Lotus7&I

深町珠

文字の大きさ
14 / 56

# round-4

しおりを挟む





僕は、電話の無機的液晶画面をしばらくみつめていた。

.....と、そのとき、ドアサインの音がして、階下で呼び声がした。



「すみません!...ごめんください!」僕の苗字を呼ぶ....。


西洋的な造りの階段の手すり(父の趣味である...)の真鍮の感触を右手に感じながら、
僕は階下に降りた...


不要なほどに重厚な、ドアを開けると昨日の刑事が立っていた。
今日はふたりだ。

「....なにか、ご用ですか?」


「昨日の件で...何か、思い出されませんでしたか、と思いまして。」
「...あの、ちょっと聞きたいんだけど、たかが交通事故をどうしてそんなに....」

「捜査の事にはお答えできません。」
「それに、神奈川県の事を、どうして警視庁が調べるのですか?合同捜査になるほど
大変な事件だとは思えないけれど。」

「内部の事情については、お答えできません。」
「そうですか。」

「で、何か思い出されませんか?」
「...いいえ、何も。」

「そうですか、それでは、また。失礼。」
「あの、近所の目がありますから、あまりこないで下さい。」


「以後、気をつけます.....。」



警官、帰る。


6気筒のエンジン音がして、静かにPCは通過していった。


あの音は、1G-FEだな....。







ドア・ノヴの銅に、緑青が。
父の自慢だったこの家も、主を欠いては....。
ドアの閉じる音が、重々しく響いて。
玄関ホールに、また暗い静寂が。


僕は、なんとなく寂しくなって、地下のガレージへの扉を開き、階段を降りた。



しばらく乗っていなかった、オートバイを出してみるか。


半地下のガレージは、シャッターが下りていて薄暗い。


昨日のままの“7”が、カストロールの匂いと共に。
クローム・メッキの部分が、明かり取りからの外光でアクセントのように光る。





ガレージの隅の、シルヴァー・ターポリンのカヴァ。
それを被って、マシンは眠っている。
土埃、砂埃が堆積し、ほとんど薄茶色の物体となって。
リア・ヴュー・ミラーの部分をつまんで、カヴァーを外す。
こうすると、フュエル・タンクに傷が付きにくいのだ。
ざらっとした、砂の感触。埃が舞い落ちる。
ヘテロセクシュアルなカーヴを描き、マシンは姿をあらわす。

白と、赤のコントラスト。
紺色のアクセント・ライン。
ヘアライン仕上げの、アルミナムフレイム。
4本のマフラー。



GPマシン・レプリカという名の、夢。
闘争心。
“攻撃”は、競争というわかりやすい形での
解決を求め、このような機械を作ったのだ。
無駄な存在。
必要悪。
秘められた暴力性。
それらはみんな、都市という仮想現実に対する内なる自然の反乱である...。






メイン・スイッチを入れる。
グリーンのインジケータ・ランプが、眩しいくらいに輝く。
可変排気ヴァルヴの、サーボ・モーターが反転し、微かな音を立てる。
どうやら、バッテリーは大丈夫の様だ。


格納式になっているアルミナムのキック・ペダル。
ラバーすら付いていない、簡素なそれは薄くメッキが施され、機能美を見せる。
円周後方に引き出し、キック・ペダルを立て、始動を試みる。
サイド・スタンドを立てたまま、左足を地面につけ、キックする...が。
爆発の気配はない。


フュエル・コックを自然落下にし、ガソリンをキャブレタに送る。


負圧感応式燃料が滴下するのを待って、おもむろに再度、キックする。
2ストロークにしては、重い感じの足応えも、久しぶり。


....爆発の感じがしない。

...2度、3度。



生ガスの臭い。辺りに。

点火系統に、問題があるようだ。


僕はマシンを降り、サイド・スタンドをはらう。



....押しがけする、にしても...。


半地下のパーキングから、押し出さなくてはならない。
いったん、出てしまえば、後は坂だから、な。
...しかし、装備重量194kgは少々、手に余る。
バッテリーの負担を考え、イグニッションを切り
腰に力を溜めてマシンを押し出す。



...重い。


冷え切ったトランスミッション・オイルの抵抗。
ドライ・サンプ式という凝ったメカニズムが、こんな時にはネックになる。


2ストローク、2軸式V配列、4気筒エンジン。
必然が生んだ、機能性。
ひたすら走る為だけの存在。
一切の無駄がなく、しかし存在それ自体が実用性の一かけらもない。
攻撃性の象徴のような、マシーン。
それはいつの時代でも、男達の憧れの存在。
社会システムが抑圧する本能の代理でもある....。


クラッチレバーを切ってはみたが、ほとんど変化はない。
エンジンの背後にトランスミッションが乗るといった構造の為、仕方ないのだ。
スロープをどうにか押し出し、街路に出る。
たったこれだけのことでも、汗ばんでしまった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...