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19.受難を乗り越えたら大団円だった(完)
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仁王だちするストロベリーを見上げると、ショッキングピンクの髪を手の甲で捌き、まっすぐ俺を睨み付けていた。
それは、学校ですれ違った時の敵意より強く殺意と言ってもいいぐらいの強い目だった。
「何で、、、何であんたが、、、先輩の横に並ぶのは、私だったはずなのに!!!!」
今まで美少女戦士としてどんな怪人を相手にした時でも見せなかった、強い殺意の籠った目。思わずその目に呑まれている間に、ストロベリーは腰を落として再び蹴り上げる体制に入っていた。
「ヨータ!!!」
「早く、早く先輩の横から、退けーーー!!」
フランくんの焦った声と、ストロベリーの怒鳴り声が聞こえる。でもそれよりも俺の耳にはっきり聞こえるのは、あたりの携帯から鳴り響く呼び出し音だった。
ーーーピコンーーー
ーーーピコンーーー
ーーーピコンーーー
わずかなタイムラグで鳴り響くのは「怪人出現」を知らせるモブの呼び出し音。
わざわざ携帯を確認しなくても、俺には怪人が出現した場所が分かっていた。
俺を蹴り飛ばそうと、軸足に体重を乗せようとしたストロベリーがバランスを崩したように踏みとどまる。あれはきっと幹部から力を与えられた反動だ。
目の前からゆらりと立ち昇るのは、誰よりも濃く多い「暗い感情」から溢れ出る「黒い淀み」
力を与えられた反動を制ししっかりと両足を踏み締め、俺の目の前に立っていたのは
「怪人ストロベリー」
呆然と見上げながら、自然とその名前が口に出た。
美少女戦士の時でさえ圧倒的な強さで、数しか揃えれない帝国の勢力を蹴散らしていた彼女。それがその帝国よって更に力を与えられ、最強な怪人と成り果ててしまった。
だが、彼女は四天王の中でも最弱、、、とは続かないよね?と心配になるほどシリアスなムードに俺は完全に腰が引けてる。つまりびびっていた。
淡々と怪人退治をしていた時には、ただ蹴散らすだけだったモブな俺に対して目をくれることもなかったストロベリー。
だが、皮肉なことにかつての美少女戦士は怪人に。そして悪役手下のモブでしかなかった俺が魔法戦士という、立場が逆転したことによって彼女の目にはバッチリ俺が映っている。美少女に見つめられるなんて初めての経験だが、そこに甘い空気はなく、射殺さんとする殺気たっぷりな目線を向けられビビらないやつなんているのか?いや、いない。絶対いないと断言できるくらい、この視線が怖い。
蛇に睨まれた蛙状態の俺の背中に、そっと支えるように添えられた温もりを感じた。
「ストロベリー、、なんのつもりですか?」
俺を支える手の持ち主、フランくんがいつになく冷たい声で問いかけた。だがその手からは温かい魔力を感じる。すっかり魔力が空っぽになってしまった俺の体に、それは心地よく流れてきた。冷たい声と、温かい魔力を同時に出すという器用なことをするフランくんに、ストロベリーが縋るように目線を向けた。
「先輩こそ、これはどう言うこと何ですか!あなたの隣は私のはずでは!!」
問いかけるというより、責め立てるような声に比例してストロベリーの「暗い感情」が膨れ上がっていくのを感じる。本当に今まで見た事がないほどの強い感情に、俺の冷や汗は止まらない。
「思い上がるな。俺が今までそんなこと一度でも言ったことあるか」
「そんな、、、私はずっと先輩のためにここまで、、」
「俺が知らないと思っていたか。お前が必要以上の暴力を振るっていたことを!」
「、、!!そ、そんなこと、、」
「ないとは言わせないぞ!!」
俺を挟んで何やら感情的に言い争う二人と、完全に空気な俺。
え、えっと、、帰っちゃダメかな、、?
フランくんが冷たい言葉を投げかける度にどんどんストロベリーの感情が膨れ上がって、もう爆発寸前。
もうやだ。怖すぎる。今すぐここを立ち去りたい。
ストロベリーの後ろに見えるモブの皆さんも、散々今まで痛めつけられていたストロベリーが上司として登場したことに戸惑っているのが伝わってくる。いや、本当に怖いよね。
なんて他人事な空気を出していたのがバレたのか、フランくんと言い争っていたストロベリーが急に俺に視線を向けてきた。もうその身に纏う「暗い感情」の圧がすごい。視線と共にのしかかってくるようで、窒息しそうだ。
そして、ストロベリーの意識が俺に向いたからか、急に不穏に動く手が一つ、、、俺の背中から魔力を流していたはずのフランくんの手だ。
すー、、、、っと下に滑ってきた手はそのまま俺の尻へ。ちゃっかり尻を撫でつつ、その手はあり得ないところに付いているジッパーへと辿り着いたのを感じ、俺は焦った。
え!?何してんの!マジで!!
「昔から人を痛めつけるお前の行動は、俺には受け入れられなかった」
とか、何とか口ではストロベリーを糾弾しつつ、手は確実に俺の尻を狙っているフランくん。控えめに言っても最低です。人として最も底辺にいる。最低。
「ヨータ、さっさと彼女を浄化しましょう。何なら消し去ってしまっても構いません」
足りない魔力は、今すぐここに注いであげますからね。と耳元で囁く言葉に俺は震え上がった。
『戦闘中でも魔力の補給ができるんです』
そう言って鏡の前で挿入された恐ろしい記憶が思い出される。こんな外で、、!しかも人前であんなことされるなんて絶対に無理!!鏡で見ただらしない顔をした自分が思い出されて、俺はかつてない危機を感じた。
目の前には、今にも俺を殺しそうな凶暴女。後ろにはなぜこんな状況で興奮できるのか、硬いものを押し付けお尻のジッパーを開けようとしてくる最低男。
俺、なんか悪いことした?何でこんな酷い目に遭いそうなの?
そんな俺の疑問に答えてくれる人なんているわけもなく、でもこのままただ震えてるだけでは俺は肉体的にも、社会的にも死ぬのがわかったので必死に考えるしかなかった。
必死に、本当に必死になって考えたけど、所詮な俺の頭。こんな時でも回ってくれるわけでもなく、結局思いついたのは舌を絡ませた濃厚な魔力交換。
これも恥ずかしい。恥ずかしいけど、お尻に入れられちゃうよりはマシ!!と俺は必死に思い込むと、さっきから不埒な動きをするフランくんの手をぎゅっと握ると、勢いよく振り向いてフランくんに体当たりのようにキスをした。
「!!ちょっと!?何をしているの!?!」
ストロベリーの抗議は聞き流しながら、俺は必死に舌をフランくんの舌に絡ませる。突然のキスシーンに周りの戸惑いの声が聞こえるけど、でも挿入よりマシ。人前で入れられるよりマシ。それだけを考えて魔力を吸い取った。
羞恥心というものがないフランくんは、すぐにノリノリになって俺の舌に絡ませてついでに息苦しいぐらい抱きしめてきた。完全にその気になったものが下半身に擦り付けられるが、これだけは絶対阻止する。
さっきまで空っぽだった魔力が指先まで巡る感触を確かめると、俺はフランくんから口を離した。口と口の間を細い唾液の糸が引っ張られ、プツンと切れる。それだけ濃厚に唾液の交換をしていた証明みたいで、俺は恥ずかしい衝動に駆られそうになったが、背後に感じる殺気に正気に戻った。
もうこんな怖い目を向けられるのは懲り懲りだ。
俺は一度深く息を吐くと、ゆっくり振り返ってストロベリーに向かって手を伸ばした。
