スターとスターが出会ったら~ぽっちゃりマルチタレントとイケメンアクション俳優がほのぼの恋に落ちるまで~

知見夜空

文字の大きさ
9 / 16
お出かけ編

オマケ・嘉門君、SNSをはじめる

しおりを挟む
 嘉門君は映画やドラマや舞台など完全に役者業だけで、最近の芸能人には珍しくバラエティやSNSなどでも露出は一切無かった。嘉門君の場合は本人のキャラも相まって、その露出の無さが逆にミステリアスでカッコいい。レア感があると人気だった。

 しかしこのたび私生活が謎に満ちていた嘉門君が、ツブヤイターとマイチューブをはじめた。

『どれだけ更新できるかは分かりませんが、新しい試みを見守っていただけたら幸いです』

 写真も絵文字も無いシンプルな文章。それでも嘉門君のファンは大いに沸いて

『嘉門君の露出が増えて嬉しい!』
『24時間、見守ります!』

 その日の検索ランキングで嘉門君の名前が1位になるほど、華々しいSNSデビューをした。

 例の戦隊もので共演中の桃瀬ちゃんから「嘉門さん、SNSはじめたらしいですよ」と聞いた私は、さっそく彼のSNSをフォローした。

 まだはじめて1日なので、ツブヤイターにもマイチューブにもそれぞれ『SNSをはじめます』という投稿があるだけだ。それにも関わず、すでに10万人近くの人が嘉門君をフォローしていた。

 本人はイマイチ分かっていないけど、やっぱり嘉門君に注目している人は多いみたいだ。

 私もファンの1人として、嘉門君がSNSをはじめてくれたことが嬉しくて、さっそくお祝いの電話をかけると

「ファンの人たち、すごく喜んでいたね。かくいう私も嘉門君の投稿が見られて大歓喜ですが。SNS苦手みたいだったのに、どうして急にやってみようと思ったの?」

 何気なく尋ねると、嘉門君は遠慮がちに口を開いて

『実は丸井さんの影響なんです』

 嘉門君自身は今まで、SNSの個人的な発信に興味が無かったらしい。私なんか、ごく軽いノリで歌ったり踊ったりした動画を投稿してしまっているけど、嘉門君はストイックなのでプロ並みのスキルじゃなければ披露する価値が無いと思っていたそうだ。

 だけど自分が私のユルユル動画を見るようになって

『プロのクオリティには及ばなくても、好きな人の新しい一面が見られるだけでファンは嬉しいものなんだなって、自分が丸井さんのファンになって気づいたので。俺も演技以外でも、自分を応援してくれている人たちを喜ばせることができたらなって』
「うぅ、立派だね、嘉門君……。自分の人気アップじゃなくて、ファンのために挑戦してくれたんだね……」

 嘉門君の心境の変化がファンとして嬉しいだけじゃなく、芸能界の先輩としても感無量だ。嘉門君はそもそも私よりずっとすごい人だけど、人の成長を見るととても感動するし、自分がその一助になれたことも嬉しかった。

 例によって謙虚な嘉門君は

『俺は丸井さんと違って面白味が無いので、ファンに喜んでもらえるコンテンツにできるか少し不安ですが』
「無理にオモシロを狙わなくても、ファンは推しの情報を知れるだけで嬉しいから大丈夫! 趣味とか好きなものとか、自分が嫌じゃない範囲で発信していくだけでも、十分喜んでもらえるよ!」

 人を喜ばせようと意識しすぎると、かえって雁字搦がんじがらめになってしまう。ファンのいちばんの願いは推しが1日でも長く活動してくれることだと思うので、あまり気負わないように、自然体でいいんだよと励ますと

『これも丸井さんの真似になってしまいますが、俺も取りあえず歌ったり踊ったりしてみようかと。でも俺は俳優なのに、あまりに畑違いでしょうか?』
「嘉門君が歌って踊ってくれるの!? 絶対に需要あるよ、やってみて!」

 それから嘉門君は、まず投稿の定番である『歌ってみた』や『踊ってみた』から始めた。アクション俳優の嘉門君は運動神経抜群なので、例によって無表情ながらダンスはプロ並みだった。嘉門君、ダンスまで上手いのすごい、カッコイイ。

 ちなみに歌のほうは、コメント欄の反応を見る限り

『こんなに上手いのに全く心がこもらないの、逆にすごい』
『AIに歌わせたみたい』

 という反応のとおり、リズムや音程は完璧なのに、不思議と歌い手の感情や情熱を感じさせない平坦な仕上がりだった。しかし、じゃあ失敗かと言うと

『逆に癖になる』
『取りつかれたように聞いている』
『推しの美声、助かる』

 ファンは嘉門君の『心を持たないアンドロイド感』も愛しているので、逆に『歌声までロボット』的な楽しみ方をしているようだ。

 以前の嘉門君なら「やはり俺の表現には心が無いのか」と深刻に受け止めて、落ち込んでいたかもしれないけど

「相変わらず俺のやることは無感情で機械的みたいですが、それでも喜ばれていると思っていいんでしょうか?」

 また戦隊ものの撮影で休憩が一緒になった時。嘉門君に尋ねられた私は

「ネットニュースになるほど評判になるってすごいことだよ。ファンの人たちはみんな喜んでいるし、私も嘉門君の投稿をすごく楽しみにしている」

 笑顔で返す私に、嘉門君は「実は……」とSNSデビューについて、お父様からお叱りの電話があったと話した。

 嘉門君のお父様は、やはり人づてに嘉門君がSNSを始めたことを知って

『お前は役者だろう。タレントみたいな無節操な活動でファンに媚びるな。ちゃんと実力で勝負しろ』

 と苦言を呈して来たそうだ。

 嘉門君は、厳しいほどストイックに役者としての道を極めるご両親を尊敬している。だから以前は、お父様の言うように『嘉門尚悟』という個人ではなく、俳優としての実力で評価されなければ意味が無いと考えていた。

 だけど今の嘉門君は

『媚びているわけじゃなくて、俺を応援してくれる人たちを純粋に喜ばせたい。演技で人を唸らせることと同じくらい、ただ人を楽しませ、笑顔にできることはすごいと思うから』

 実力勝負をモットーとしている両親には甘えと取られそうな想いを、それでも口にしたところ

『……世間の風潮に流されているわけではなく、あくまで自分の意志でしているということか?』

 意外にも嘉門君のお父様は『……ならいい』と息子のやり方を認めて

『ただ笑わせることと笑われることは違う。俳優としての嘉門尚悟の名に、傷をつけるようなことはするな』

 そう言って電話を切ったそうだ。

「今までは父や母の意向に逆らったら、無理やり説き伏せられるか、見放されるものと思っていました。でも俺が自分の意志で決めたことなら、ちゃんと尊重してくれる人だったみたいです」

 非常階段でポツポツ、お父さんとのやり取りを話してくれた嘉門君の表情は、笑顔と言うほどでは無いけど、柔らかかった。

 余計なお世話かもしれないけど、密かに嘉門君の親子関係を心配していたので、お父さんが本当はちゃんと子どもの意思を尊重してくれる人だと分かって私も嬉しかった。

 プロとして芸や美を極める人。とにかく好きや楽しいを共有しようとする人。他の業種と同じで、芸能界にも様々な想いと在り方がある。

 私はありのままの自分で皆と楽しんでいけたらってスタンスだけど、嘉門君のご両親のようにストイックに芸の道を極める在り方も、気高くてカッコイイと思う。

 嘉門君もこれまではして来なかった様々なことに挑戦しながら、いちばん自分らしく輝ける道を見つけられたらいいなって、ファンとしても友だちとしても思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

【番外編】小さな姫さまは護衛騎士に恋してる

絹乃
恋愛
主従でありながら結婚式を挙げた護衛騎士のアレクと王女マルティナ。戸惑い照れつつも新婚2人のいちゃいちゃ、ラブラブの日々。また彼らの周囲の人々の日常を穏やかに優しく綴ります。※不定期更新です。一応Rをつけておきます。

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

処理中です...