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125・観察
しおりを挟む「あれがトップの分隊……ちょっとお腹痛くなってきたーー」
あの川辺から拠点を目指して二日目、ジョルクの索敵をフル活用した俺達は全ての敵分隊を避けるステルス行軍で、とうとう目標であった拠点エリアが一望出来る場所まで辿り着いた。
川を渡り、崖を降り、藪を掻き分けーー道無き道の行軍は大変ではあったが、小柄で非力なナルが居なかったお陰で割と順調に来れた。
勿論、ナルが足手纏いだったと言ってる訳では無いが、予定より到着が早かったのは事実だーーナルは歩幅が狭いからなぁ。
そんな訳で、俺達は休憩がてら先人分隊の拠点攻略をコッソリと観察させてもらっている最中なんだけどーーいくら防衛側が有利とはいえ、思ってた以上に難易度が高い!
分隊長であるイリスって女の子も、例え俺がこの肉体美を以って迫っても、キャーキャーと逃げ惑うか弱い感じには一切見え無いーー寧ろあれは、大事な所に蹴りでも入れてきそうなタイプだ。
「ヨイチョの嘘付き……」
「え、何か言った?」
「別に……」
まぁ、俺だってそんな作戦で楽に拠点が取れるなんて思って無かったさ、同じキャーキャー言われるなら悲鳴より歓声のが良いしな。
「兄貴……残念だったなぁ」
「うるせー! 別に楽しみにしてた訳じゃないしっ! それよか、あれどうやって攻略するんだよ……」
全体を見ていたから解る事だが、あのヒースってヤツの作戦は決して悪いものじゃなかった。
まず最初に三人の魔法士が大量の氷柱を同時に撃つ事で正面に注意を引きつけた。
恐らく、狙いは俺達がナル奪還の時にやった陽動ーーだが、規模が違う。
あれだけ大量の氷柱……土壁と違い守る範囲が狭い俺にはあの攻撃を防ぐ手段が無いーーきっと、分隊に何人かの犠牲は出るだろうな。
だが、イリス分隊は違ったーーまるでこの氷の攻撃が分かっていたかの様に正面に陣取っていたのは炎の魔法士だ。蒼天を突く様な大きな火柱が現れると氷柱を次々に溶かしてゆくーー三人の魔法士が放つ範囲魔法が、たった一発の火柱に防がれた!
だがそれは想定済みのだった様で、ヒースはその光景を大して気にもせず次の準備を進めてゆく。
「見て、氷結空間で溶けた氷を再凍結してる! ……あれで氷の道を作ったんだ!」
「それだけじゃ無いですよ、漂う水蒸気をも凍らせて視界を悪くしている様ですね」
「キラキラしてんのはそれかぁ! 眩しそうだよなぁ、アレ」
三人の魔法士は出来上がった氷の道を素早く滑走しながら見張り台がある建物へと切迫する。
しかし、その道の先にはいつの間にか土壁が設置されていた。
「目眩しが仇になりましたね」
「あの視界とスピードじゃ、土壁が急に目の前に現れた様に見えるだろうなぁ!」
霧の中で急に障害物に出くわした場合、止まるか避けるかの二択だがーー速度の乗った滑走は止まれないだろうから逃げ場は空中への一択だろうな。
俺達の予想通り、ヒース達三人は速度を殺す事無く跳躍した。
「やっぱり飛んだね! あのまま建物に突っ込む気だよ!」
「ーー造る土壁の高さが絶妙ですね。アレ以下だと建物内部で待ち構える炎魔法士の攻撃を予測出来てしまう、逆にアレ以上の高さだと飛ぶのは諦めるでしょう」
ーードンッ!
逃げ場の無い空中での狙い撃ち、イリス側からも見えないだろうにタイミングがドンピシャだ! あれは躱せないーー三人は地面へと転がった。
「~~~ッ! 残念!」
だが、ヒースの凄い所は同じ様な事を同時に別の場所でもやっている事だ。こちらからは見えづらいが、建物左手でも同じ様な攻防が繰り出されている。
「あれは……多分、二部隊が結託して拠点攻略へ取り組んでいますね」
「へぇ、そういうのも有りなのか」
「何言ってんだ兄貴? 俺達だってやられたじゃねぇか、なぁ?」
あぁ、そういや初日にバルトとロッシに同時に狙われたんだっけな。
「二分隊が同時に拠点占拠って出来るのか?」
「うーん、ルール的には占拠出来る分隊は一つだよ」
「ーーイリス分隊を排除してから決闘方式で決着を着けるつもりなんでしょう」
そうでもしなくては歯が立たない程の実力差があるって事か……二部隊で相手の戦力を分断し、どちらかが成功すれば良しとする作戦、しかしーー
「それでも突破出来ないのか……」
「いえ、本命は背後からの潜入でしょう」
「えっ、背後から? って事は二部隊でのあの攻撃が全て陽動って事!?」
「はぁ~、だから人数がおかしいのか! ヒースの所が此処に来るまでに二人も欠ける訳無いもんなぁ!」
しかしその本命も失敗に終わった様だーー見張り台から光の矢が降り注ぐのが見えた後、戦闘音が一切消えたのだ。
「終わった様ですね……ほら、審判役の正騎士が向かいましたよ」
「…………マジで強いな、常にトップなの納得だわ」
でも、ヒースってヤツも惜しかった。偶々今回運悪く、氷魔法士のヒースと炎魔法士が対峙したが、あれが違う魔法士だったならーー。
「貴方、これが偶然だと思ってませんか?」
ヘルムがずり落ちる眼鏡を直しながら俺に言う。
「へっ? そりゃそうだろーーあの堀を越えるまではお互いが見えないんだからさ……いや、まさか鳥瞰視点?」
堀から拠点の中心である見張り台まで距離は100m程ーーそして地面に掘られた深い堀の淵は少し高く土砂が積まれている為、そこを越えなければ先は見えない。
しかし、ジョルクの様に優れた索敵魔法が使えるなら……待てよ、相手の居場所は分かるとしても、属性まで分かるもんなのか? そうでなきゃ相手の苦手属性をぶつけるなんて真似は出来ない。
ヨイチョはたった今行われた上位分隊同士の攻防に、少し興奮したのか震える声で俺に言った。
「戦巫女のイリスは『先見の目』を持ってるって言われてるーー彼女は未来が見えるんだ」
ーー未来が!? そんなの有りなん?
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