Negative Fugitive

鬼灯二人

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第一幕『塞翁が馬』

閑話・上『名ばかりの休息 -ナバカリノキュウソク-』

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 ――これはバッドグリム討伐にシエラ・ルレスタも加わるという約束を半ば強引に受けてから出立するまでの間の、とある一日のこと。

「不器用な二人の親睦を深めるために、今日は街に出ようと思います!」

 お茶目にミツルとシエラの手を片方ずつ高々と持ち上げながら、アリヤは新たなる一日に元気よく宣言する。

 ミツルとシエラの二人が困惑に顔を歪ませる中で、ローリアだけが目の前でわあー、と楽しげに両手を挙げて真似をする。

 ――四人がいるのは、帝都リネモアにある噴水広場。
「集合場所どこにする?」という問いかけに対して高確率で返ってくるこの人気のスポットは、リー・スレイヤード帝国在住の人ならばまず知らぬ者はいない定番の場所である。

 走り回れるほど広い煉瓦れんが張りの地面をした広場、その中央に設置された噴水には、若い男女が両側から湾曲した取っ手の付いた水瓶みずがめを支えて傾けている独特な石像からなっている。
 水瓶の口からはひっきりなしにどばどばと水が溢れ、足もとの薄鈍色の円形の枠内にぶちまけている。溜まった水面の上ではどこかから飛来してきたであろう枯れた葉が延々周回しながら泳いでいた。

 水瓶からこぼしているのにと呼んでいいものかと疑問に思うが、誰として気にかけてはいないらしい。

「思います! じゃないよアリヤ。え、あれ、バッドグリム討伐は?」

「なんでこんな事になってるの?」といぶかしむシエラにアリヤは細っこい人差し指をぴっ、と立てながら、

「最後に農作物をられたのはごく最近。だから食べきるまで次は盗りに来ないと思う。よって明日か明後日でも大丈夫!」

 ついでに「期限までは聞かされてないし」と意外にも小悪魔的な発言を付け加えてアリヤは言い逃れる。

「だからって急過ぎないか……?」

「そんな事ないよ」

 乗り気でないミツルの重い声にも屈せず、アリヤは二人の間からするりと抜けるとミツルとシエラを自然と両隣に立たせるという高等テクニックを見せる。

「シエラは人見知りしちゃうし、ミツルも私とローリア以外仲の良い人いないでしょ? 友達の友達とかっていうそういう関係、なんか二人とも苦手っぽいからさ。それならもうその溝を埋めちゃおうって話になったの」

「誰と」

「ボクと」

 ミツルの短い一言に即答してきたのはローリアだ。

 ミツルはまた面倒なと、じとりとした目でローリアを睨めつけるが、アリヤと腹積もりしていたローリアは素知らぬ顔でにこやかに話の続きを待っている。

「一緒に国の外を出歩くのに、お互い何も知らない同士じゃ不安も残るでしょ?」

「「うっ……」」

 ごもっともなことを言われてミツルとシエラは反論できず、二人して首を縮めて唸る。

 危険のある場所で背中を預ける者としては、ほんの少しでも互いのことを知っておいたほうが断然安心できる。
 性格や癖の一つや二つ知っているだけでも有利に事を運べるというものだ。が、

「……街に出るっつっても、どこで何をするんだよ?」

 四人揃ってのお出かけに高揚しているローリアを横目にして、強制参加させられた本日の内容を聞くミツル。アリヤは「そうだなー」とあざとく指を顎に当てながら、

「一緒に街を見て回ったり、ご飯を食べたり、あとはお店に入ったり、かな?」

「なんで疑問形……?」

「決めてなかったのかよ」とミツルは呆れてぶつくさと言いはするものの、確かに知り合いの知り合いというのが居心地の悪いのも本音とするところではある。

 頑張って喋りかけはしても、すぐに助け舟として中心の人物に話を振ってしまうのはこの手の人間にはよくある事で、一人になったとき、もっと上手く話せなかったのかと反省のループに飲み込まれるものだ。

 反省して、次に備えて脳内シミュレーションを行い、それでも失敗しては一人密かに気分を沈める。

 そしてその気持ちはシエラも同じなのか、栗毛の少女を見ると気遣わしげな双眸と目が合った。

「…………」

「…………」

 互いに気まずさから生じるむず痒さにミツルは頭を掻き、シエラは身をよじらせてそっぽを向く。

「ほら、二人とも顔が硬いぞ。笑わないか」

 ローリアの声からは、どことなく面白がっているような意地悪な感じが伝わってくる。

「あのなぁ……」

 こういうのは第三者から口に出されることによってより意識してしまう。

 人見知りというのは通常の人よりも慣れるのが遅くはあるのだが、それでも決して仲良くなれないというわけではない。
 ふと気付いた頃には「あれ? 普通に話せてるな」と自覚して初めて仲良くなれたのだと認識できる。

 だからそれまでは茶々など入れずに気長に待ってほしいというのが、人見知りな人間の本心だ。

 しかし、時既に遅し。

 アリヤとローリアがタッグを組んでこうして間に割入ってしまっては、もう暗黙のルールもなにも無い。

 ――ミツルは諦念を織り交ぜた溜め息を軽く吐くと、シエラに向き直る。

「……そういうことらしいから、まあ、よろしくな」

 何がどうでそういうことなのか自身で突っ込みたくなるが、シエラにはどうやら伝わったらしく、

「あ、えと…………はい」

 ぎこちないながらも愛想笑いをしてくれる。

 アリヤとローリアはそんな二人のぎくしゃくとしたやり取りを見ると苦笑を浮かべた。

「――じゃあほら、浮かない顔してないで行くよ」

 笑顔でアリヤが先陣を切って歩みはじめると、後ろからついてくるローリアは二人の背中を押してうきうきと気分を募らせる。

「今日一日は、ミツルとシエラは極力隣同士でいることだな」

「余計なこと言うなよな……」

 押されながら、ミツルは肩から盛大に溜め息を吐いた。

 今日は一日を長く感じそうだなと困り果てながら空を仰ぎ見る。空は狙ったように晴天、嫌味かと口の中で不満を飲み込むミツルは、軽快に歩くアリヤの後ろを離れない程度の速さでついて行く。

 隣にはどぎまぎしてるのが目に見えてわかるシエラの横顔。緊張しているのか、時折同じほうの手足を前に出して歩いていた。

 何か話題を振らなければと思い悩めば悩むほど自然体を振る舞えなくなっていくのは、ミツルも緊張しているからではなかろうか。

 気遣いのできる人間同士は互いに過度な気を遣い合う反面、ぎくしゃくしがちだ。話し掛けたとき声が被ったらどうしようとか、この質問はしてもいいのだろうかとか、そんなことばかりを考える。
 ミツルかシエラの片方が気さくな性格ならまずこうはならない。アリヤとローリアがその良い例えだ。

 ――内心でアリヤとローリアを羨ましがりながら広場を出てしばらく帝都の石畳を歩いていると、様々な方向から香ばしい匂いが漂ってくる。

 思えば、朝はアリヤと共に寝坊をしたため朝食を摂っていない。
 ローリアとの約束があるとだけ事前にアリヤから言い渡されていたミツルは、まさかこんな事になろうとは思ってもみなかったのだ。

 そして今はもう早くも昼時。

 時間ぎりぎりに間に合わせたミツルとアリヤだったが、息も整った今では脳が食べ物を求めてより敏感に鼻を利かせる。

 遅刻しかけた分際でお腹が空いたなんて図々しいことは言えない。人通りの多い街中なら腹の音も誰にも聞こえないだろうと、そう思って黙っていたミツルだが、獣人の血統を持つシエラの栗毛の耳まではどうやら誤魔化せなかったようで、

