関東電力殺人事件

深町珠

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50 臼杵駅

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臼杵駅は、1970年代の国鉄の駅そのままの雰囲気で
都会人にとっては旅情を誘う懐かしさである。

行灯式の番号表示、コンクリートのままのホーム。
改札は切符切りが入れるようなステンレスのブース。
スレートの屋根を支える柱はレール、と

古い映画のセットのようだ。

壁面には、地元出身の漫画家、富永一郎さんの
ユーモラスなイラストが、ふぐを模したようなデザインで
描かれていて、旅人が安堵するような
楽しさであったりもする。


プラットフォームは、やや電車よりも低く
それも、古い国鉄時代の客車規格そのままである。

普遍的なふるさとの風景を描いたような駅なので
映画のロケに使われるのだろう。


その背景に相応しく、普遍的な刑事の様相で
名古屋刑事が、輝彦の前に現れる。

やあ、ひさしぶり、と
片手を上げる短髪は、どこか懐かしい。

あれから、永い時が経ったような気がするが
まだ数日である。


どうしてこちらへ、と輝彦が尋ねると

公休日なのだが、ちょっと遊びがてら
輝彦に会いに来た、との事。


予定は伝えてあったのだが、偶然にしては
タイミングが合う。

「いや、時刻表を見ればね、どの列車で来るか
大抵分かるの、田舎は」

と、名古屋刑事の言うとおり
由布院から大分経由で臼杵に来ると言うと
特急に乗る他は無いので

一日に数本、と言う訳だ。

「取材って言うから、この時間かと」
そう、名古屋刑事は
職業的な勘、だろうか、そう述べた。


案外、勘と言うのは役に立つが
地道に同じような経験を続けると、それが
勘、になったりもするからで

経験則は、意外にコンピューターより正確だったり
する事もあるのだ。



「その勘で、真智子事件の真相はどう感じますか」と
輝彦が尋ねると



「いやー、なんとも言えないけど、自殺はないんじゃないかな、毒物を所持していた形跡はないし。」

と、名古屋刑事は言う。



「それに、池田湖までの足取りも掴めない」


地元タクシー運転手に聞き込んだが、指宿のいわさきホテルから池田湖までと言うと
相当メーターが出るので
覚えてるだろう、との事。

タクシーじゃない。なら、バスか鉄道か、と言っても
朝のあの時間に、湖に着くのは不可能だ、と言う。


「列車もバスも、本数がないからね」


なるほど、と頷ける。

田舎だから、かえって足取りを掴みやすいのだろう。





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