3 / 16
お悩み相談編
可愛い後輩ができました
しおりを挟む
「嘉門君が本当に役者をやめたいなら止められないけど、私はちょっともったいないと思うな。だって嘉門君には明らかに他の人には無い圧倒的な存在感と、アクションのセンスがあるから」
普通は人の魅力は話してみないと伝わらない。加えて美形の比率が高い芸能界では、ちょっと見目がいいだけの人が無口無表情で居たら、あっという間に埋もれてしまう。
けれど嘉門君の無口無表情は、クールでミステリアスって唯一無二の魅力になっている。加えて「本当に裏社会の人間なのでは?」と疑うほど、迫力のあるアクションを見せてくれるのだから、他に代わりのない個性だと思う。
「だからこそ泣いたり笑ったりできないってハンデを抱えながらも、嘉門君に出て欲しい人がいっぱい居るんじゃないかな。それは明らかに嘉門君にしかできない仕事で、立派な才能だと思う」
私も彼のファンの1人なので、だんだん熱が入ってしまって
「少なくとも私は嘉門君の演技が好きだから、見られなくなっちゃったら残念だな。冷徹な殺し屋とか、孤高の探偵とか、人型アンドロイドとか、嘉門君ほどイメージに合う人は居ないもの!」
「……要するに色んな役は演じられないけど、特定の役にはよく嵌まると言うことですか?」
「そう! 色んな役を演じ分けられるのもいいけど「この役は絶対に嘉門!」って得意分野を持っていると考えたらいいと思う!」
だいたい嘉門君の人気と言ったら、役のために俳優を探すのではなく、嘉門君を出すために役が作られるレベルだ。役者としては演技力で評価されたいかもしれないけど、嘉門君を見たがっている人がたくさん居ることを知って欲しかった。
「……あの、ありがとうございます」
「ん? 何が?」
「他人事なのに、親身に励ましてくれて」
「他人事じゃないよ。さっきも言ったけど、私も嘉門君のファンだからね。嘉門君に演じてもらいたい役がたくさんあるんだから、居なくなったら困るよ」
お世辞じゃなくて本気で言うも、本人はやっぱり無自覚のようで
「そんなにありますか? 俺が演じられそうな役」
「嘉門君のルックスとキャラは漫画やゲームとの親和性が最高だから! 私が監督なら絶対に嘉門君にお願いしたいよ! 見た目もカッコいいし、アクションもキレキレだし!」
少年漫画やゲームに出て来るカッコいいライバルキャラや敵の美形幹部など、クールな強キャラを演じさせたら嘉門君の右に出る者は居ない。お父さんの方針で嘉門君は演技ではなく、本当に色んな武術を極めているそうなので、佇まいからして強さに説得力がある。
嘉門君が出てくれれば、漫画やゲームの実写化のクオリティが格段に上がるので、絶対に俳優で居て欲しいとファンとして強く願う。
その一念が届いたのか、嘉門君は無表情ながら少し和らいだ空気で
「……丸井さんは俺が子どもの頃から活躍している方ですから、ずっとテレビで拝見していたんですが、実を言うと少し苦手でした。俺はこのとおり根暗なので、自然体で皆に愛されて、いつも元気で明るい丸井さんが眩しくて、余計に自分がダメに思えたので」
嘉門君って、すごく謙虚なんだな。世間的には絶対に、食い気と愛嬌とファンの皆さんの慈悲だけで生きている私よりも、嘉門君のほうがすごいのに。なぜか私を上に見ているようだ。私が嘉門君より上回っているのなんて、年齢とウエストだけだろうにさ……。
しかし嘉門君は雲間から光が差すように、控えめな微笑を浮かべながら
「だけど、こうして話してみたら、丸井さんのおかげでただ心が明るく晴れて、気持ちが楽になりました。やっぱり丸井さんってスターなんだなって。すごいなと思いました」
私には縁の無いスターだと思っていた人に、まさかのスター扱いをされた私は
「ええ? 私なんか全然スターじゃないよ? 言っておくけど、嘉門君のほうがすごいからね? メチャクチャ光っているし、たくさんの人が憧れているんだから!」
