筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果

kuron

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111・それぞれの状況

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「ーー強化だッ! 急げ、靄は直ぐ其処まで迫って来ているぞ!!」

 ネビロス率いる第六工兵部隊はビエルの攻撃を受け、早々に正門から撤退、本部代わりに使用していた村長宅へと退避していた。

(クソっ、あの威力ではとても拠点全体を守るの事は不可能だッ!)

 味方本隊の到着を待ってビエルを挟撃するという考えは最早無理だ。そしてこの拠点を放棄し撤退すると言う考えもーー。
 靄に囲まれてしまってはもう逃げ場は無い、撤退するには決断が遅過ぎたのだ。

 残るは……何としてでも今を凌ぎ生き残る事。

(あれだけの魔法を放ったのだーー『壊滅』の魔力も尽きている筈だ)

 この場さえ凌れば、魔力の尽きた『壊滅』に一矢報いる事が出来るかもしれない。もし仮に此処で第六工兵部隊が全滅したとしても、後から来る本隊の戦闘が楽になるのであればそれで良い。

 その為にネビロスが取った行動は徹底した防御体制ーー防御が長引けば長引く程に『壊滅』はこの範囲魔法の維持と制御の為に魔力を注ぎ続けなくてはならないからだ。

 残った工兵はネビロス含め七人、拠点集落全体の防御は無理でも、この一軒家を七人でガチガチに硬め、崩れる先から補修していけばーー。

「良いか! 靄は螺旋状に迫ってきている! ここが円の中心で無い限り、四方からの同時攻撃は無い! 崩れてく壁だけに集中すれば良いのだ!」

 アッサリと自分達が強化した壁が崩され、仲間の身体が塵になるのを目の辺りにした工兵達の血の気のない顔を見てネビロスは懸命に鼓舞する。

「出来るッ! 我々ならば出来る筈だッ! あの辛かった訓練を思いだせッ!」

 しかし、工兵達は誰一人声を上げる事は無かった。ネビロスに言われるがままに粛々と壁を強化し続けるーー迫る死への緊張感を誤魔化す様に。

「ーーき、来ました! 西の壁です!」

 青い顔をした若い工兵が叫ぶ様に報告する。

「来るぞっ、準備しろ! 呼吸が続く限り詠唱するのだッ!」

 三人がかりで強化魔法を放つ、その間を残りの三人が詠唱し魔力を練るーー交互に魔法を放ち常時壁を生成強化してゆく《魔法二段打ち作戦》である。

「靄が……止まった?」
「お、おぉ! いける! いけるぞ!」

 間髪入れずに生成される土壁には黒靄も手こずる様だ。ジワリジワリと侵食してはいるが確実にスピードは落ちている。
 土壁に強化魔法を付与しながら指示を出すネビロスは此処ぞとばかりに声を張り上げた!

「ーー『壊滅』といえ所詮は一介の魔法士に過ぎない! 対して我等は七人だ、我等の力を合わせれば防げぬ攻撃など無い! いずれこの靄も効果は切れる、それまでだーーそれまで耐えるのだ!」




「マジで死ぬかと思ったぜ、こんちくしょう……」

 ヒューヒューとおかしな音を立てる肺に、骨が砕け使い物にならなくなった両腕。腰骨も折れたのか身体をまともに起こす事すら出来ない。
 口内の錆びた鉄の味は、飲んでも吐いてもひっきりなしに溢れてくる。

ーーだが、俺はまだ生きている。

 危なくあの世への階段を登りかけたゾレイだったが、土壇場で起死回生の一手を思い付く。それは赤ん坊を鉄鎧アイアンアーマーで覆い、磁力で操って地上へと放り出すという作戦だ。
 予想通り、男はゾレイを締め付けていた腕を慌てて放すと一心不乱、赤ん坊を助けに地上への梯子を登って行った。

(全く、自分のガキでも無ぇってのに執着しやがって……お陰で助かったがよぉ)

 今はまだ、戦闘時特有の高揚感と緊張感が痛みを麻痺させてはいるが、正気に戻れば激痛に一歩も動けなくなるのは予想出来た。

(やれる事は今済ましとかなきゃならねぇ)

 ゾレイは再び鉄鎧アイアンアーマーで身体を覆うーー負傷した箇所を補う為だ。

(このままだと、いずれアイツは此処に戻って来ちまう。そうなりゃ今度は確実に殺されるなーー何としても今の内に手を打っとかなきゃ……)

 鉄鎧アイアンアーマーを纏ったゾレイは、酷くぎこちない動きで梯子に手を掛ける。そうして頭だけを地上に出すと赤ん坊の位置を確認した。
 真っ黒な砂鉄に包まれた赤ん坊は彼方此方と駆け回り、それを男が追い駆けているのが見える。

「ーーよしよし、ガキはまだ捕まってねぇな?」

 黒い靄は直ぐ其処まで迫って来ているーー。

「…………そうだな、あの靄にガキを突っ込んだらアイツはどう出るかね?」




「なぁクリミアさん……言った手前なんだけどさぁ、やっぱり無理じゃーー」
「きっと大丈夫! 彼だって風魔法でドーンって飛んだんでしょ?」
「ドーンって……そんな簡単な話じゃないと思うのだが……」

 クリミアは自分の背中に氷盾アイスシールドを貼る事でジョルクの風魔法の威力を推進力だけにする事を提案ーーそのスピードでギュスタンの二連撃で出来る靄の隙間を飛び抜けようと言うのだ。

「あれは兄貴だから出来たんじゃねぇかなぁ……」

 兄貴は英雄だしーーと渋るジョルクを他所にクリミアはタイミングを見計らう。

「ーーもうっ、うだうだ煩いっ! 決心鈍るからやめてよね! 良い? 一発勝負だから、しっかりバッチリタイミング合わせてよ? ーー失敗したら毎晩枕元に立ってやるんだから!」

「ーーふん、何を言っても無駄らしい……ジョルク、しっかり合わせろよ? 俺は人が近くに居ると眠れないんだ、失敗は出来んぞ。」
「あぁ大丈夫だ、今の俺にはギュスタンに教えて貰った必殺ポーズがあるからなぁ! いつでも素早く魔法を撃てるぜ! ……でも俺、クリミアさんが毎晩枕元に居るのも悪くねぇと思うんだけどなぁ」

 ーーギュスタンは爆破魔法にいつも以上の魔力を込める、少しでも爆風が靄を払う様にと。

 ーージョルクは即座に魔法を放てる必殺ポーズを考える、0.1秒の誤差がクリミアの生死を別けるのだから。

「ーー行くよ!」

 クリミアは靄に向かって駆け出した!
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