139 / 287
139・判定
しおりを挟む予想外のイリスの登場に「あちゃ~」と、汗で濡れる広めの額をパシッと叩き天を仰いだオラン。
一体どの辺りから話を聞いていたのか分からないが、恐らくパカレー兵との件は聞かれてしまった。
尤も、相手は『先見の目』のイリスだ、とっくに未来視で分かってた可能性もあるのだけれど……。
「構わない」と言いつつも、イリスの顔は心無しか険しく、興奮しているのか僅かに赤みが差しているーー当然だ、自分の仲間が不当な手段でやられた事を知ったのだから。
「イリスーー怒るのは分かるが少し待ってくれ、コイツらもワザとって訳じゃーー」
不正を知ったイリスは慌てて止めるオランをスルリと華麗に躱しヘルムへと詰め寄った。
「ーー貴方があの作戦を?」
イリスはヘルムをしっかりと見据える。その凛とした眼光は相手の力量を測るかの様に鋭く光る。
「さて、どれの事を言っているかは分かりませんがーーうちの分隊の作戦は全て私が担っているのは否定しません」
一方のヘルムはその瞳に臆する事なく見返しているーー凄い精神力だ。
わざとでは無いにしても不正をしたと言う確かな事実があるが故、後ろめたさから秒で目を逸らしてしまいそうだが……流石貴族というところか。
(いやもしかしたらーーヘルムの事だから、ちっとも悪いとは思って無いのかもしれないけど)
暫く二人の睨み合いは続いたが、意外な事に先に目を逸らしたのはイリスの方だった。
「…………そう、貴方がーー」
僅かに口元に笑みを浮かべたイリスは顔を伏せがちに言った。
「あんな方法で私の『先見の目』を破るなんて思いもしなかった……貴方、凄いのね? 正直、名前も知らない貴方を舐めていた事を謝罪するわ」
「「ーーッ!? お嬢!!」」
一体どういう心境なのか、イリスは何故かヘルムに謝罪したーーいつの間にか来ていたイリスの取巻きがそれを聞いて鬼の様な顔でヘルムを睨み始める。
「そうですか、貴方が私の名を知っているかなんてどうでも良い事ですが……まぁ、折角なので謝罪は受け入れましょう」
(この視線の中でそれを言えるのスゲェな……貴族だからとかじゃなくて、単純にヘルムが空気読めないヤツだからだな、これ……)
あまりに酷いヘルムの台詞によって、取巻き達の圧が一段上がった。周囲に漏れ溢れる剣呑な雰囲気に、俺はいつでもヘルムを守れる様にと一歩前に出る。
そんな雰囲気を知ってか知らずか、イリスは更に続ける。
「オラン試験官、確かに不正はあったようだけど故意では無さそうだし、直接の敗因は私の油断が原因だわ。彼等が言う様にエリアの侵入までは譲ってもいいと思うの」
突然の提案にオランは困惑と安堵をごちゃごちゃに混ぜた様な表情でイリスに念を押す。
「えっ? いや、まぁ当事者である君がそう言うなら構わない、と言うか助かるが……本当に良いのか? 後から撤回は効かないけれどーー」
「えぇ、私の慢心を気付かせてくれたお礼に、ね?」
こちらに向けウィンクするイリスーーちょっと恩着せがましく言ってはいるが、ぶっちゃけエリアポイントがジョルク分隊に入ろうがイリス達の分隊には何の影響も無いのは分かってるんだからな。
「だけど、ザービアを倒した時に魔法を使っていたかどうかは証明出来ないでしょ? そこの彼、何故か私が見る未来に出てこないし……何か阻害魔法を使ってたりしない? それも強力なやつ」
(阻害魔法って……俺の魔法無効もそうなるのか? でも腕輪してもしなくても効果は同じなんだがーーそれでもやっぱり駄目なんだよな……)
俺にも一応「腕輪の効果が無い」と言う言い訳はあるのだが、今すぐ証明しろと言われても難しい。何せ衰退の腕輪は此処には無いのだ。(壊したから)
ジッと俺を見る目が問い掛けるーー何かやったんでしょう? と……その心の中まで見通すかの様な浅葱色の瞳に思わず一歩下がってしまった。
「うっーー」
「ふうん、やっぱりそうなのね?」
イリスはオランを見て頷くーーもし強力な魔力を使って相手の魔法を阻害しているのであれば、直接的な攻撃魔法では無くとも駄目でしょう? と。
「あぁ、確かにそうだな。それではこうしようーー衰退の腕輪をしていなかった者の行動によっての結果は無効とする!」
◇
「なぁ…………つまり、それってどう言う事なんだ?」
ジョルクはオランの言葉に首を傾げる。
「腕輪を装備していた者の功績は残すと言う事ですよ。つまり、拠点占拠は無効でエリア潜入ポイントは私の分だけが付くという事ですよ」
「あぁ、なるほどーー周りくどい言い方するなぁ、最初からそう言って欲しいぜ」
「えっ、それじゃあ、ポイントってーー」
「足りませんね、20ポイントほど」
「そ、そんな~~」
ジョルク分隊過去最高の点数ではあるが、あとたったの20ポイントが足りない。そして、及第点に行かなくては此処まで来た意味が無い。
(あの時、俺じゃなくてヨイチョをエリアに向かわせていたら……)
そんな考えが過ぎるが、ヨイチョは照明を維持する為にその場に残らなければならなかったし、ヘルムを背負う事も出来ない。
「どのみち、駄目だったか……」
辺りを照らしていた照明が一斉に消えたーーヨイチョの精神力が落ちた所為だろう。
ナルの為と普段温厚な彼が珍しく率先して拠点を目指した。しかし、努力は必ず報われるとは限らないのだ。
皆、ガックリとその場に無言で座り込むーー何か色々と出し切った虚脱感がネットリと体に纏わり付く。
ハゲとイリスはまだ何かを話合っているが、俺達には関係無い、俺達の訓練はーー終わったのだ……。
気付けば照明が無くとも辺りが見える程に時間が経過していた。いつの間にか雲は風に流され、地平線には一つ目の太陽が昇りつつある。
菖蒲色の朝焼けが徹夜明けの目に沁みる。
「どうした、随分と貧相な顔をしているじゃないか」
ふと、知ってる声が聞こえてきたーーある意味、今一番会いたくない奴等の声だ。
「クック、実際貧相なんだから仕方ないだろう?」
意気消沈した俺達の前に現れたのはギュスタン分隊の面々だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる