158 / 287
158・ルーナの涙
しおりを挟む「ル、ルーナ!? 遅いと思ったらこんな事に巻き込まれてるなんて……俺はダニスになんと言って詫びれば良いんだ」
息を切らし走って来た男性は、ルーナの傷付いた有様を見て思わず天を仰いだ。
「ケインさん! ごめんなさい……私、言い付けを破って裏路地に……それで、お金も取られちゃってーー」
「お金なんてっ! そんな事より怪我の具合は? 何処か痛むか?」
一通りルーナの傷の具合を確かめていたケインは、ルーナの怪我の程度が見た目程では無い事が分かり大きく息を吐き出した。
「はぁ~~、兎に角、二人が無事で良かったよ……」
「……二人? じ、じゃあ、マルリも無事なんですね!? あぁ、良かった!」
見知った顔に会って安心したのか、はたまた妹の無事に安堵したからか、ルーナの目からは再び涙が溢れ出した。
ーー今日いったい何度目の涙だろう?
マルリが生まれ姉となった日から、極力人前で泣かなくなったルーナ。だが、今日だけで「もう一年分の涙が出たのでは?」と思う程に泣いてしまった。
(こんなに腫れた目じゃ、今日はもうお客さんの前には立てないかな……)
ケインに申し訳無く思いつつも、ルーナの泣き顔には先程とは違い笑顔が見えていた。
◇
「ありがとうございました!」
「この御礼は後日必ず! 是非うちの宿に来て頂きたい」
駆け付けた宿屋の主人に連れられて、ひょこひょこ足を引き摺りながらルーナちゃんは帰っていった。
何でも宿屋に居た何人かの客も二人の捜索に協力してくれているとの事で、ルーナちゃんの妹さんはその人達に保護されているらしい。その人達にも早くルーナちゃんの安否を伝える為に急ぎ戻らなければとの事。
よろけながら歩くルーナの体を気遣って時折ケインの手が伸びるーーが、決してその体に触れる事は無い。そんな二人の後ろ姿を見て、何となく関係性が見えてくる。
まだ遠慮がちな距離間では有るが、随分と大事にされている様だ。
殺伐とした児童虐待を垣間見た後なので余計に心が温まる。
「あー、報酬どうすんのか聞きそびれた!」
屋根から降りて来たシェリーが舌打ちする。うちの子達は全員無事……いや、見れば皆んな随分とボロボロだけどーーまぁ、元気そうだ。
「ーー俺を頼れって言ったんだって?」
ブツブツと悪態吐くシェリーの顔を俺はドヤ顔で覗き込む。
「は、はぁっ? 仕方ねぇだろ! 暇そうなのがアンタしか浮かばなかったんだから!」
実は俺、まだ孤児院の子供達とはそれ程打ち解けてはいない。特にこのシェリーときたら年少組のリーダー格だからなのか、未だに俺を特段と警戒しているのだ。
そんなシェリーが俺を頼ったなんてーーちょっと嬉しいじゃない?
「どうよ? 俺も結構頼りになるだろう!」
グイッと胸板を強調するポーズをしながらニカっと笑う。勿論、左右の胸板を交互にピクつかせるのは忘れないーー上昇中の好感度はこれで更に爆上がりだ!
「何言ってんだ? 助けてくれたのはさっきのおっさんだろ!」
「そうだよ、宿屋のおじさんが助けてくれたの!」
「ーーくれたの!」
「うん、確かに……」
おかしいな……ガウル達の反応がイマイチだ。
確かに衛兵達を説得し、拘束されていた子供達を解き放ったのはさっきの宿屋の主人だ。あの衛兵達が思わず怯む程の剣幕で怒鳴りつけ、あっという間に話を付けたらしい。
でもーーあれ? 俺、危機迫るルーナちゃんをババッと守ったよね? 結構危ない所を寸前でーーこう、足でドカンとやったり、バシンって叩き落としたり……
「え~と、俺の活躍は……もしかしてご存じない?」
「あぁん? 活躍って……アンタに頼んだのは野良犬の件だろ? アンタがサッサとヤツを捕まえてくれりゃ今頃報酬の話だってだってスムーズにいったのにさ」
シェリーは両腕を組んでプイっと俺に背中を向けると他の子達に向かって号令をかける。
「もう一度野良犬を探すよ! アイツが奪った銭袋を取り返して報酬を貰うんだ!」
「「おう!」」
あれだけの目にあったばかりだと言うのに、子供達は元気に壁を駆け登り屋根に散らばっていったーー逞しいにも程がある……。
子供達全員が居なくなったのを確認したシェリーは尻尾で俺の足をバシっと叩くと何やらゴニョゴニョと呟いた。
「まぁ、ルーナを助けた事は感謝してる……」
おぉ……遂に、あのシェリーが俺に感謝を! 聞き違いだと困るからもう一度聞いておこう。
「え? 何だって?」
「……ア、アンタもさっさと探してこいって言ったんだよ!」
ニマニマと弛んだ俺の表情に気付いたのか、愛想無くそっぽ向きながら話すその顔は少し赤い。
「いーや、違うね。さっきは何か『感謝』とか『筋肉がカッコイイ』って聞こえたぞ! ほら、もう一回プリーズ !」
「アンタの耳腐ってんじゃねーか!?」
これ以上の相手は面倒臭いと思ったのか、額に皺を寄せたシェリーは勢い良く壁を蹴って屋根へと上がってしまった。
「ーーあっ、シェリーちょっと待って!」
「うるせぇ! うるせぇ! うるせぇ!」
慌てて呼び止める俺の声を振り払うかの様に、頭をブンブン振りながらシェリーは屋根の奥へと消えてゆく。
「あぁ、行っちゃった……」
探せって言われてもーー俺、その野良犬って奴、知らないんだけど……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる