筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果

kuron

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131・照明【ライト】

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 辺りを照らす強烈な光、イリスはようやく先程見えた未来を理解したーー未来が見えなかったのでは無い、周りが一切見えなくなる未来を見たのだ!

(なんて事なの! 生活魔法の照明ライトにこんな使い方があるなんて!)

 次々と数を増やし、至る所に配置される強烈な輝きは、薄暗さに慣れてしまっていたイリス達の視界を一気に奪った。

 きつく目を閉じても感じる眩い光、一体この照明ライトにどれ程の魔力が込められているのかーー。

「ーー糞っ、眩し過ぎて何も見えねぇ!」
「もしかして……この隙を突いて橋を渡るつもりかも」
「そうはさせるか! 見えなくたって魔法は撃てる!」

 そうだ、相手は必ずこの橋を通るのだーー場所さえ分かっているならば目を閉じたって攻撃は可能だ。

重力グラビティーー」

 その時、橋の一番近くに居たテオの耳にガリッと鈍い音が聞こえるーー先程、風魔法が橋を削り取った時と同じ音だーー。

「ーーだ、駄目だぁ! 今魔法を撃ったら橋が崩壊するぅ!」

 叫びにも似たその声にジャンは慌てて魔法をキャンセルした。

「テオ! 直ぐに修理をーー」 
「壊れてる箇所が分からなくちゃ、オイラの修復リペアは使えないんだ……」
「畜生ッ! どうすりゃいい、お嬢!」

(相手の狙いは只の嫌がらせじゃ無かったの?)

 このままでは拠点へ潜入されるーーそれだけではない、未来視が封じられてしまった今、一気に拠点を奪われる可能性まで出てきた。
 
(ーー闇雲に攻撃すると橋を自ら壊す事になる、一体どうしたら……)

 恐らく相手はこれまでイリスが対峙した事のない分隊だ。イリスの脅威的な予測も、未来視による確実な事柄ヒントが無ければ只の憶測へと成り下がる。

(ここで下手な指示を出せば『先見の目』の秘密が皆に露呈してしまう……そうだ!」

「リャク、橋の手前に炎の壁を!」

 脆くなった橋自体を巻き込んだ攻撃は出来ないなら、渡った先に壁を作れば良いのだ。

「わ、分かった! テオ、そこからもっと下がれ。見えないから狙いが大雑把にーー」

ーーガッン!!


 鈍い打撃音がした後、リャクの声が急に途切れ、バチャリとイリスの足元に水が跳ねた。

「ーーリャ、リャク?」
「どわぁっ!?」 

 ジャンの足元が抉れ飛ぶ! イリスの声に振り向き立ち位置を変えて無ければ確実にジャンに当たっていた!

「お嬢! 攻撃だ、攻撃が来てる!」

(ど、どうして? この眩しさの中で一体どうやって? 相手だって見えない筈なのに……)

「お嬢、オイラどうしたら……」
「お嬢! どうすればいい!」

 イリスは『先見の目』という能力を頼り過ぎていた。未来の見えない今、得意の予測すら出来ず、まともな指示すら出すことが出来ない。
 そして同じく、分隊のメンバーもイリスに頼り過ぎていた。イリスの指示が無ければ自分で動く事が出来ないまでに……。

「お嬢!」
「お嬢、指示をーー早く指示をくれ!」

「……………………」

 必死にイリスに指示を仰ぐ彼らには、何も見えぬ光の中で、唇を噛みながら只々立ち尽くすイリスの姿を見る事は出来なかった。




 ーー濡れた前髪が顔に張り付く、払いたくとも俺の両手は背負ったヘルムを抑える為にふさがっていた。

 今回の作戦では、ヨイチョとジョルクのエリア到達は考えていない。
 ゲームマスターであるヘルムの頭脳を持ってしても、何の犠牲も無く、上位分隊の防衛を掻い潜り、全員が拠点エリア到達するという方法は思い付かなかった様だ。

 いや……ヘルムの事だから、最初から犠牲有りきで作戦を考えてる可能性が高いか。

 出会った頃より人に関心が出てきた様に見えるヘルムだが、根本的な所はそう変わっていない。目的の為には捨て駒も当然と考えているだろう。

「ジ、ジョルク! わ、わた、私達が渡るまでは、は、はし、橋への攻撃は程々でーーあ、あい、相手の妨害の方を、た、たの、頼みますよ!」
「ーーあぁ、任せろッ!」
「二人とも頼んだよ!」
 
 それでも、彼等とのすれ違いざまに片手を上げ言葉を交わすヘルムの姿を見ると少しニヤけてしまう。

(ちゃんと仲間してんじゃん!)

 ヨイチョ達の脇を通り抜けると、その先は影をも消し飛ばす眩い光の中だ。相手もそうだが勿論俺達も視界を奪われる事になる。

「こ、この、このまま一気に、は、は、橋を渡りますよ! ま、真っ直ぐです、真っ直ぐ駆けて下さい!」

 ガチガチと歯の合わさる音と共に揺れるヘルムの声が耳元で聞こえてくるーーあんまり喋ると舌噛むんじゃないか?

「おぉっ! って目が見えない状態で真っ直ぐ走るのって難しいな、おい!」

 先程までの草地と違い橋の上は石畳だーー踏み締める冷たい石の感触だけを頼りに前後左右が見えない光の中を駆けてゆく。
 ヘルムは左手を横に突き出し、橋の縁をなぞりながら俺に方向の微調整を指示する。

「なぁ、この先さっきみたいに土壁があったりしないよな?」
「ど、ど、ど、どうですかね! あ、あっても貴方なら弾き飛ばすから、も、もん、問題無いでしょーーあ痛ッ!」

(あ、舌噛んだな……)

 血が出る程酷く噛んだのだろうか? 背中で回復ヒールを掛ける声が聞こえる。まぁ俺の背中は人を快適に運ぶ仕様では無いから仕方がない。馬みたいにくらあぶみでも付いてりゃ少しはマシかもしれないが、そもそも四足歩行じゃないから難しいだろう。

 そうこうしているうちに足裏の感触が冷たい石畳から柔らかい草地へと変わるーー橋を渡り切ったのだ!

「ーー橋を抜けた! ヘルム、やったぞ! 拠点エリアに到達した!」

 遂に俺たち二人は目標である拠点エリアの到達を果たしたのだ!

 安堵感から歩幅を緩めるーー良かった……これで及第点だ。

「いやー、流石ヘルムだな! そろそろ背中から下りてくんない?」
「ーーは? 何を言ってるんですか? 拠点までは走り続けなきゃ駄目でしょう!」

「え? まだ走るの!?」

 ヘルムは拠点を落とす気満々だった。
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