……赤ん坊が居るってのに攻撃魔法を放ってきやがった!
「お前っ!? 危ねぇなーーこの子に当たったらどうするつもりだ!」
俺の怒鳴り声にギョッとして男が飛び上がる。
「何っ? お、お前ーーどうなって……」
その怒鳴り声に驚き一瞬泣き止んだ赤ん坊の頭をそっと撫でてから石棺に戻すと、俺は男を睨みつけて言った。
「ちょっとコレは見過ごせないな! 暴力は振るうわ、オッパイ出ないわ、お前は父親失格だよ!」
「ーーあぁ? うるせぇ、そいつは俺のガキじゃ無ぇし、そもそもオッパイは出る訳無ぇだろうーー男だぞ俺は!」
男は再度魔法を放つが、何度やっても同じだーー俺は向かってくる黒棘を完全無視して男に殴り掛かる!
「ーーおいおい、マジかッ!?」
まさか俺が攻撃を一切無視して突っ込んで来るとは思わなかったのだろう。呆気に取られ防御すら忘れた男の胸部に向かって拳を水平に突き出す!
「ーーお、おぉ??」
しかし拳が男に触れる瞬間、何故か明後日の方向へと身体がズレたーーと、同時に後方へと弾かれる。
「は、ははっ! ちゃんと効くじゃねぇか、何だよ焦らせやがってーーそう、俺は磁力魔法士だ、お前の攻撃は届かねぇよ」
(磁力魔法士……俺の拳が弾かれたのは磁力の『反発力』かっ!)
小手の鉄に反応したのか、あの速度を弾くなんてかなり強い磁力だな……でも、それならーー
「鎧を脱いじまえば関係無いって事だよな!」
俺は身に付けている軽鎧の一才合切を外し始めるーー軽鎧は一人で装備するのは大変だけど、脱ぐのは割と早い。
「はっ、いいね!いいね! 装備を捨てるかっ、馬鹿は嫌いじゃねぇ!」
男は俺が装備を外すのを黙って見ている、変身している時は攻撃しないって大原則を分かってるとは……さてはお前、特撮好きだな?
「ーー随分と余裕だけど良いのか? これでもうお前の磁力は俺に通じないぞ!」
パンイチになった俺は大胸筋を誇張しながら男と対峙する。何でそんなポーズとるのかって? そりゃ威嚇の為さ!
「…………全ての装備外してその余裕はイカれてるとしか思えねぇが……まぁいい、見せてやるよ!」
少し呆れた様な顔付きをしながら、男は魔法を発動する。
「ーー鉄鎧!」
地面から大量の黒い砂がザザッーっと浮かび上がると一斉に男の身体に纏わり付き出した。
「ーー磁力が通じない? はっ、関係ねぇんだわ! さぁどうだ? こんなの見た事ねぇだろ! 俺のとっておきだ!」
あっという間に真っ黒な人型が出来上がる、何というか……どっかの漫画の黒ずくめの犯人みたいだ。
「悪いけど、どことなく既視感は有る……」
「はぁ? 嘘つくんじゃねぇ! コイツは俺のオリジナル魔法だ、俺以外に誰が出来るってんだよ!」
何やら男の琴線に触れたらしい、物凄い勢いで説明し出したがーー正直どうでもいい。
「いいかーーコイツのスゲェ所はな、体に砂鉄の鎧を纏う事で物理攻撃をほぼ無効化ーー」
(はい、はい、物理攻撃無効化ね……)
俺は熱弁している男にスタスタ近寄ると右頬にバチーンと平手打ちをかます。頭を揺らされ思わず膝を付いた男は、突然のビンタに頬を押さえ、信じられないという顔をして俺を見る。
「テメェ、人が説明してやってるってのに…………だがこれで分かっただろう? 俺にはもう、お前の攻撃はーー」
「……効いてるじゃん」
張られた右頬の砂鉄がボロボロと崩れ落ち男の肌が覗くーー最初の打撃は防がれるが、俺が一度触ってしまえば砂鉄はその形状を維持できない。
って言うか、膝付いてるよね? いくら外側が硬くても脳を揺らされればダメージは通るからな。
「…………何をした? テメェ、何の魔法使いだ!」
男のプライドを傷付けたのか、驚愕と悲観と困惑が入り混じった様な目で下から見上げてくるが…………男の上目遣いはちっとも可愛く無いのな。
「ーー何の魔法使い? 強いて言うなら……今は筋肉魔法使いだな」
そう、今はだ、将来的には全魔法を修得する予定だからな。
◇
(ーー筋肉魔法だと?)
そんな魔法士は聞いた事が無ぇーーいや、待てよ。一部の獣人が使う一時的に身体能力を上げる筋力増強使いって事か?
(この兄ちゃん、獣人とのハーフか? それならこのおかしな身体付きも納得いくんだが……)
サーシゥ王国は例の戦争の後から獣人の入国にも寛大になったと聞く。昔の様に奴隷扱いは禁止され、正規の手続きを踏めば王国民として商売なんかも出来るらしいーー全く、こっちじゃ信じられねぇ待遇だ。
(そんな状況ならハーフが居てもおかしくは無ぇが、まさか騎士団にまで所属してる奴が居るとはなーー)
寛大になったとはいえ、まだまだ奴ら獣人達の地位は低いと聞いていたんだがーー王直轄の騎士団にまで入り込んでるってんなら話は別だ。
もしかして、これがサーシゥ王が共闘を拒む理由か? これだけ獣人達が入り込んでいる状況下で帝国との開戦を宣言すれば王国内部で反乱が起きてもおかしくない。騎士団の中にまで奴らが居るってんなら、反乱の制圧だって難しくなるどころか下手すりゃクーデターもあり得る。
ーーこの情報は売れるかもしれねぇな……その為には
「ーー先ずは生き残らねぇとなぁ!」
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