「ミツルさん。お腹空いたんですか?」

「あーいや、その、――寝坊して、それで朝から何も食べてなくて……」

 おそるおそるシエラから言われてしまい、ミツルは照れ隠しにお腹を擦りながら言い訳をする。

「だから昨夜は早めに寝ようって話してたのに、ミツルったら家の外で遅くまで夜風に当たってるんだもん」

「あそこからの景色が好きで、考え事するのにちょうどいいんだよ」

 二人のやり取りを聞いて振り向いたアリヤに暴露され、ミツルは少しばかりの淀みを含んだ声で返す。

「……とはいえ、俺が寝るまで待っててくれたのは悪いと思ってる。今日は帰ったら早めに寝よう」

 欠伸混じりに言うミツルに、ローリアはアリヤに並びながら自身も腹に手を当てがる。

「まあ、ちょうど昼時だし、どこかのお店にでも入ろうか。わざと減らしてきたから、実を言うとボクももうぺこぺこなんだ」

 この日をよほど楽しみにしていたのか、ミツルとシエラの親睦を深める目的を見失っていそうなほどローリアは顔を輝かせながら言う。

「俺はなんでもいい――っていうより、そもそもどんな料理があるかわからん。三人で決めてくれ」

 優柔不断以前に異世界の料理を知らないミツル。この世界での料理と言われてミツルの頭に思い浮かぶのは、メルヒムに来てからおそらく最も食べているであろうアリヤの手料理、その辺に売っている串焼きや干し肉、それから前にローリアに味見させてもらったマーマラードのシチューくらいのものだ。

 元いた世界ではしょっちゅう一人で店におもむくことはあったが、メルヒムに転生させられてからはミツル一人で自ら料理屋に入るなんてことは無い。
 文字をある程度読めるようになったとは言っても、いかんせん料理名が聞いたことのないものばかりなのだ。そんな状態で適当に選んで変なものでも出されたらと思うと、なかなか行く気にはなれない。

「今日は二人が中心なんだし、ミツルがそう言うならシエラが選ぶといいよ」

「え、悪いよ。ミツルさんは知らないって言ってたからともかく、二人もそれぞれ何か食べたいものとかあるんじゃ……」

 シエラはそう言って否定から入る。

 気遣いができるというのはアリヤも言う通り良いことではあるのだが、かといって何でもかんでも自分より他人を優先すれば、それがその人達にとって必ずしも嬉しいということでもない。優しいアリヤとローリアは、シエラのそんな性格をよく知っているからこそ怒ったり咎めたりなどしないが、気遣いも度が過ぎれば嫌味と捉えられることも少なくないのだ。ミツルはそれをよく体験してきた。

「ボクも基本好き嫌いは無いからね。アリヤの意見に賛成だ。――ああでも、ラートゥナだけはやめてくれ。あの辛くてヌメヌメしたのだけはどうもボクの口には合わない」

 わざわざラートゥナとやらを食べたときのことを思い浮かべたのか、うへー、と顔を歪ませながらローリアは前もって告げる。

「ほら、ローリアもこう言ってることだしさ。私達の仲なんだから、遠慮なんて無しだよ」

「…………」

 それが本当にアリヤやローリアの本音なのか、実は気遣う自分が逆に気遣われているんじゃないかと、ミツルばりにそんな否定的な思考を巡らせるシエラに、ミツルはそっと言葉を掛ける。

「合理的に考えればいいんじゃないか。皆があれがいいこれがいいって言い出せば、まとまる意見もまとまらない。投げやりではあるけど、シエラ一人に任せれば食べ物なんかで揉めることも無いだろ」

