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季節一 夏
地上から地下へ、地下から地上へ
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階段を下りていると、頭上で七が畳を戻す音が聞こえ、上から漏れる光が完全に途絶えた。続いて、何かが崩れる音がする。それは、壁が崩れたことを物語っている。春は突然どうしようも無い不安に駆られた。
(七……大丈夫かな)
七を心配に思いながらも、春は人一人がやっと通れるような階段を下に向かって歩いていった。体を張って逃がしてくれた七の勇気を、無駄にしてはいけない。畳で蓋をされ、何も見えない程暗いと思っていたが、所々に松明があり、少なくとも足元が見えるくらいには明るかった。でも、何故松明が付いているのだろう。何か仕掛けでもあるのだろうか。そんなことを疑問に思いながら、階下へと下りていく。
暫く階段を下り続けると、漸く終わりが見えた。階段を下りると、其処は狭かった階段に比べて、随分広くなっていた。此処が七の言っていた、地下室なのだろう。周りを見回してみると、壁には沢山のお札が貼られている。不気味な光景ではあったが、それ程此処の結界が強いということなのだろう。
床は地下室らしく土で、畳などはなかったが、それを除けば、客間の一室のようだった。机、座布団、食料庫、書棚、等。もしかすると、客間よりも物があるかもしれなかった。机の上には筆、墨、和紙も置いてあり、書や文を書くことも可能だった。
春はこの地下室を歩き回り、書棚から一冊の書を抜き出した。それは幸か不幸か、題名は『百鬼夜行の封じ方』と書かれていた。それを見て、春ははっと気付いた。もしかして、あの霊達は百鬼夜行なのではないかと。そうだとすれば、七は一人で百もの霊と戦うことになる。あの七でさえ、百もの霊と戦えばどうなるか、春は容易に予想出来た。
きっと、彼女は倒れるだろう。戦いが終わった後ならまだしも、終わる前に倒れたりしたら、七はどうなるだろう。想像してしまった春は鳥肌が立った。春は居ても立っても居られなくなり、その書を持って、階段を駆け上がった。
「七!」
春は畳越しに声を張り上げた。それに七が答えるはずもなく、戻ってきたのは反響した自分の声だけ。
「七、私出るよ!?」
「は……る……」
息を殺して耳を澄ますと、七の弱々しい声が聞こえた。春は何の躊躇いもなく畳を押し上げる。ただ、七のことが心配だった。春には七が必要だ。七は、春が初めて気を許した相手であり、同じ『視える』体質と分かったから。そして何より、七と、もっと色んな話がしたいと思っていた。
「七!?」
春が完全に畳を押し上げると、そこには傷だらけの七の姿があった。霊は全て片付いたらしいが、憔悴しきっている。春は書を持っていることさえ忘れて、七に近寄った。
「どうして、こんなに……」
「数が、多すぎた……。今まで…こんなことは、なかったのに」
七が蚊の鳴くような声で呟く。春は畳を元に戻すと、立ち上がった。
「すぐに、お医者様を連れてくる!」
返事をするかのように口を開いた七が、質問をする。その目は一点を見詰め、その表情は深刻なものだった。
「ねぇ、春?」
「何?」
「その書は…?」
言われて初めて、書の存在を忘れていたことに気付いた。今まで重さを感じなかった書が、存在を主張するように重さを増したように感じた。
(七……大丈夫かな)
七を心配に思いながらも、春は人一人がやっと通れるような階段を下に向かって歩いていった。体を張って逃がしてくれた七の勇気を、無駄にしてはいけない。畳で蓋をされ、何も見えない程暗いと思っていたが、所々に松明があり、少なくとも足元が見えるくらいには明るかった。でも、何故松明が付いているのだろう。何か仕掛けでもあるのだろうか。そんなことを疑問に思いながら、階下へと下りていく。
暫く階段を下り続けると、漸く終わりが見えた。階段を下りると、其処は狭かった階段に比べて、随分広くなっていた。此処が七の言っていた、地下室なのだろう。周りを見回してみると、壁には沢山のお札が貼られている。不気味な光景ではあったが、それ程此処の結界が強いということなのだろう。
床は地下室らしく土で、畳などはなかったが、それを除けば、客間の一室のようだった。机、座布団、食料庫、書棚、等。もしかすると、客間よりも物があるかもしれなかった。机の上には筆、墨、和紙も置いてあり、書や文を書くことも可能だった。
春はこの地下室を歩き回り、書棚から一冊の書を抜き出した。それは幸か不幸か、題名は『百鬼夜行の封じ方』と書かれていた。それを見て、春ははっと気付いた。もしかして、あの霊達は百鬼夜行なのではないかと。そうだとすれば、七は一人で百もの霊と戦うことになる。あの七でさえ、百もの霊と戦えばどうなるか、春は容易に予想出来た。
きっと、彼女は倒れるだろう。戦いが終わった後ならまだしも、終わる前に倒れたりしたら、七はどうなるだろう。想像してしまった春は鳥肌が立った。春は居ても立っても居られなくなり、その書を持って、階段を駆け上がった。
「七!」
春は畳越しに声を張り上げた。それに七が答えるはずもなく、戻ってきたのは反響した自分の声だけ。
「七、私出るよ!?」
「は……る……」
息を殺して耳を澄ますと、七の弱々しい声が聞こえた。春は何の躊躇いもなく畳を押し上げる。ただ、七のことが心配だった。春には七が必要だ。七は、春が初めて気を許した相手であり、同じ『視える』体質と分かったから。そして何より、七と、もっと色んな話がしたいと思っていた。
「七!?」
春が完全に畳を押し上げると、そこには傷だらけの七の姿があった。霊は全て片付いたらしいが、憔悴しきっている。春は書を持っていることさえ忘れて、七に近寄った。
「どうして、こんなに……」
「数が、多すぎた……。今まで…こんなことは、なかったのに」
七が蚊の鳴くような声で呟く。春は畳を元に戻すと、立ち上がった。
「すぐに、お医者様を連れてくる!」
返事をするかのように口を開いた七が、質問をする。その目は一点を見詰め、その表情は深刻なものだった。
「ねぇ、春?」
「何?」
「その書は…?」
言われて初めて、書の存在を忘れていたことに気付いた。今まで重さを感じなかった書が、存在を主張するように重さを増したように感じた。
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