三度目の正直とは行かないけど、これで成功すれば3回目の浄化だ。さっきの感覚を思い出して手のひらに魔力を集める。
ただストロベリーの浄化を願う。フランくんみたいな酷い男に惚れたのが彼女の災難だったのだろう。
さっきの一方的な会話は、聞いている俺でも嫌になるような酷い言い方だった。俺に対する態度とはまるで違う、彼女を消し去ってもいいなんて言うフランくんは冷酷な人なんだろう。そんな彼に選ばれた俺が願うのも烏滸がましいだろうが、俺はストロベリーがフランくんから解放されることを心から願った。
先程のような一体を覆う強い光ではなく、ストロベリーだけを柔らかな光が包み込んだ。窒息しそうなほど膨れ上がった『暗い感情』がゆっくりその光に飲み込まれていく。
そして全てが消えた頃、光の中心では不安そうな顔をした少女が、ふらふらっと揺れた後ペタンと地面に座り込んでいた。その顔からは美少女戦士ストロベリーも、怪人ストロベリーの面影もなくただ年相応な可愛らしい様子で、俺はこの子の何が怖かったのだろうかと疑問に思うほどだった。
こうして、完全に空気と化したフランくんを置き去りにして、俺の恥ずかしくて最低で最悪な、でもちょっとホッとした初陣は幕を下ろしたのだった。
+++++++++++
「ヨータ!どうしてコスチュームを着てくれないんですか?!」
あれからちゃんと王国と契約をした俺は、魔法戦士として浄化をすれば報酬がもらえるようになった。でも怪人とはなるべく遭いたくないので「街をぶらつき少しでも『暗い感情』を見つけたらその場で浄化する」作戦で見回りをすることにしている。どうせモブの時も小瓶を持って淀み集めをしていたから、やっていることはたいして変わっていない。
もちろんこの予防浄化でも報酬がもらえるように説得済だ。
ただフランくんはコスチュームを着て怪人と派手な戦いを望んでいるようで、毎日不満ばかり言っている。もちろんもし怪人が出たとしてもあんなコスチューム絶対着ないけどな。
変装の意味があるなら、と思ったけど即バレなうえ、ただただ恥ずかしいだけの服なんて二度と着ない。お尻の危険も高すぎる。
そうそう、俺の恥ずかしいコスチュームを見られてしまった葉山には、あの後散々揶揄われた。そしてやっぱり小瓶の中身を全て浄化してしまったことを怒られた。
敵に寝返りモブの生活を支える大事な家業を潰してしまったから、責められ縁を切られることは覚悟していたけど散々俺を揶揄ってスッキリしたのか、一回怒っただけで今も仲良くしてくれている。
というのも、葉山もこの家業に限界を感じていたと、打ち明けてくれたからだ。今は家族で新たな仕事探しに奔走しているようだ。他のモブ仲間でも転職を考えている人が増えている。
それだけ俺の予防浄化で怪人が激減したってことなんだけど、ストロベリーの暴力に体も心もボロボロだったモブたちは、この仕事にあっさり見切りをつけたようだった。
「フランくんは、こうやって恋人としてデートするの嫌なの?」
いつまでもうるさいフランくんに、俺はあざとく指を絡ませる恋人繋ぎをしながら、エメラルドに輝く瞳で上目遣いで言ってみた。
毎日街をぶらつくときは必ずフランくんが付いてくる。おかげで二人でいろんなところに行けて俺は楽しいのにな~。もしかしてフランくんは違うのかと聞くと、歯切れ悪く否定の言葉が聞こえた。
そんな最低だけど俺には優しい恋人の様子に満足した俺は、にっこり笑って今日も街のパトロールに出発した。
おしまい
------------------------------
拙い作品でしたが、ここまで読んでいただきありがとうございました!