「ミツルさん……」

 食事ひとつでここまで迷い悩むシエラは、小さな声で名前を呼んでミツルの顔を見上げる。それから再びアリヤとローリアへ向き直ると、彼女達は微笑ましくシエラを見ていた。

「じ、じゃあ――」

 三人に向けられた視線を受けてシエラは上ずった声を改めると、

「お言葉に甘えよう、かな」

 ほくそ笑んでそう言った。


 ~ ~ ~ ~ ~


 シエラがじっくり十分ほどかけて悩んで選び抜いた店は、何本も柔らかく細長いものが皿に盛られ、その上にメニュー別に違うソースがかけられた紐状の料理――ミツルの元いた世界でいう、所謂パスタ料理を得意とする専門店だった。

 飛び散ったソースが見えにくいよう留意された焦茶色の前掛けエプロンを腰に巻いた店員に促されボックス席に来て座ると、ミツルの隣にシエラ、対面側にアリヤとローリアの二人が着席する。

 読めはしても理解できないのと、彼女たちが見えやすいようにという理由でミツルはメニュー表を逆さにして中央に置く。

「シエラはパス――、この料理が好きなのか?」

 アリヤとローリアが寄り添い合って先に注文するメニューを決めている間、言葉を濁しながらも話し掛けるミツル。

「はい。私の口に合っているのか、とても美味しいです。このお店にも何度か来たことがあるんですよ」

 そう言うシエラ達の前に店員から水の入ったコップが人数分置かれる。ミツルはそれぞれアリヤ、ローリア、シエラ、そして最後に自分の近辺にコップを移動させつつ、注文の品を選び終わったろうアリヤにメニュー表を見ながら聞く。

