1 / 33
第一話・身代わりを出しても逃げられない
そうだ、身代わりを出そう
しおりを挟む
その日、コーナルノ国のナンデ王女は、カガイシャー国のドーエス王からの縁談に戦慄した。ドーエス王は23歳と若年ながら残忍かつ非情な性格で、暴君の中の暴君として世界中から恐れられていた。
ドーエスはこれまでにも姫や聖女など身分の高い女性を、50人以上も花嫁として迎えてきた。しかし女好きだから、ハーレムを作ったというのではない。
カガイシャー国に嫁入りした女性たちは、数日から半年の間に故郷への音信が必ず途絶えるそうだ。また妻がたくさんいる割には、ドーエスには未だ1人も子どもが居ない。それらの事実から、花嫁たちはみな慰み者にされた末に、早々に殺されたのでは? ともっぱらの噂だった。
それでも各国が泣く泣く女を差し出すのは、殺戮王の異名を持つドーエスに滅ぼされるのを恐れてのこと。魔力という要素が存在するこの世界では、同じ人間でも力に大きな差が出る。
ドーエスが生まれる以前の英雄は、記録にある限り強くても一騎当千。つまり一人で千人を相手にできる程度だったが、ドーエスの強さはけた違いだった。ドーエスはあくまで人間で、皆と同じように齢を取るが、強さだけで言えば空想上の魔王レベルだった。その気になれば、1人で世界を滅ぼせる。
現にドーエスの存在を危ぶむ各国は、彼が11歳で即位してから現在に至るまで、殺戮王を討つべく3度も同盟軍を派兵している。しかし3度とも敗れて、そのたびにドーエス殺しに加担した関係者は根絶やしにされた。
今や世界は殺戮王を絶対君主として、その他の国はドーエスの気まぐれな殺意が、こちらに向かないように祈るしかない状況だ。
そんな危険極まりないドーエス王から、ナンデは求婚された。噂を鵜呑みにするのであれば「女を寄こせ」ではなく「生贄を寄こせ」という要求だ。
ちなみにドーエス王の要求を断れば、この世界には彼の暴虐を止められる勇者も軍も存在しないので、どんな恐ろしい目に遭うか知れない。
それでもまだ18歳のナンデ王女は
「無理無理無理! 絶対に殺されるに決まっている! やめてお父様! 私を行かせないで!」
「自分1人の犠牲で皆が助かるなら……」どころか「誰を犠牲にしても自分だけは助かりたい!」性格だったので、国王である父・ケネンにハチャメチャに命乞いをした。当然ながら父だって、一人娘のナンデが可愛い。
そこで父は身代わりを用意した。ケネン王は昔、メイドに手を出して孕ませて、ナンデの母である王妃の怒りを買って追い出した母子が居る。
家臣に命じて調査させたところ、ナンデの腹違いの妹・ケダカは、17歳の美少女に成長していた。またちょうどいいことに、ケダカの母は重い病を患っていて大金が必要だった。
ケネン王はケダカを城に呼び出すと、ナンデの代わりにドーエス王に嫁ぐように頼んだ。その代わり母親には治療費に加えて、十分な補償をしてやると。
ケダカももちろんドーエスの悪名は耳にしていた。彼に今まで嫁いだ女たちは、みな殺されたのではないかとも。つまり母の安寧と引き換えに、姉姫の身代わりとして死ねと言われたことを理解したケダカは
「我が国の王は、自分が孕ませた女を追い出し、はじめて会った我が子に死ねとおっしゃるのですね」
キッと睨みつけて一度だけ怒りをぶつけたが、母親のために身代わりを引き受けた。
ケネン王はケダカを行かせた後で、酷いことをしたと気に病んだ。ナンデも流石に罪悪感に胸を刺されたが
「どうせあんな子、町に置いといたって、いつかつまらない男に娶られるか娼婦になるだけじゃない。それなら恐ろしい噂はあっても、世界に君臨する唯一の王の妻になれたほうが名誉ってものじゃないの」
幸せになれるはずだった女を不幸に叩き落したわけじゃないのだと、自らに言い聞かせるように
「あの子、見目は良かったし、うまくやれば玉の輿かもよ」
娘のフォローに、ケネン王は不安そうに眉を下げて
「しかしナンデ。万が一、殺戮王があの子を気に入ることがあれば、ケダカはわしらを許すだろうか?」
ケネンは単なる罪悪感の他に、ケダカからの復讐や天罰を恐れていた。こんな非道は許されない。思わぬ裁きがくだるのではないかと。
父の言葉に、ナンデは何も言えなかった。殺戮王があんな小娘に心を開くとは思えない。自分の代わりにケダカが慰み者にされて、殺されて終わりだろう。そう考えたからこそ、罪の意識から口を閉ざした。
こうして王女ナンデと父のケネンは、妹のケダカを身代わりにして難を逃れた。しかし命の危機を脱したはずが、ナンデもケネン王も気の重い日々が続いた。まるで裁きを待つ罪人のように。
ドーエスはこれまでにも姫や聖女など身分の高い女性を、50人以上も花嫁として迎えてきた。しかし女好きだから、ハーレムを作ったというのではない。
カガイシャー国に嫁入りした女性たちは、数日から半年の間に故郷への音信が必ず途絶えるそうだ。また妻がたくさんいる割には、ドーエスには未だ1人も子どもが居ない。それらの事実から、花嫁たちはみな慰み者にされた末に、早々に殺されたのでは? ともっぱらの噂だった。
