21歳のわたし ー真夏の蜃気楼ー

深町珠

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lotus blossom

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そして、ルグランはまた

土曜日に、図書館に来る。



古い、国産の白いセダンをもう、30年乗っている。



最初は、あまり気に入っていなかったけれども

自分で修理しながら、乗っていると

そのうち、愛着が湧いて



ずっと、乗り続けている。



元々は、英国製のスポーツカー、ロータス・スーパー・セブンを

買った時。



セカンドカーとして買ったものだ。



その頃はルグランも若く。見栄も多少はあったのだろうし

憧れもあった。





そのスポーツカーとの生活が終わってからも

ずっと、この白いセダンに乗り続けている。



それは、まあ、仕事がその頃から減ってしまったという

理由もあるし





父が亡くなり、兄が亡くなり。



母ひとりを置いて、音楽活動は出来ないと

ルグランはこの国に戻った。





それから、ずっとこの白いセダンに乗っていると



なんとなく、心が通ってしまったような、そんな気がして。





実のところ、別離が怖くて同じものに思い入れないように

していたルグランである。





恋愛もそうで、いつか終わるとわかっているので

深入りはしないタイプだった。





もう、年齢からして恋愛はしない時期ではあるが



穏やかな雰囲気があって、若い女の子には人気があり



クラブでピアノを弾いていても、10代の女の子から



慕われて、いろいろとプレゼントを貰ったり。



話しかけられたり。



その都度。丁寧に相手をしているためなのか

今でも、クラブにはよく、若い女の子が訪れる。





面白いものだ、と

ルグラン自身は思う。





そんなに優しい訳ではないと自分では思う。

本当に優しければ、誰かの愛を受け入れるだろうから。



そうしないのは、必ず訪れる別離が怖いからだった。





婚姻したとしても。





心が離れたら怖いから、だったりもした。





それが、なぜか





満面の笑みのセシルの愛らしさには

微笑みを以って返答する、ルグランだった。


クリスタさんは、天使なので

恋愛とは無縁である。



「なにか、いい事があったのですか」



と、セシルがどことなく、可愛い感じなので



つい、そんな事を言ってしまう。



指先まで可愛い、そんな感じに見えて。





ふんわり、ふわふわのクリスタさんは



なぜか、めぐによく似ている。



それでも天使なので、質量がないから

ゆらゆらと。





そして、生き物ではないので

どことなく、浮遊している。







セシルは、そうクリスタさんに言われて



ちょっと恥ずかしくなった。





その理由はよく解らないのだけれども。





初老の紳士、ルグランに



偶然、図書館のカウンター越しに



本を貸したり、返したり。





事務的な作業だけれども



なぜか、ルグランにあう時は





かわいい仕草をするように、自然になった。







幼い頃、お父さんに甘える時のような気持ちを

どこか、思い出しているのかもしれない。







同い年のミシェルに抱く気持ちとは

ちょっとちがって。





それも、またしあわせ、なのかしら。





そう、セシルは感じているかのよう


クリスタさんも、天使になる前は

人間だったから



どことなく、セシルの気持ちは分かるような気もした。





老紳士ルグランに会うと、なんとなく

かわいらしくしてしまう気持ち。



いつも、かわいい、かわいいと愛でられてきた



セシルは、そんな気持ちに浸っているのだろう、と。





心には、年齢はないのだから。





なぜか、生き物としての身体がついているので



それが、どことなく制限になってしまう事もあって。







セシルも、そんなふうに思う。





ルグランに会うときの気持ちを、言葉にしようとも

適当な言葉もないし



表現する必要もなかったけれど





どことなく、ルグランに会えない土曜日は



寂しいようなそんな気もした。







だからといって、それは恋愛、でもない。





から





その気持ちを、ルグランに伝える言葉もないのだった。





心だけになって、いつも、しあわせな気持ちで居られたらいいのに。





そう思ったセシルは、少し、天使さん、クリスタさんに

近づいたのかもしれなかった。



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