21歳のわたし ー真夏の蜃気楼ー

深町珠

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Vicky

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それには気づかずに、ミシェルは
そのスポーツカーに見とれていた。

小さなウィンドウ。
細い、ウッド・リムのステアリング、シフト・ノブ。
丸いメーターが7つの、メーターパネル。

黒い革張りのシート。
ボンネットが低く、前上がりに見えるサイドヴュー。
リア・ウインドウは、真っ直ぐに断ち切られていて。

「アルファ・ロメオみたい」
でも、それよりもシャープな感じがする。



ミシェルの後ろから、にこにこして眺めている紳士に気づき、振り向いた。


紳士は「やあ、いい車だ」


ミシェルは、その時までルグランの存在を忘れていたが。


「ルグランさん」と言うと、紳士は驚き
「よく知ってるね。この国ではあんまり・・・知っている人はいないけど。キミは?」



ミシェルは「あ、僕は・・・その、図書館で時々、お見かけするので・・・
ミシェルと言います。」



ルグランはまた、驚き「そうか。僕も、ミシェルなんだ。偶然だね。図書館に来るの?」


ミシェルは・・・言おうか、言うまいか。迷ったけれど。



木漏れ日の美しい、市民公園。
元は、ここは図書館だった。



風が、優しく吹きぬけていく。



思いを決して「あの、図書館にこのところ、土曜に行かないですね」と、ミシェル。



ルグランは「ああ、うん。仕事の都合でね。土曜に行かれなくて」



ミシェルは「それだけ?」と、少年らしく率直に。



ルグランは「そうだけど、何か?」ちょっとは、ルグランも・・・セシルの事が
気にはなっていた。


ミシェルは「図書館の・・・・カウンターの女の子が。」と、そこまで言ったけど。

ルグランが気遣って「かわいい子だね。セシルちゃん。君のガール・フレンドかい?」


ミシェルは、恥ずかしい。白い頬染めて「そんなんじゃありません」


ルグランは、その様子を見て・・・

「とってもいい子だね。誰にでも優しいし。君も、大切にしてあげて。」



ミシェルは、何をいいにきたんだろ、僕は。
そう思いながら

「セシルの名前を、どうして知っているの?」




ルグランは、微笑んで「ネーム・プレートに書いてあったから」




木漏れ日が、揺れる。



ミシェルは、意を決して「セシルが、淋しいみたいなんです。
ルグランさんに、会えないからって、思ってるみたい。
お時間のある時でいいですから。図書館に、行ってあげてください。」


ルグランは「・・・それだけでいいの?・・・そう。私もね。セシルちゃんに
会えないと淋しいって思っていたよ。それだけ。
でもね・・・君たちの思うような・・・その・・・恋とか。そういう気持じゃないんだね。
かわいいセシルちゃんが、可愛くしていてくれる。
それを見ているだけで、いいんだ。」


ルグラン自身、よくわからないのだけれど
でも、ミシェルの気持を考えると、そう言った方がいい。そう思った。




その時。


ふたりの前に、細い靴音。

エレガントなロング・スカート。
たっぷりしたブロンドをウェイヴにしたひと。



「ああ、ヴィッキー。」と、ルグランは笑顔で。

ヴィッキーは、綺麗なアルトで「こんにちは、ルグランさん。お友達?」


ミシェルは「はじめまして。ミシェルと言います」


ヴィッキーは、ころころと笑う。少女のようだとミシェルは、ちょっとときめく。
「ルグランさんと同じ名前」


ルグランも微笑み「偶然だね」


わたしの車、どうかした?とヴィッキー。


ルグランは、いや、とかぶりを振り「このボーイがね、かっこいい車だって」


ヴィッキーは笑顔になり「今度、乗せてあげる」と、言い

メタル・オーナメントのドア・ハンドルにキーを入れ、ドライバーズ・シートに収まると
かちゃり、と。ドアを閉じた。

ウィンドウ・レギュレータを回して、窓を開け「またね」と言って

イグニッションを入れた。

赤いランプがインストルメント・パネルに点灯し
セル・モータが回る。

電動ねじ回しのような、きゅるきゅる、と言う音がした。

ルグランは、かつて持っていたLotus super7のルーカス・スターターを連想した。



「いい音だ」



エンジンは、爆発的に掛かり

少し、ガソリンの匂いがした。

青紫の煙が、デュアル・エキゾーストから漂う。


「じゃね、ミシェルくん、また」と、ヴィッキーは笑って
クラッチを踏み、シフト・ノブを
かちゃり、と1速に入れて

静かに走り出した。

ふんわり、と
意外に柔らかなサスペンションが沈み
リア・タイアが回り始める。

コスミックの、アルミホイールがきらきらと輝いた。

オイルの匂いが少しして、ベレット1800GTは
エメラルド・グリーン・メタリックのボディを輝かせながら
坂道を下っていった。




「いいなあ、乗せてくれるって」と、ルグランは少年のような言葉で
ミシェルに語りかけた。


「はい!」と、ミシェルも、なんとなく楽しい気分になった。







ふたりのミシェルは、カストロール・オイルの燃える、その匂いと
ガソリンの匂いを残して、坂道を降りていった
ヴィッキーのベレット1800GTを、見送り・・。
すこし、風に吹かれていた。

ミシェルは「ルグランさんも、自動車がお好きなのですか」


ルグランは「はい。若い頃はね、Lotusを持っていたりしたね。」


ミシェルは「ロータスかー。かっこいいですね。どのロータスですか?」


ルグランは「super7」


ミシェルは心躍らせて「わぁ、7!レーシングカーみたいなの。すごいな」



ルグランはにこにこ「一度はね、凝るのもいいものだね。」



「そうですか?」と、ミシェル。



ルグランは頷き「まあ、立ち話もなんだから・・・時間はありますか?」と。


ミシェルは、モペッドを転がして行こうと思ったけれど、重い。

ルグランは「ああ、こうすれば自転車になる」と、ギア・レバーをFreeにした。



ミシェルは「なんだ、そうかー。」軽くなったモペッドを転がして。
ルグランと一緒に、川沿いの道から、少し入ったところの路地にある
ジャズ・クラブ。
昼間はカフェになっている、お店に入った。



「いらっしゃい・・・・ルグランさん!」と、色白、細面、髪はきれいなブロンドで
頬のところで断ち切られている。そんな、愛らしい女の子が

ルグランに駆け寄ってきた。


「やあ、マリエル。元気そうだね。」


マリエルはにこにこ。その微笑は、セシルの微笑みに似ているような
そんな気がした、ミシェルだった。


マリエルは、元気そうに頷き「学校もちゃんと行けてます。」


ルグランは「良かったねぇ」と、にこにこしながら「ああ、このボーイはね。私と同じ
ミシェルだ。自動車が好きなの。」

マリエルは「こんにちは、ミシェル。はじめまして。わたしはマリエル。ルグランさんに
お世話になっています。」


ミシェルも、こんにちは、と・・・挨拶した。  


・・・・かわいい人だな・・・・。



と、思いながらも「めぐお姉さんと同じくらいの年かな」


とか、思ったり。


ルグランは、ミシェルと共に
窓際の丸いテーブルに掛けて。


誰もいないカフェは、まだ早い時間だから
静かに、ストリングスの音楽が流れている。

フランスの、イージー・リスニング。

レーモン・ルフェーブル、だろうか。




「何か、持ってきます」と、マリエル。


「はい」と、ルグラン。



ミシェルは・・・?「ここ、カフェだと・・・なにか頼まないと」



ルグランは「ああ、僕らはいいんだ。ヴィッキーの友達。ここはヴィッキーの店だから。」



ミシェルは「そうなんですか、では・・・。」と。ちょっと不思議な気持。


・・・・このルグランさんって、どういう人なんだろ?とか。
思ったりして。




カフェは、ジャズ・クラブらしく
どこかに芸術的な感じがする。


白い壁に、なにか、抽象のような絵が掛けられていたり。
グランドピアノがあったり。


天井から、細い線で灯りが吊るされている。
白いシェード。


モノ・トーンの室内。



ミシェルから見ても、落ち着いた雰囲気で
好ましかった。




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