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railman and girl

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国鉄の仕事、もちろん始発を運転する
事もあるから

朝早かったりする。


この日は、そういう日で
朝5時に出勤、と言う事は
3時頃起きて、職場に向かう。


なので、午後3時頃には帰宅できる。


終列車の時や、夜行の仕事は

夕方出掛けたりするので


年中、時差ぼけのような気分で

時折、神経が疲れる事もあった。




この日も、そんな感じ。



リサは元気で、スポーツをして
清々しい気持ちになって。

縁側から戻ってきた。

ラケットを持っていたから、テニスにでも
行ったのだろう。




「ただいまーあ」と、リサは

おじいちゃんにごあいさつして
縁側から上がった。




おじいちゃんは、疲れているので
短絡的に、リサに尋ねる。


進路の事。




家には、ミシェルがいるだけ。




でも、2階の部屋で
本でも読んでいるのか、静かだ。





[なに?おじいちゃん」と、リサは
楽しそうな、スポーツの昂揚醒めやらず。







おじいちゃんは、ぶっきらっぼうに「国鉄に来ないか」。




つい先日、おじいちゃん自らが
[大学を出てから」と言ったばかりなのに、と
リサは不審に思ったけど、仕事の後で
疲れてるのかな、と。


おじいちゃんを労い、でも

「大学出てから、って言ったじゃない」と



つい、スポーツのあとなので


言い方が雑になった。




その、言い方が

疲れてたおじいちゃんの神経に障ったらしく


おじいちゃんは苛立った。



この時、おじいちゃん自身は
健康を損ねていたので
ひょっとして、
リサの大学卒業まで、自分が
生きていられないかもしれない、そんな
予感を持っていて。



いまのうちに、技術を教えたい。



そんな焦りがあった。




おじいちゃんの息子は、3人いたが
長男は夭折、次男、つまり
リサのお父さんは、自動車のエンジニアになった。

3男は、国鉄には入ったが
機関車には向かず、車掌になったので
機関車乗りとしての後継ぎが、欲しくて。





タイミング悪く、リサは
「こないだ、おじいちゃんが言ったんだよね。大学出てから、って。
急にそんな事言われても。
わたしは、おじいちゃんの機関車じゃない。
急に行先変えないでよ、それじゃ
汽車だって脱線しちゃうよ」と 

ユーモアを交えて言ったつもりが


鉄道職員にとって、冗談でも
脱線、は言ってはならない言葉だ。



脱線トリオ、転覆トリオと言う
お笑いさんが、国鉄には
絶対に呼ばれなかったのは有名な話である
(笑)。




それで、おじいちゃんは怒る。



疲れていたのだ。




リサも、18歳の女の子である。

「レールの上を行くなんて嫌よ。」と
心ならず、そんな言葉を言ったのは

勢いだ。



若いんだもの、そんな事はある。
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