「この……、カリオル? ってやつは、どんな料理なんだ?」

「んー、すっごく簡単に言えば、焼いた白身魚と野菜が具として入ってる感じかな。軽めのさっぱりしたやつだよ」

 アリヤの説明が終わるのを待ったあと、シエラは「あ、私はそれにしようと思ってます」とミツルの横からメニュー表を覗いてくる。

「……ってことは、あとは俺待ちか」

「急がなくてもいいさ。四人で外食なんて初めてだ。ゆっくりと決めてくれ」

 少しばかり焦りを見せるミツルに、ローリアはコップの水を一口含みながら微笑む。

「写真が載ってたり、食品サンプルでもあればわかりやすいんだけどな……」

「食品サンプルってなんですか?」

 ぶつぶつと思わず漏れ出たミツルの言葉に、隣に座るシエラが水を飲みかけていた手を止めて反応する。

「あ、えーと……。料理の模型って言えばいいのかな。食えはしないんだけど、店頭に料理名と一緒に並べとけば、一目でどんな料理なのかが分かるんだ」

「へー! そんなのがあるんですね」

「ボクも初めて耳にするな。なかなかに画期的じゃないか」

 二人のやり取りを聞いたローリアも、興味深げに少し身を乗り出す。

「ミツルさん、よく知ってますね。物知りで羨ましいです」

「いや……俺の故郷では普通にあっただけなんだけどな」

 そうか、この世界には無いのかと自分の元いた世界との差異を感じながら、ミツルは再びメニュー表を流し見る。

 ズルーガのパスタ、マーマラードのパスタ、先ほどローリアの口から出たラートゥナという単語のパスタ……エトセトラエトセトラ。

 わかんねー、と口の中で淀むミツルを察したのか、アリヤは微かに苦笑すると話しかけてくる。

「私が家で作ってるなかで、ミツルが気に入ってくれてる料理があるよね。それを絡めた物ならあるけど、それにしておく?」

「ああ、それだ。それがいい」

 無意識に眉間に皺が寄っていたミツルは、アリヤのその言葉に救われて即答する。

 ミツルが居候となっているアリヤの家で食べる料理の中で、ミツルが初めて食べたときから好いているものがいくつかある。

 アリヤにその中のどれなのかを聞こうと口を開きかけるが、あえて聞かないことである種ルーレットみたいで面白いかと、そう思ったミツルは言葉を押しとどめた。

 そんなミツルの隣で、シエラが何やらぽかんと呆けているのにアリヤが気付く。

「どうしたの、シエラ?」

 アリヤが聞くと、力無く口を開けていたシエラは耳をぴん、と天井に向けて勢いよく伸ばす。

「……え、私の家でっ、て……。アリヤ、ミツルさんと暮らしてるの?」

「言ってなかったっけ?」

「聞いてないよ!」

 ミツルの顔をちらりと一瞥して、シエラは「だってそれって男女が二人きりって……」と一人早口で小さく呟きながら取り乱す。

「ローリアは二人が同居してるって知ってたの?」

「知っているよ? というかシエラ、さっきの寝坊の話で気づいてなかったのかい?」

 裏返ったシエラの声はローリアへ向けられるが、ローリアは至って平然と返す。

「だって、あの時は緊張してて……」

 言いながらもう一度ミツルを軽くチラ見するシエラ。そんな彼女にミツルは誤解を招かないよう言っておく。

「シエラが思ってるようなことは無いから。アリヤがいつも宿に泊まってる俺を見かねて住まわせてくれてるだけだよ。ちゃんと食費も出してる」

 ミツルの言葉を尖った耳に入れてアリヤを見ると、アリヤもはにかみながらシエラに頷いて見せた。

「な、なんだ。そうだったんだ……」

 事の成り行きを聞いて落ち着きを取り戻したシエラを全員でさらにおだてた後、ローリアが店員を呼ぶ。

 少し待ってから店員がやって来ると、アリヤが懇切丁寧に注文する。ミツルはそれぞれが頼んだものをメニュー表から探していたが、見つけ出せなかったものはシエラが指をさして教えてくれた。

 料理が運ばれてくるまでの待ち時間の間、何の気なしに雑談が始まる。

「――食べたあとはどこに行くか決まってるのか?」

 ミツルの顔はアリヤへと向けられているが、言葉は三人にあてたものだ。
 曖昧なプランで当日を迎えるというのはアリヤらしからぬ行動だが、それもその場その場で計算して動くローリアと練ったものであると考えたならば、何もおかしい話ではない。

「各々でどこか用事がある所とかはないのかい? ボクはあるんだけど」

 ミツルの質問にさらなる質問を加えてローリアは呟く。

「どんな用事だ?」

 聞くと、ローリアは残りの水を飲み干してミツルのほうへ顔を向ける。ミツルが気を利かせて卓上の端に置かれたピッチャーを手に取り空になったローリアのコップに水を注ぐと、ローリアは「ありがとう」と言葉初めに礼を付け、

