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第一幕『塞翁が馬』
序幕・零『願わくば -ネガワクバ-』
しおりを挟む――ただ一度でいいから、他人を信じてみたかった。
何の疑いも無く、純粋な気持ちをもって接してみたかった。
「うん」と自信を持って、真っ白な心で微笑みながら応えてみたかった。
そうできないのは、そうさせてくれなかったのは他でもない他人だったのだ。
世界を恨んだ。
神を憎んだ。
何故これほどまでに人間という生物を穢したのかと。
否、穢したのは人間自身なのだろう。
人類の進化ほど余計な事をしてくれたことは無い。
世の中には信用するに値する人物もいたかもしれない。 世界には約七十億人もいるのだ。一人くらいいたっておかしくない。
だが、出会うことはなかった。
出会えるはずもなかった。
この世は広過ぎる。
この目は狭過ぎる。
そんな状態で、七十億の中から捜せる訳がないから。
それに――――。
一人でよかった。
俺は孤独を愛している。
孤独を愛する者は欲というものが少ない場合が多いのだ。
欲望が多ければ多いほど、その分他者に迷惑がかかることを知っているから。
自分のせいで周りが動いているのではないか。
自分のせいで迷惑しているのではないかと常に恐れているのだ。
しかし代わりに数少ない、単体である欲の大きさは尋常ではない。
量より質という言葉があるように、俺のような人間は世界そのものを求めるのだ。
この悪人ばかりが募った腐りきった世の中を消し去り、幻想と理想を具現化したような、美しく、確信を持って信じる事の出来る世界を。
だがそんなことは実質不可能だ。
たとえ悪人であろうと、殺せば法により裁きを受ける。
そのせいで、失せるべき悪人が平然と街を闊歩し、彼らに被害をもたらされた者が肩身を狭くして生きていく。
決定的な証左が無ければ、報いることすら許されない。
憎しみだけを噛み締め、当人に不幸が訪れることだけを残虐な悪魔に祈るしかない。
ゆえにそれならいっそ欲望を捨ててしまえば解決できる。
それが善後策であると、叶わぬ夢物語なのだと理解しているのである。
青春や幸福を謳歌している奴らのようにたらればを言えばきりがない。
もう諦めているのだ。
己の欲など大した価値も無いからと。
もう自己を見限っているのだ。
何もできない自分に唯一できること。
それが、心理的透明人間になることだと。
元来、脆弱性のある自分自身をこれ以上傷付けないために存在を薄くする。
一人でいれば孤独感を生み、二人でいれば劣等感を生み、三人でいれば疎外感を生み出す。
これらの中で最も自分の傷を最小限に抑えられるのはやはり一人でいることだ。
そうでなくとも、如何なる場所でも他者を警戒し疑っているのだから。
それは自身の心を守護する番犬の如く鋭く、そして何処までも虚しい。
終局的には、常に孤独で孤高に毎日を過ごすことができた。
誰にも気を遣わず、比較的楽に過ごせた。
だが退屈だった。
無意味だった。
こんな人生に、価値など無かった。
誰かがこの世に無駄なものなど無いと言ったが、一つだけ、俺の人生だけは無駄だった。
何のために生きているのかと問われれば答えは特に無く、けれど、じゃあ死ねばいいのではないかと言われても、何故死ぬのかという答えも同じく特に無かった。
生きる理由が無ければ、死ぬ理由も無い。
だからきっと、もし死が自分を迎えに来ても、きっと自分は他人事のように受け入れるのだろう。
ならばせめて、願わくば、ただ一握りの幸福を――。
そうして見限り、しかしその理想を胸に抱き続けたまま灰色となったこの世界で。
黒崎光の人生は――――早々に幕を閉じた。
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