今担当している戦隊もので担っている色のイメージと同様、イエローはお手頃スナックの定番カラーで、ブラックは本格派の高級色だ。私が持たれているのは親しみであって、憧れではない。芸歴こそ私のほうが長いけど、嘉門君のほうがずっとスターだ。
「あとお気づきかどうか。嘉門君、今すごく素敵な顔で笑っていました」
「本当ですか?」
笑えないと言っていただけあって、やっぱり嘉門君は無自覚なようだが
「本当。笑顔というより微笑かもだけど、すごく素敵な笑顔だったよ。自然に笑える時があるなら、きっともっと笑えるようになるよ」
素人考えだけど「自分は表情を動かすのが苦手」という思い込みが、余計に顔を強張らせているのかもしれない。でも心理的な問題だとすれば、悩みから離れて気楽に過ごす時間が増えれば、自然と顏の強張りが取れて行くんじゃないかな。
そろそろスタジオに戻ろうと、非常階段を上がる途中。
「あの」
嘉門君の声に、足を止めて振り返ると
「……良かったら、これからもたまに話を聞いてもらっていいですか?」
嘉門君は少し不器用に視線を外しながら
「俺、人と話すのが苦手で、こういうことを相談できる人が居ないので。丸井さんに聞いて欲しい……」
嘉門君、私よりも30センチは身長が高いのに。この雨に濡れた子犬感はなんだろう。
完全無欠のイケメン俳優かと思いきや、意外と悩み多き嘉門君に、私は先輩心をキュンとくすぐられて
「全然いいよ! さっきも言ったけど、私も嘉門君のファンだから。力になれたら、むしろ嬉しい。遠慮しないで、なんでも相談してね」
嘉門君がこれからも元気に俳優を続けてくれるように、全面的にバックアップしようと誓ったのだった。
普通は人の魅力は話してみないと伝わらない。加えて美形の比率が高い芸能界では、ちょっと見目がいいだけの人が無口無表情で居たら、あっという間に埋もれてしまう。
けれど嘉門君の無口無表情は、クールでミステリアスって唯一無二の魅力になっている。加えて「本当に裏社会の人間なのでは?」と疑うほど、迫力のあるアクションを見せてくれるのだから、他に代わりのない個性だと思う。
「だからこそ泣いたり笑ったりできないってハンデを抱えながらも、嘉門君に出て欲しい人がいっぱい居るんじゃないかな。それは明らかに嘉門君にしかできない仕事で、立派な才能だと思う」
私も彼のファンの1人なので、だんだん熱が入ってしまって
「少なくとも私は嘉門君の演技が好きだから、見られなくなっちゃったら残念だな。冷徹な殺し屋とか、孤高の探偵とか、人型アンドロイドとか、嘉門君ほどイメージに合う人は居ないもの!」
「……要するに色んな役は演じられないけど、特定の役にはよく嵌まると言うことですか?」
「そう! 色んな役を演じ分けられるのもいいけど「この役は絶対に嘉門!」って得意分野を持っていると考えたらいいと思う!」
だいたい嘉門君の人気と言ったら、役のために俳優を探すのではなく、嘉門君を出すために役が作られるレベルだ。役者としては演技力で評価されたいかもしれないけど、嘉門君を見たがっている人がたくさん居ることを知って欲しかった。
「……あの、ありがとうございます」
「ん? 何が?」
「他人事なのに、親身に励ましてくれて」
「他人事じゃないよ。さっきも言ったけど、私も嘉門君のファンだからね。嘉門君に演じてもらいたい役がたくさんあるんだから、居なくなったら困るよ」
お世辞じゃなくて本気で言うも、本人はやっぱり無自覚のようで
「そんなにありますか? 俺が演じられそうな役」
「嘉門君のルックスとキャラは漫画やゲームとの親和性が最高だから! 私が監督なら絶対に嘉門君にお願いしたいよ! 見た目もカッコいいし、アクションもキレキレだし!」