「材料が少しと、資料を何冊かね。今取り組んでる試験薬がもう少しで完成しそうなんだ」

「危ないやつじゃないだろうな……」

「危ないもんか! むしろ今までにない傑作の――」

 独自製法の薬と聞いてミツルが胡乱げな表情で聞くとローリアは真っ向から否定するが、彼女は早口でまくし立てていたその口を不意に閉ざした。

「……傑作の?」

「……いや、何でもない。――それよりほら、シエラも行きたい場所はないのかい?」

 数秒の間を置いてミツルは言葉を復唱するも、ローリアははぐらかすように話題を変えてしまった。

 少しばかりの不満を残しながらも、ミツルは追求するのは悪いと思い出かかった言葉を喉の奥に引っ込める。

 そこで注文した料理が盆に乗って来て、机の上に人数分置かれていく。シエラはその様子を流し見ながら、

「あるにはある、けど……」

 尻すぼみな声を発しながら頬を少しばかり赤らめる。

『ミツル』というよりかは『男性』ということに遠慮があるらしい目で、シエラはちらりとミツルのほうを再三見やる。だからミツルはそれを見越した上で、

「俺のことなら、二人と同じで気にしなくていいから」

 そう言ってシエラの遠慮じみた緊張をほぐしていく。

 四人が各自でフォークを手に取り食べ始める中でシエラはすくった麺を空中で停滞させる。

「……まだご飯中なのに食い意地が汚いんですけど、その……、気になってるお菓子屋さんがあって……」

「あ、それってもしかして、あの色とりどりの綺麗なとこ?」

 シエラなりに頑張って言ったであろう言葉にアリヤが反応して、口の中のものを飲み込んでから言う。

「アリヤ知ってるの?」

「知ってるっていうか、新しくできたお店だし私も気になってたんだ。いつ見ても人が沢山いて、なんだか人気店っぽいし」

 黙々とお皿の上のパスタをフォークでくるくると回す肩身の狭いミツルの前で、女の子らしい会話が飛び交う。

 本音で言っているのか、シエラを思って乗っかっているのかそれはアリヤにしかわからないが、どちらにしてもシエラは顔を綻ばせる。

「お菓子か。甘いものは頭の巡りを良くさせるし、ボクも行ってみたいな」

 二人のやり取りを聞いていたローリアも話に乗っかる。

「じゃあひとまずこれ食べて、ローリアの買い物済ませたらそこに行こっか」

「やった!」

 喜びの声を上げるシエラをよそに、アリヤはミツルにも確認をとってくる。

「ね、ミツルもいいよね?」

「ああ、もちろん」

 ミツルは断る理由もなく、隣で嬉しそうな笑顔を浮かべるシエラを見ながら相槌を打つ。

 女性陣には別腹でデザートとしてちょうどいいだろうとこの中で唯一の男であるミツルは内心一人思いながら、残りわずかとなったパスタを引っ張り上げて口に入れる。

 ――その後数分が経ってアリヤとローリアも綺麗に完食すると、それを見たシエラは焦った様子で急ぎはじめる。

「ゆっくり、よく噛んで食べないと喉に詰めるぞ」

「慌てなくてもいいからね、シエラ。私もおなかいっぱいでちょっと休暇挟みたいし」

 焦るシエラをローリアとアリヤがなだめ、アリヤは机についた両肘の上に顎を乗せて小動物のようにせっせと食べるシエラを眺める。

 沈黙はシエラをより不安にさせると、アリヤは朗らかさを維持し続ける。

「シエラが食べてるの、私見るの好きなんだ」

 磁力でも纏っているのか、アリヤの言葉と視線にミツルは自然と目を吸い寄せられる。

「どういうとこが?」

「んー。――ほら、可愛いでしょ?」

 至極優しげなうっとりとした目でシエラを眺めるアリヤに、ミツルもつられて隣のシエラをちらりと見る。

 もっちゃもっちゃと食べることに一生懸命なシエラはアリヤとミツルの視線に気付いていない。リスのように両頬を膨らませながら一心に頬張る表情と、四人の中で一番身体が小さいということもあって、その姿はいつまでもずっと温かく見ていられるような、そんな愛らしい見た目をしている。

「シエラとご飯を食べに出掛ける理由のひとつでもあるんだ」

「美味しそうに食べるし、確かにボクも見ていて飽きないんだよね。シエラの食事姿は」

 いつからかローリアの目もシエラに向けられていて、合計六つの目線が栗毛の小動物に集中する。

 やがて食べ終わったシエラが口元を拭きながら顔を上げると、そこにはじっと自分を見つめる三人の姿があり、少女はご満悦な表情から一転、仰天へと変わる。

「な、なに……?」

「いや、微笑ましいなと思ってね」

 状況が理解できず戸惑っているシエラにローリアはそう言う。

「みんな足りた?」

 アリヤの言葉にミツル、ローリア、シエラがそれぞれ肯定の返事をとると、ローリアが机に手をついて立ち上がる。

「それじゃあ、お腹も膨れたことだし出ようか」

「そうだね」

 ローリアとアリヤが立ち上がるのを見てミツルも最後にコップの水を一口飲むと席を立った。

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