この2人の話はこれでおしまいですが、続編を別キャラクターで考えています。
メンヘラ騎士×悪役幹部
今まだ書き溜めているところですが、完結したら投稿する予定ですので、またご縁がありましたら読んで頂けると幸いです。
それは、学校ですれ違った時の敵意より強く殺意と言ってもいいぐらいの強い目だった。
「何で、、、何であんたが、、、先輩の横に並ぶのは、私だったはずなのに!!!!」
今まで美少女戦士としてどんな怪人を相手にした時でも見せなかった、強い殺意の籠った目。思わずその目に呑まれている間に、ストロベリーは腰を落として再び蹴り上げる体制に入っていた。
「ヨータ!!!」
「早く、早く先輩の横から、退けーーー!!」
フランくんの焦った声と、ストロベリーの怒鳴り声が聞こえる。でもそれよりも俺の耳にはっきり聞こえるのは、あたりの携帯から鳴り響く呼び出し音だった。
ーーーピコンーーー
ーーーピコンーーー
ーーーピコンーーー
わずかなタイムラグで鳴り響くのは「怪人出現」を知らせるモブの呼び出し音。
わざわざ携帯を確認しなくても、俺には怪人が出現した場所が分かっていた。
俺を蹴り飛ばそうと、軸足に体重を乗せようとしたストロベリーがバランスを崩したように踏みとどまる。あれはきっと幹部から力を与えられた反動だ。
目の前からゆらりと立ち昇るのは、誰よりも濃く多い「暗い感情」から溢れ出る「黒い淀み」
力を与えられた反動を制ししっかりと両足を踏み締め、俺の目の前に立っていたのは
「怪人ストロベリー」
呆然と見上げながら、自然とその名前が口に出た。
美少女戦士の時でさえ圧倒的な強さで、数しか揃えれない帝国の勢力を蹴散らしていた彼女。それがその帝国よって更に力を与えられ、最強な怪人と成り果ててしまった。
だが、彼女は四天王の中でも最弱、、、とは続かないよね?と心配になるほどシリアスなムードに俺は完全に腰が引けてる。つまりびびっていた。
淡々と怪人退治をしていた時には、ただ蹴散らすだけだったモブな俺に対して目をくれることもなかったストロベリー。
だが、皮肉なことにかつての美少女戦士は怪人に。そして悪役手下のモブでしかなかった俺が魔法戦士という、立場が逆転したことによって彼女の目にはバッチリ俺が映っている。美少女に見つめられるなんて初めての経験だが、そこに甘い空気はなく、射殺さんとする殺気たっぷりな目線を向けられビビらないやつなんているのか?いや、いない。絶対いないと断言できるくらい、この視線が怖い。
蛇に睨まれた蛙状態の俺の背中に、そっと支えるように添えられた温もりを感じた。
「ストロベリー、、なんのつもりですか?」
俺を支える手の持ち主、フランくんがいつになく冷たい声で問いかけた。だがその手からは温かい魔力を感じる。すっかり魔力が空っぽになってしまった俺の体に、それは心地よく流れてきた。冷たい声と、温かい魔力を同時に出すという器用なことをするフランくんに、ストロベリーが縋るように目線を向けた。
「先輩こそ、これはどう言うこと何ですか!あなたの隣は私のはずでは!!」
問いかけるというより、責め立てるような声に比例してストロベリーの「暗い感情」が膨れ上がっていくのを感じる。本当に今まで見た事がないほどの強い感情に、俺の冷や汗は止まらない。
「思い上がるな。俺が今までそんなこと一度でも言ったことあるか」
「そんな、、、私はずっと先輩のためにここまで、、」
「俺が知らないと思っていたか。お前が必要以上の暴力を振るっていたことを!」
「、、!!そ、そんなこと、、」
「ないとは言わせないぞ!!」
俺を挟んで何やら感情的に言い争う二人と、完全に空気な俺。
え、えっと、、帰っちゃダメかな、、?
