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看病編
簡単美味しい朝ご飯(嘉門視点)
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体は丈夫なほうだが、やはり40度近い高熱が出ると思考や判断力が鈍る。そのせいで昨日は何も考えずに丸井さんを家に入れてしまった。リビングに置きっぱなしの彼女のグッズも片づけずに。
朝になって、急にミスに気付いた俺は
「わっ、ビックリした。どうしたの?」
勢いよくリビングのドアを開けると、丸井さんが驚いた顔で出迎えた。その膝には彼女をデフォルメしたヌイグルミが乗っている。
「いや、それ、その……」
「あっ、ゴメン。勝手に触っちゃって」
慌ててヌイグルミをソファに戻そうとする丸井さんに
「いえ、触るのはいいんですが。勝手に写真やヌイグルミを飾られているの、気持ち悪いんじゃないかって」
「全然。本当に応援してくれているんだなって、むしろ嬉しかったよ」
丸井さんはニコニコしながら「嘉門君のおうちに置いてくれて、ありがとう」とヌイグルミにしゃべらせた。
咄嗟にそんな振る舞いができるなんて可愛いの塊かな? 『心を掴む』という表現があるけど、今日だけでなく、丸井さんのふとした仕草にリアルに胸がギュッとなる。ツブヤイターとマイチューブのフォロワーが、それぞれ300万人越えしている人は、やっぱり違うなと感心した。
「気持ち悪くなかったら、ご飯を食べる? 私も食べたいから一緒に食べよう」
せっかくの申し出だし、確かに昨日と違って空腹だったが
「でもうち料理ができるような材料は何も」
俺の言葉に、丸井さんはむしろキラッと目を光らせて
「ふふっ、私に任せたまえ。ズボラ食いしん坊の本領をお見せしましょう!」
まだ朝早くてスーパーが開いている時間ではない。でもコンビニなら24時間やっている。丸井さんは俺が起きる前に、すでにコンビニで材料を買って来てくれたようだった。
塩むすびやチルドの焼き鮭を器に入れて水でほぐし、同じくコンビニで買えるインスタントのスープで味付け。溶き卵を混ぜてレンチンしたら、あっという間に雑炊ができた。
「美味しい……料理、上手なんですね」
俺の感想に、丸井さんはなぜかちょっと驚いてから笑顔になって
「調理工程を見ていたのに、料理上手って言ってくれるの優しい。料理と呼ぶのは憚られる簡単手抜き雑炊ですが、お口にあって良かったです」
丸井さんは謙遜しているが、レシピに忠実に手間暇かけて作ることも、パパッと美味しくアレンジできることも、同じくらいすごいと思う。
いつもは1人の食卓で、丸井さんと向かい合って食事をするのが、なんだか不思議で
「人と食事するの、久しぶりです。いつも1人だから」
「そっか。嘉門君のご両親は海外だもんね。ちょっと会って一緒に食べようってわけにはいかないよね」
両親のことは尊敬しているが、俺にとっては叱られるほうが多い相手なので「ちょっと会って一緒に食べよう」と誘われたら緊張する。誰でもいいわけじゃなくて、丸井さんだから心地いいんだろうなと思っていると
「よかったら今度はうちに来て、一緒にご飯を食べる?」
「えっ? いいんですか、そんな。丸井さんは1人暮らしじゃ?」
同性ならともかく、他に誰も居ない家に異性を入れるのは抵抗があるんじゃないかと思ったが
「もちろん外食でもいいんだけど、嘉門君はお店のじゃなくて、おうちのご飯を誰かと食べたいのかなって。それに外で食べるよりは、うちで食べるほうが人に見られる可能性も低いから、いいかと思ったんだけど」
俺やファンの気持ちを考えて提案してくれた丸井さんは
「お呼ばれって気を遣うよね? 迷惑だったら……」
「迷惑じゃないです。嬉しいです。すごく」
撤回されそうな気配を感じて慌てて遮ると
「……本気にしてもいいんですか?」
俺はこれまでほとんど人付き合いをして来なかったので、本気と社交辞令の区別がつかない。こんなに嬉しい誘いを真に受けていいのかと問うと、丸井さんは彼女らしい弾けるような笑顔で
「いいよ! でもご飯を食べにおいでとか言いながら、私の料理はどれも大雑把な大皿料理なので。今日のこの簡単雑炊くらいハードルを下げておいてね」
「丸井さんが作ってくれたら、なんでもご馳走です」
俺はお世辞ではなく本気で言ったのだが、丸井さんはジーンとした様子で
「いい子だね、嘉門君。そのうち私以外の友だちもできるといいね」
こちらに身を乗り出して頭を撫でてくれた。丸井さんに触れられると、嬉しくて心がホワッとする。
ただ俺は別に芸能界でも私生活でも、友人や先輩は欲していない。人恋しいのではなく、丸井さんだから慕わしくて懐きたくなる。しかし「丸井さんだけでいいです」と言うと、社交的な丸井さんに心配をかけてしまいそうなので、この場は黙っておいた。
朝になって、急にミスに気付いた俺は
「わっ、ビックリした。どうしたの?」
勢いよくリビングのドアを開けると、丸井さんが驚いた顔で出迎えた。その膝には彼女をデフォルメしたヌイグルミが乗っている。
「いや、それ、その……」
「あっ、ゴメン。勝手に触っちゃって」
慌ててヌイグルミをソファに戻そうとする丸井さんに
「いえ、触るのはいいんですが。勝手に写真やヌイグルミを飾られているの、気持ち悪いんじゃないかって」
「全然。本当に応援してくれているんだなって、むしろ嬉しかったよ」
丸井さんはニコニコしながら「嘉門君のおうちに置いてくれて、ありがとう」とヌイグルミにしゃべらせた。
咄嗟にそんな振る舞いができるなんて可愛いの塊かな? 『心を掴む』という表現があるけど、今日だけでなく、丸井さんのふとした仕草にリアルに胸がギュッとなる。ツブヤイターとマイチューブのフォロワーが、それぞれ300万人越えしている人は、やっぱり違うなと感心した。
「気持ち悪くなかったら、ご飯を食べる? 私も食べたいから一緒に食べよう」
せっかくの申し出だし、確かに昨日と違って空腹だったが
「でもうち料理ができるような材料は何も」
俺の言葉に、丸井さんはむしろキラッと目を光らせて
「ふふっ、私に任せたまえ。ズボラ食いしん坊の本領をお見せしましょう!」
まだ朝早くてスーパーが開いている時間ではない。でもコンビニなら24時間やっている。丸井さんは俺が起きる前に、すでにコンビニで材料を買って来てくれたようだった。
塩むすびやチルドの焼き鮭を器に入れて水でほぐし、同じくコンビニで買えるインスタントのスープで味付け。溶き卵を混ぜてレンチンしたら、あっという間に雑炊ができた。
「美味しい……料理、上手なんですね」
俺の感想に、丸井さんはなぜかちょっと驚いてから笑顔になって
「調理工程を見ていたのに、料理上手って言ってくれるの優しい。料理と呼ぶのは憚られる簡単手抜き雑炊ですが、お口にあって良かったです」
丸井さんは謙遜しているが、レシピに忠実に手間暇かけて作ることも、パパッと美味しくアレンジできることも、同じくらいすごいと思う。
いつもは1人の食卓で、丸井さんと向かい合って食事をするのが、なんだか不思議で
「人と食事するの、久しぶりです。いつも1人だから」
「そっか。嘉門君のご両親は海外だもんね。ちょっと会って一緒に食べようってわけにはいかないよね」
両親のことは尊敬しているが、俺にとっては叱られるほうが多い相手なので「ちょっと会って一緒に食べよう」と誘われたら緊張する。誰でもいいわけじゃなくて、丸井さんだから心地いいんだろうなと思っていると
「よかったら今度はうちに来て、一緒にご飯を食べる?」
「えっ? いいんですか、そんな。丸井さんは1人暮らしじゃ?」
同性ならともかく、他に誰も居ない家に異性を入れるのは抵抗があるんじゃないかと思ったが
「もちろん外食でもいいんだけど、嘉門君はお店のじゃなくて、おうちのご飯を誰かと食べたいのかなって。それに外で食べるよりは、うちで食べるほうが人に見られる可能性も低いから、いいかと思ったんだけど」
俺やファンの気持ちを考えて提案してくれた丸井さんは
「お呼ばれって気を遣うよね? 迷惑だったら……」
「迷惑じゃないです。嬉しいです。すごく」
撤回されそうな気配を感じて慌てて遮ると
「……本気にしてもいいんですか?」
俺はこれまでほとんど人付き合いをして来なかったので、本気と社交辞令の区別がつかない。こんなに嬉しい誘いを真に受けていいのかと問うと、丸井さんは彼女らしい弾けるような笑顔で
「いいよ! でもご飯を食べにおいでとか言いながら、私の料理はどれも大雑把な大皿料理なので。今日のこの簡単雑炊くらいハードルを下げておいてね」
「丸井さんが作ってくれたら、なんでもご馳走です」
俺はお世辞ではなく本気で言ったのだが、丸井さんはジーンとした様子で
「いい子だね、嘉門君。そのうち私以外の友だちもできるといいね」
こちらに身を乗り出して頭を撫でてくれた。丸井さんに触れられると、嬉しくて心がホワッとする。
ただ俺は別に芸能界でも私生活でも、友人や先輩は欲していない。人恋しいのではなく、丸井さんだから慕わしくて懐きたくなる。しかし「丸井さんだけでいいです」と言うと、社交的な丸井さんに心配をかけてしまいそうなので、この場は黙っておいた。
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