少年漫画やゲームに出て来るカッコいいライバルキャラや敵の美形幹部など、クールな強キャラを演じさせたら嘉門君の右に出る者は居ない。お父さんの方針で嘉門君は演技ではなく、本当に色んな武術を極めているそうなので、佇まいからして強さに説得力がある。
嘉門君が出てくれれば、漫画やゲームの実写化のクオリティが格段に上がるので、絶対に俳優で居て欲しいとファンとして強く願う。
その一念が届いたのか、嘉門君は無表情ながら少し和らいだ空気で
「……丸井さんは俺が子どもの頃から活躍している方ですから、ずっとテレビで拝見していたんですが、実を言うと少し苦手でした。俺はこのとおり根暗なので、自然体で皆に愛されて、いつも元気で明るい丸井さんが眩しくて、余計に自分がダメに思えたので」
嘉門君って、すごく謙虚なんだな。世間的には絶対に、食い気と愛嬌とファンの皆さんの慈悲だけで生きている私よりも、嘉門君のほうがすごいのに。なぜか私を上に見ているようだ。私が嘉門君より上回っているのなんて、年齢とウエストだけだろうにさ……。
しかし嘉門君は雲間から光が差すように、控えめな微笑を浮かべながら
「だけど、こうして話してみたら、丸井さんのおかげでただ心が明るく晴れて、気持ちが楽になりました。やっぱり丸井さんってスターなんだなって。すごいなと思いました」
私には縁の無いスターだと思っていた人に、まさかのスター扱いをされた私は
「ええ? 私なんか全然スターじゃないよ? 言っておくけど、嘉門君のほうがすごいからね? メチャクチャ光っているし、たくさんの人が憧れているんだから!」
今担当している戦隊もので担っている色のイメージと同様、イエローはお手頃スナックの定番カラーで、ブラックは本格派の高級色だ。私が持たれているのは親しみであって、憧れではない。芸歴こそ私のほうが長いけど、嘉門君のほうがずっとスターだ。
「あとお気づきかどうか。嘉門君、今すごく素敵な顔で笑っていました」
「本当ですか?」
笑えないと言っていただけあって、やっぱり嘉門君は無自覚なようだが
「本当。笑顔というより微笑かもだけど、すごく素敵な笑顔だったよ。自然に笑える時があるなら、きっともっと笑えるようになるよ」
素人考えだけど「自分は表情を動かすのが苦手」という思い込みが、余計に顔を強張らせているのかもしれない。でも心理的な問題だとすれば、悩みから離れて気楽に過ごす時間が増えれば、自然と顏の強張りが取れて行くんじゃないかな。
そろそろスタジオに戻ろうと、非常階段を上がる途中。
「あの」
嘉門君の声に、足を止めて振り返ると
「……良かったら、これからもたまに話を聞いてもらっていいですか?」
嘉門君は少し不器用に視線を外しながら
「俺、人と話すのが苦手で、こういうことを相談できる人が居ないので。丸井さんに聞いて欲しい……」
嘉門君、私よりも30センチは身長が高いのに。この雨に濡れた子犬感はなんだろう。
完全無欠のイケメン俳優かと思いきや、意外と悩み多き嘉門君に、私は先輩心をキュンとくすぐられて
「全然いいよ! さっきも言ったけど、私も嘉門君のファンだから。力になれたら、むしろ嬉しい。遠慮しないで、なんでも相談してね」
嘉門君がこれからも元気に俳優を続けてくれるように、全面的にバックアップしようと誓ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
【番外編】小さな姫さまは護衛騎士に恋してる
絹乃
恋愛
主従でありながら結婚式を挙げた護衛騎士のアレクと王女マルティナ。戸惑い照れつつも新婚2人のいちゃいちゃ、ラブラブの日々。また彼らの周囲の人々の日常を穏やかに優しく綴ります。※不定期更新です。一応Rをつけておきます。
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる