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1章

11話 理解者

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  「ヒナタさん、ウルを治してくれてありがとう」
  「俺からも礼を言わせてくれ。ありがとよ」
  「いえ、正直助けられるかどうか分からなかったので自分でもほっとしています」

 セリアさんの美味しい晩御飯をご馳走になった後、2人にお礼を言われた。

  「アリサちゃんもご両親も本当に感謝していたのよ。ヒナタさんが起きなかったから今日は帰ってしまったけど、明日になったらまた改めてお礼に来るそうよ」
  「そうですか。ウルは本当にアリサちゃんに慕われてましたからね。元気になったウルと会うのが楽しみです」
  「すごい元気だったから飛びつかれちゃうかもよ?」
  「うっ。そ、それはちょっと勘弁してもらいたいです」
『それくらい我慢しろよ』

 自ら治療をしたことでウルに対して多少は慣れたと思っているが、流石にまだそこまで強烈なスキンシップを取れる自信はない。
 
  「それにしてもヒナタ!お前すごいな、あんなことが出来るなら初めからそう言えばいいのに」
  「実は自分もあんなことが出来るなんて知らなかったんですよ」
  「え?それじゃあ、あの治療はどうやって出来たの?」
  「それが、ハム太の言う通りにやっただけで、自分でも驚いてるところです。まさかこんな力があるとは思ってもみなかったので」
  「ハム太が言うには?お前まさか【理解者トーカー】なのか?」
「え?トーカーってなんですか?」

聞きなれない言葉に首を傾げると、セリアさんが教えてくれた。

「【理解者】って言うのは、魔獣の言葉が人の言葉のように理解できる人のことを言うの。魔獣によく好かれる人がその力を持っているとは聞いたことあるけど、実際に会うのは初めてだわ」
「そうなんですか。あれ?でも、魔物とあった時には言葉なんて分からなかったんですけど?」
「俺達は【理解者】じゃないからその理由はわからんが、ハム太なら何か知ってるんじゃないのか?」
「確かにそうですね。どうなんだハム太?」

テーブルに座って話を一緒に聞いていたハム太に聞くと、前足で耳をポリポリと掻きながら面倒くさそうに立ち上がる。

『しょうがねぇな。あー、魔獣の言葉がわかって、なんで魔物の言葉が分からないかって言うとだな。完全に魔に犯された魔獣だからだ』
「え!魔物って元々は魔獣なのか?」
「なんだ、ヒナタはそんなことも知らなかったのか?」
「あ、いやその...魔獣と関わらない生活をしてきたからそこら辺の話は疎くて」
「筋金入りの魔獣嫌いなのね。ハム太君と契約できたのが本当に不思議だわ」
「それは半ば強引にさせられたというかなんというか...。痛っ!痛いよハム太!」
『お前が知りたいっていうから教えてやってんのに騒いで話の腰折るんじゃねぇよ!』
「はい!すいません!静かに聞くので噛むのをやめてください!」

ハム太に手を噛まれて大人しく姿勢を正した。それを見てエドガー夫妻は苦笑いしている。

『さっきも言ったように魔物ってのは、魔に犯された魔獣のことを指す。魔に犯されたってのは、魔獣の体内にある魔力が制御しきれずに暴走したことを言うんだ』
「暴走?魔力ってそんなに制御しにくいものなのか?生まれた時から持っているものなんだろ?」
『確かに生まれた時から魔力ってのは備わってるもんだが、赤ん坊の頃から魔力を完全に制御出来るわけじゃない。親が子に狩りの仕方を教えるのと同じように、魔力制御も教えないと魔獣はいずれ魔物になっちまう。もちろん他にもいろいろ理由はあるがな』
「それじゃあ、あの魔物は親のいなかった魔獣だったのかな?」
『さぁな、とりあえず魔物ってのはそういう存在なんだよ。そんで問題のなんで魔物の言葉がわからないかだが、その暴走した魔力が原因だ。そもそも、魔力には目には見えない波があるんだが、正常だとこの波は一定なんだ。ところが、暴走するとこの波が安定しない。つまり、お前のそのスキルは魔力の波が安定してる魔獣にしか効果がないって訳だ』
「なるほどね」
『おうよ』
「理解者については理解出来たか?」

ふたりの会話が終わったのを見計らってエドガーさんが話しかけきた。

「はい。なんか、魔力の波?っていうのが魔物だと不安定でわからないそうです」
「魔力の波?そんなものがあるのか?」
「ハム太が言うには普通は見えないようですね」
「はー、ハム太はちっこいのに物知りなんだな」
『ちっこいは余計だこの野郎!』

