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お出かけ編
嘉門君とドライブ
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嘉門君はサングラスを外して、私の顔をまじまじと見つめると
「……すっぴん可愛いですね」
まさかの感想に、私はバッと顔面を庇うと
「すっぴんに注目しないで!? 本当は恥ずかしいんだよ!?」
メイクしちゃったら流石に男の子には見えないよね? と苦渋の決断で素顔を晒したものの、私は体型に自信が無い分、せめてメイクはちゃんとしたい派だった。
ただ今回は男装するなら、周囲には私だとバレないからいいかな。嘉門君は女性のファッションやメイクに興味が無さそうだから、私がすっぴんでも気にしないかな。
そんな目論見で来たのに、嘉門君は優しい微笑みを浮かべると
「恥ずかしがらなくても可愛いから大丈夫ですよ。ちゃんとメイクした顔も素敵ですけど、すっぴんのほうがナチュラルで可愛いです」
意外な方向から突かれた私は真っ赤になって
「意外と言葉を惜しまないタイプだね!? 自分が芸能界随一のイケメンであることをご自覚ください!」
つい「ギャン!」と叫んでしまう私に、嘉門君は無表情で「しーっ」とジェスチャーしながら
「丸井さんこそ、お忍びであることを自覚した方が。せっかく見た目を誤魔化しても、話の内容で怪しまれます」
「ああうぅ、そうだね。ゴメンよ、喪女なもので。嘉門君みたいなイケメンに可愛いなんて言われて、つい動揺しちゃったよ」
がっくりと萎れながら小声で謝ると、嘉門君は意外そうな顔で
「喪女って……恋愛経験が無い人のことですよね? 丸井さん、モテそうなのに男と付き合ったことが無いんですか?」
「私のどこを見てモテそうだと思ったの?」
デビュー時は痩せていたとかなら分かる。でも私は子役としてデビューした時から、ふくよかさんだ。自分で自分をデブと言うのはあまりに悲しいので、ふくよかさんを自称させていただいているが、プルプルの二の腕に肉厚のお腹。隙間の無い太ももを持つデブ寄りのぽっちゃりである。
けれど嘉門君は無垢な瞳で
「だって丸井さんは、いつもキラキラしているので。明るくて優しくて可愛いから絶対にモテるだろうと」
「ありがとう。優しいね、嘉門君。でも世間が私に言ってくれる可愛いは、ヌイグルミ的な意味だからね。男の人には、それじゃダメなんだよ」
ファンの人たちは好意で『私の癒し効果は赤ちゃん並み』と言ってくれる。「とても可愛い」という意味で言ってくれているのは分かるのだが、要するに赤ちゃん並に真ん丸ぽよぽよということだ。愛玩対象ではあっても、恋愛対象では無い。
「……じゃあ、本当に男と付き合ったことは無いんですか?」
「すごく確認するね、嘉門君!? でも、そんなこと聞いちゃダメ! これでもアタイ芸能人なんだから! プライドってものがあるんだから!」
さっき注意されたばかりにも関わらず、オーバーリアクションで「ワーッ!」と嘉門君のみぞおちをポカポカ叩いてしまった。全く落ち着きの無い25歳児である。
このまま立ち話を続けると無限にボロが出そうなので、取りあえず車に乗り込んだ。
ちなみに嘉門君の愛車は、本人と同様スタイリッシュなフォルムのダークブルーの高級車でした。しかも運転手はサングラスをかけた嘉門君だ。まるで組織の殺し屋に誘拐された一般人のような気分で、少女漫画よりは少年漫画。ラブコメよりはアクション映画を好む私としては、とても楽しいドライブだった。
実際に車を走らせると
「すごいね。スイスイ走るね。本当に運転が上手なんだね」
助手席から話しかける私に、嘉門君は微苦笑しながら
「普通に走っているだけで、こんなに褒められたのは初めてです」
「だって私は挫折組なので。免許を取れただけでもすごいのに、こんなにスムーズに走れるなんてビックリだよ」
のんびり屋の私には絶対に無理だけど、自分で運転してどこまでも旅ができたら、すごく楽しいだろうなと憧れてしまう。
「実は子どもの頃から父に運転を仕込まれたので。単に普通より運転歴が長いだけなんです」
「えっ、子どもの頃から運転していたって……もしかして将来アクションに役立てるために?」
私の推測は正解だったようで、嘉門君は「はい」と肯定すると
「父はスタント無しで役をこなすことにこだわっているので。バイクに車に乗馬など、俳優として乗る機会が多いものは一通り覚えさせられました」
嘉門君の家は本当にストイックなんだなと、私は驚嘆しながら
「本当に子どもの頃からアクションスターになるべく鍛えられて来たんだね。でも運転は好きみたいで良かったね」
不得意なことを無理やり仕込まれるのは可哀想だけど、少なくとも運転は嘉門君に合っていたみたいだ。日常的に役立つスキルなので良かったねと笑いかけると
「はい。運転は得意なので、もし役者で食べられなくなったら、長距離トラックかバスの運転手になろうかと」
「嘉門君がお払い箱になることは無いだろうけど、嘉門君がバスの運転手になったら、その路線だけすごく人気になりそうだね!」
そんな会話をしながら、私たちは目的の道の駅に到着した。
「……すっぴん可愛いですね」
まさかの感想に、私はバッと顔面を庇うと
「すっぴんに注目しないで!? 本当は恥ずかしいんだよ!?」
メイクしちゃったら流石に男の子には見えないよね? と苦渋の決断で素顔を晒したものの、私は体型に自信が無い分、せめてメイクはちゃんとしたい派だった。
ただ今回は男装するなら、周囲には私だとバレないからいいかな。嘉門君は女性のファッションやメイクに興味が無さそうだから、私がすっぴんでも気にしないかな。
そんな目論見で来たのに、嘉門君は優しい微笑みを浮かべると
「恥ずかしがらなくても可愛いから大丈夫ですよ。ちゃんとメイクした顔も素敵ですけど、すっぴんのほうがナチュラルで可愛いです」
意外な方向から突かれた私は真っ赤になって
「意外と言葉を惜しまないタイプだね!? 自分が芸能界随一のイケメンであることをご自覚ください!」
つい「ギャン!」と叫んでしまう私に、嘉門君は無表情で「しーっ」とジェスチャーしながら
「丸井さんこそ、お忍びであることを自覚した方が。せっかく見た目を誤魔化しても、話の内容で怪しまれます」
「ああうぅ、そうだね。ゴメンよ、喪女なもので。嘉門君みたいなイケメンに可愛いなんて言われて、つい動揺しちゃったよ」
がっくりと萎れながら小声で謝ると、嘉門君は意外そうな顔で
「喪女って……恋愛経験が無い人のことですよね? 丸井さん、モテそうなのに男と付き合ったことが無いんですか?」
「私のどこを見てモテそうだと思ったの?」
デビュー時は痩せていたとかなら分かる。でも私は子役としてデビューした時から、ふくよかさんだ。自分で自分をデブと言うのはあまりに悲しいので、ふくよかさんを自称させていただいているが、プルプルの二の腕に肉厚のお腹。隙間の無い太ももを持つデブ寄りのぽっちゃりである。
けれど嘉門君は無垢な瞳で
「だって丸井さんは、いつもキラキラしているので。明るくて優しくて可愛いから絶対にモテるだろうと」
「ありがとう。優しいね、嘉門君。でも世間が私に言ってくれる可愛いは、ヌイグルミ的な意味だからね。男の人には、それじゃダメなんだよ」
ファンの人たちは好意で『私の癒し効果は赤ちゃん並み』と言ってくれる。「とても可愛い」という意味で言ってくれているのは分かるのだが、要するに赤ちゃん並に真ん丸ぽよぽよということだ。愛玩対象ではあっても、恋愛対象では無い。
「……じゃあ、本当に男と付き合ったことは無いんですか?」
「すごく確認するね、嘉門君!? でも、そんなこと聞いちゃダメ! これでもアタイ芸能人なんだから! プライドってものがあるんだから!」
さっき注意されたばかりにも関わらず、オーバーリアクションで「ワーッ!」と嘉門君のみぞおちをポカポカ叩いてしまった。全く落ち着きの無い25歳児である。
このまま立ち話を続けると無限にボロが出そうなので、取りあえず車に乗り込んだ。
ちなみに嘉門君の愛車は、本人と同様スタイリッシュなフォルムのダークブルーの高級車でした。しかも運転手はサングラスをかけた嘉門君だ。まるで組織の殺し屋に誘拐された一般人のような気分で、少女漫画よりは少年漫画。ラブコメよりはアクション映画を好む私としては、とても楽しいドライブだった。
実際に車を走らせると
「すごいね。スイスイ走るね。本当に運転が上手なんだね」
助手席から話しかける私に、嘉門君は微苦笑しながら
「普通に走っているだけで、こんなに褒められたのは初めてです」
「だって私は挫折組なので。免許を取れただけでもすごいのに、こんなにスムーズに走れるなんてビックリだよ」
のんびり屋の私には絶対に無理だけど、自分で運転してどこまでも旅ができたら、すごく楽しいだろうなと憧れてしまう。
「実は子どもの頃から父に運転を仕込まれたので。単に普通より運転歴が長いだけなんです」
「えっ、子どもの頃から運転していたって……もしかして将来アクションに役立てるために?」
私の推測は正解だったようで、嘉門君は「はい」と肯定すると
「父はスタント無しで役をこなすことにこだわっているので。バイクに車に乗馬など、俳優として乗る機会が多いものは一通り覚えさせられました」
嘉門君の家は本当にストイックなんだなと、私は驚嘆しながら
「本当に子どもの頃からアクションスターになるべく鍛えられて来たんだね。でも運転は好きみたいで良かったね」
不得意なことを無理やり仕込まれるのは可哀想だけど、少なくとも運転は嘉門君に合っていたみたいだ。日常的に役立つスキルなので良かったねと笑いかけると
「はい。運転は得意なので、もし役者で食べられなくなったら、長距離トラックかバスの運転手になろうかと」
「嘉門君がお払い箱になることは無いだろうけど、嘉門君がバスの運転手になったら、その路線だけすごく人気になりそうだね!」
そんな会話をしながら、私たちは目的の道の駅に到着した。
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