フランくんが冷たい言葉を投げかける度にどんどんストロベリーの感情が膨れ上がって、もう爆発寸前。
もうやだ。怖すぎる。今すぐここを立ち去りたい。
ストロベリーの後ろに見えるモブの皆さんも、散々今まで痛めつけられていたストロベリーが上司として登場したことに戸惑っているのが伝わってくる。いや、本当に怖いよね。
なんて他人事な空気を出していたのがバレたのか、フランくんと言い争っていたストロベリーが急に俺に視線を向けてきた。もうその身に纏う「暗い感情」の圧がすごい。視線と共にのしかかってくるようで、窒息しそうだ。
そして、ストロベリーの意識が俺に向いたからか、急に不穏に動く手が一つ、、、俺の背中から魔力を流していたはずのフランくんの手だ。
すー、、、、っと下に滑ってきた手はそのまま俺の尻へ。ちゃっかり尻を撫でつつ、その手はあり得ないところに付いているジッパーへと辿り着いたのを感じ、俺は焦った。
え!?何してんの!マジで!!
「昔から人を痛めつけるお前の行動は、俺には受け入れられなかった」
とか、何とか口ではストロベリーを糾弾しつつ、手は確実に俺の尻を狙っているフランくん。控えめに言っても最低です。人として最も底辺にいる。最低。
「ヨータ、さっさと彼女を浄化しましょう。何なら消し去ってしまっても構いません」
足りない魔力は、今すぐここに注いであげますからね。と耳元で囁く言葉に俺は震え上がった。
『戦闘中でも魔力の補給ができるんです』
そう言って鏡の前で挿入された恐ろしい記憶が思い出される。こんな外で、、!しかも人前であんなことされるなんて絶対に無理!!鏡で見ただらしない顔をした自分が思い出されて、俺はかつてない危機を感じた。
目の前には、今にも俺を殺しそうな凶暴女。後ろにはなぜこんな状況で興奮できるのか、硬いものを押し付けお尻のジッパーを開けようとしてくる最低男。
俺、なんか悪いことした?何でこんな酷い目に遭いそうなの?
そんな俺の疑問に答えてくれる人なんているわけもなく、でもこのままただ震えてるだけでは俺は肉体的にも、社会的にも死ぬのがわかったので必死に考えるしかなかった。
必死に、本当に必死になって考えたけど、所詮な俺の頭。こんな時でも回ってくれるわけでもなく、結局思いついたのは舌を絡ませた濃厚な魔力交換。
これも恥ずかしい。恥ずかしいけど、お尻に入れられちゃうよりはマシ!!と俺は必死に思い込むと、さっきから不埒な動きをするフランくんの手をぎゅっと握ると、勢いよく振り向いてフランくんに体当たりのようにキスをした。
「!!ちょっと!?何をしているの!?!」
ストロベリーの抗議は聞き流しながら、俺は必死に舌をフランくんの舌に絡ませる。突然のキスシーンに周りの戸惑いの声が聞こえるけど、でも挿入よりマシ。人前で入れられるよりマシ。それだけを考えて魔力を吸い取った。
羞恥心というものがないフランくんは、すぐにノリノリになって俺の舌に絡ませてついでに息苦しいぐらい抱きしめてきた。完全にその気になったものが下半身に擦り付けられるが、これだけは絶対阻止する。
さっきまで空っぽだった魔力が指先まで巡る感触を確かめると、俺はフランくんから口を離した。口と口の間を細い唾液の糸が引っ張られ、プツンと切れる。それだけ濃厚に唾液の交換をしていた証明みたいで、俺は恥ずかしい衝動に駆られそうになったが、背後に感じる殺気に正気に戻った。
もうこんな怖い目を向けられるのは懲り懲りだ。
俺は一度深く息を吐くと、ゆっくり振り返ってストロベリーに向かって手を伸ばした。
三度目の正直とは行かないけど、これで成功すれば3回目の浄化だ。さっきの感覚を思い出して手のひらに魔力を集める。
ただストロベリーの浄化を願う。フランくんみたいな酷い男に惚れたのが彼女の災難だったのだろう。
さっきの一方的な会話は、聞いている俺でも嫌になるような酷い言い方だった。俺に対する態度とはまるで違う、彼女を消し去ってもいいなんて言うフランくんは冷酷な人なんだろう。そんな彼に選ばれた俺が願うのも烏滸がましいだろうが、俺はストロベリーがフランくんから解放されることを心から願った。
先程のような一体を覆う強い光ではなく、ストロベリーだけを柔らかな光が包み込んだ。窒息しそうなほど膨れ上がった『暗い感情』がゆっくりその光に飲み込まれていく。
そして全てが消えた頃、光の中心では不安そうな顔をした少女が、ふらふらっと揺れた後ペタンと地面に座り込んでいた。その顔からは美少女戦士ストロベリーも、怪人ストロベリーの面影もなくただ年相応な可愛らしい様子で、俺はこの子の何が怖かったのだろうかと疑問に思うほどだった。
こうして、完全に空気と化したフランくんを置き去りにして、俺の恥ずかしくて最低で最悪な、でもちょっとホッとした初陣は幕を下ろしたのだった。
+++++++++++
「ヨータ!どうしてコスチュームを着てくれないんですか?!」
あれからちゃんと王国と契約をした俺は、魔法戦士として浄化をすれば報酬がもらえるようになった。でも怪人とはなるべく遭いたくないので「街をぶらつき少しでも『暗い感情』を見つけたらその場で浄化する」作戦で見回りをすることにしている。どうせモブの時も小瓶を持って淀み集めをしていたから、やっていることはたいして変わっていない。
もちろんこの予防浄化でも報酬がもらえるように説得済だ。
ただフランくんはコスチュームを着て怪人と派手な戦いを望んでいるようで、毎日不満ばかり言っている。もちろんもし怪人が出たとしてもあんなコスチューム絶対着ないけどな。
変装の意味があるなら、と思ったけど即バレなうえ、ただただ恥ずかしいだけの服なんて二度と着ない。お尻の危険も高すぎる。
そうそう、俺の恥ずかしいコスチュームを見られてしまった葉山には、あの後散々揶揄われた。そしてやっぱり小瓶の中身を全て浄化してしまったことを怒られた。
敵に寝返りモブの生活を支える大事な家業を潰してしまったから、責められ縁を切られることは覚悟していたけど散々俺を揶揄ってスッキリしたのか、一回怒っただけで今も仲良くしてくれている。
というのも、葉山もこの家業に限界を感じていたと、打ち明けてくれたからだ。今は家族で新たな仕事探しに奔走しているようだ。他のモブ仲間でも転職を考えている人が増えている。
それだけ俺の予防浄化で怪人が激減したってことなんだけど、ストロベリーの暴力に体も心もボロボロだったモブたちは、この仕事にあっさり見切りをつけたようだった。
「フランくんは、こうやって恋人としてデートするの嫌なの?」
いつまでもうるさいフランくんに、俺はあざとく指を絡ませる恋人繋ぎをしながら、エメラルドに輝く瞳で上目遣いで言ってみた。
毎日街をぶらつくときは必ずフランくんが付いてくる。おかげで二人でいろんなところに行けて俺は楽しいのにな~。もしかしてフランくんは違うのかと聞くと、歯切れ悪く否定の言葉が聞こえた。
そんな最低だけど俺には優しい恋人の様子に満足した俺は、にっこり笑って今日も街のパトロールに出発した。
おしまい
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拙い作品でしたが、ここまで読んでいただきありがとうございました!
この2人の話はこれでおしまいですが、続編を別キャラクターで考えています。
メンヘラ騎士×悪役幹部
今まだ書き溜めているところですが、完結したら投稿する予定ですので、またご縁がありましたら読んで頂けると幸いです。
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しまん様
感想ありがとうございます♪面白いと感じていただけてとても嬉しいです!
物理少女(笑)は元々暴力的で王国でも手に余ってたので、送り込まれました。なので力の源は無く、彼女の才能です。
その番い相手に選ばれたフランは嫌で、慌ててこっちの世界で番いを探そうと先にやってきたので、ストロベリーより学年が上なのです。って言うエピソード入れたかったのですが、上手く入れれなくてここで説明すると言うカッコ悪さ^^;
フランはカッコいいことを自覚していてなんでも許されると思ってるので、基本相手の話は聞きません。どうしても攻がクズになってしまいごめんなさいm(_ _)m