ちっこいという言葉に即座に反応したハム太は地団駄を踏みながらエドガーさんに叫ぶ。言葉がわからないエドガーだがなんとなく雰囲気で怒っているのがわかったようだ。

「おおう、なんか怒ってないか?」
「はは、ちっこいは余計だそうです」
「あぁ、そりゃ悪い事言ったな。ほら、ナッツをやるから機嫌を直してくれや」

戸棚の中から小皿に乗ったナッツを取り出しハム太の目前に置く。ハム太は文句を言いながらも次々にナッツを頬張っていった。

『この野郎、俺がこんなナッツ程度で...モグモグ...機嫌を直すとでも...モグモグ...んめぇなこれ...モグモグ』
「夢中じゃん。ほお袋パンパンだぞ」
「ははは、気に入ってもらえてよかったぜ」

ナッツで機嫌を直すとかハム太も案外ちょろい。チョロ太と呼ぼうか思ったが、噛みつかれる予感しかしなかったので止めとこう。

「はい。お茶のお代わり持ってきたわよ」
「ありがとうございますセリアさん」

全員のお茶のお代わりを持ってきた後セリアさんも席に座り会話に加わってきた。

「治療の時に見たけど、あの炎はすごく綺麗だったわね。治療魔法って言うと光属性だから、あんな炎なんて出ないのよ?アレはハム太君の能力なのかしら?」
「ハム太が言うには魔紋の持つ力らしいですよ?」
「魔紋自体に力?魔紋って言うのは、契約者の契約魔獣の契約印みたいなもんでそれ自体に力なんてもんは無かったと思うんだが...悪いが、ヒナタの魔紋を見せてくれないか?」
  「良いですよ。ほら、これが自分の魔紋です」  
「わるいな。どれどれ...ん?」

 言われるまま自分の魔紋をエドガーに見せると、それを見たエドガーは目を見開いたまま固まってしまい、手がカタカタと震えだして、額から汗がにじみ出てきた。

  「え、ちょ、すごい汗ですよ?大丈夫ですかエドガーさん?」
  「どうしたのエドガー?」
  「セ、セリア。お前もちょっと見てみてくれ」
  「ヒナタさんの魔紋がどうかしたの......え、うそ、本当に?」

 セリアさんもまるでありえないものを見た様な表情で魔紋を見ていた。2人の反応にだんだん怖くなってきた佐藤は手を振り払いテーブルの影に手を引っ込める。

  「ちょっとどうしたんですか、2人ともそんなに怖い顔をして?」
  「いやすまん、ちょっと驚いてな。...ヒナタ、ちょっと待ってろ。お前に見せたいものがある」
  「見せたいものですか?」

 エドガーはそう言うと足早に部屋を出ていき、セリアさんとの空気が若干気まずいと言うのに、この空気の中で呑気にポリポリとナッツを食べていたハム太に話しかけた。

  「なぁ、ハム太」
『むぐむぐむぐ...なんだ?』
  「2人とも俺の魔紋を見てなんで驚いてるんだ?」
『それは今おっさんが戻ってくりゃわかるだろ』
  「...お前最初からこうなるってわかってたんだろ?」
『さぁー?何のことかなー?むぐむぐむぐ』

 視線から逃れるように、ハム太は背中を向けて再びナッツを食べ始めた。きっとさっき言っていた安心するのはまだ早いというのはこの事だったのだろう。

  「...ねぇ、ヒナタさん?」
  「はい、何ですか?」
  「アリサちゃんから聞いてまさかとは思っていたけど、本当に魔獣と会話が出来るなんて驚いたわ」
  「あー、はい。そうですね。黙っていたわけじゃないんですが、言うタイミングを逃してまして、すいませんでした」
  「ごめんなさい、別に責めてるわけじゃないのよ?ただ、確認しただけだから」   

 謝る自分に慌てて謝罪するセリアさん。

  「ただ、ヒナタさんのその魔紋が本物で魔獣と会話ができると言うことは...」
  「どういう事ですか?」
  「まぁ、詳しい説明はエドガーが戻ってきてからしましょう。ほら、戻ってきたわよ」
 
 セリアに言われ部屋の外に意識を向けると、エドガーのドスドスとやってくる音が聞こえてくる。

  「またせたな、これを見てもらいたかったんだ」

 エドガーが渡してきたのは古い一冊の本だった。表紙には、炎、水、風、土もモチーフにしたような絵が描かれており、反対側には光と闇が描かれてる。本のタイトルかすれてて読めない。

  「これはまた随分古い本ですね。どういう本なんですか?」
  「これはアルドロフを創造した神獣達の話なんだ。そんで、ヒナタに見てもらいたい所がここだ」

 エドガーが開いて見せたところは【炎の章】という項目で、その最初のページに写されていたのは佐藤の魔紋と同じものだった。

  「これはこの国である【ハンソムリル】を創造したと言われている、神獣フェニックスの魔紋だ。ヒナタの魔紋を見たときは目を疑ったが、改めてこれを見て確信したぜ。お前は【失われた魔紋ロストアニマ】保持者だ」
  「失われた魔紋...それって普通のと何が違うんですか?」
  「それはだな...あー、なんだっけ?」
  「しょうがないわね。ここからは私が説明するわ」

 本をエドガーさんから受け取ったセリアさんは説明を始めるのだった。
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