それでも各国が泣く泣く女を差し出すのは、殺戮王の異名を持つドーエスに滅ぼされるのを恐れてのこと。魔力という要素が存在するこの世界では、同じ人間でも力に大きな差が出る。
ドーエスが生まれる以前の英雄は、記録にある限り強くても一騎当千。つまり一人で千人を相手にできる程度だったが、ドーエスの強さはけた違いだった。ドーエスはあくまで人間で、皆と同じように齢を取るが、強さだけで言えば空想上の魔王レベルだった。その気になれば、1人で世界を滅ぼせる。
現にドーエスの存在を危ぶむ各国は、彼が11歳で即位してから現在に至るまで、殺戮王を討つべく3度も同盟軍を派兵している。しかし3度とも敗れて、そのたびにドーエス殺しに加担した関係者は根絶やしにされた。
今や世界は殺戮王を絶対君主として、その他の国はドーエスの気まぐれな殺意が、こちらに向かないように祈るしかない状況だ。
そんな危険極まりないドーエス王から、ナンデは求婚された。噂を鵜呑みにするのであれば「女を寄こせ」ではなく「生贄を寄こせ」という要求だ。
ちなみにドーエス王の要求を断れば、この世界には彼の暴虐を止められる勇者も軍も存在しないので、どんな恐ろしい目に遭うか知れない。
それでもまだ18歳のナンデ王女は
「無理無理無理! 絶対に殺されるに決まっている! やめてお父様! 私を行かせないで!」
「自分1人の犠牲で皆が助かるなら……」どころか「誰を犠牲にしても自分だけは助かりたい!」性格だったので、国王である父・ケネンにハチャメチャに命乞いをした。当然ながら父だって、一人娘のナンデが可愛い。
そこで父は身代わりを用意した。ケネン王は昔、メイドに手を出して孕ませて、ナンデの母である王妃の怒りを買って追い出した母子が居る。
家臣に命じて調査させたところ、ナンデの腹違いの妹・ケダカは、17歳の美少女に成長していた。またちょうどいいことに、ケダカの母は重い病を患っていて大金が必要だった。
ケネン王はケダカを城に呼び出すと、ナンデの代わりにドーエス王に嫁ぐように頼んだ。その代わり母親には治療費に加えて、十分な補償をしてやると。
ケダカももちろんドーエスの悪名は耳にしていた。彼に今まで嫁いだ女たちは、みな殺されたのではないかとも。つまり母の安寧と引き換えに、姉姫の身代わりとして死ねと言われたことを理解したケダカは
「我が国の王は、自分が孕ませた女を追い出し、はじめて会った我が子に死ねとおっしゃるのですね」
キッと睨みつけて一度だけ怒りをぶつけたが、母親のために身代わりを引き受けた。
ケネン王はケダカを行かせた後で、酷いことをしたと気に病んだ。ナンデも流石に罪悪感に胸を刺されたが
「どうせあんな子、町に置いといたって、いつかつまらない男に娶られるか娼婦になるだけじゃない。それなら恐ろしい噂はあっても、世界に君臨する唯一の王の妻になれたほうが名誉ってものじゃないの」
幸せになれるはずだった女を不幸に叩き落したわけじゃないのだと、自らに言い聞かせるように
「あの子、見目は良かったし、うまくやれば玉の輿かもよ」
娘のフォローに、ケネン王は不安そうに眉を下げて
「しかしナンデ。万が一、殺戮王があの子を気に入ることがあれば、ケダカはわしらを許すだろうか?」
ケネンは単なる罪悪感の他に、ケダカからの復讐や天罰を恐れていた。こんな非道は許されない。思わぬ裁きがくだるのではないかと。
父の言葉に、ナンデは何も言えなかった。殺戮王があんな小娘に心を開くとは思えない。自分の代わりにケダカが慰み者にされて、殺されて終わりだろう。そう考えたからこそ、罪の意識から口を閉ざした。
こうして王女ナンデと父のケネンは、妹のケダカを身代わりにして難を逃れた。しかし命の危機を脱したはずが、ナンデもケネン王も気の重い日々が続いた。まるで裁きを待つ罪人のように。
6
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
悲報!地味系令嬢、学園一のモテ男に「嘘の告白」をされる。
恋せよ恋
恋愛
「君のひたむきさに心打たれた」
学園の王子様、マーロン侯爵令息から突然の告白。
けれどそれは、退屈な優等生である彼が仕掛けた「罰ゲーム」だった。
ターゲットにされたのは、地味で貧乏な子爵令嬢・サブリナ。
彼女は震える声で告白を受け入れるが――眼鏡の奥の瞳は、冷徹に利益を計算していた。
(侯爵家の独占契約……手に入れたも同然だわ!)
実は、サブリナの正体は王都で話題の「エアハート商会」を率いる敏腕マネージャー。
「嘘の告白」をした男と、「嘘の快諾」をした女。
互いに利用し合うつもりが、いつの間にか本気に……?
お互いの本性を隠したまま進む、腹黒×腹黒の騙し合いラブコメディ!
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
婚約破棄された公爵令嬢と、処方箋を無視する天才薬師 ――正しい医療は、二人で始めます
ふわふわ
恋愛
「その医療は、本当に正しいと言えますか?」
医療体制への疑問を口にしたことで、
公爵令嬢ミーシャ・ゲートは、
医会の頂点に立つ婚約者ウッド・マウント公爵から
一方的に婚約を破棄される。
――素人の戯言。
――体制批判は不敬。
そう断じられ、
“医療を否定した危険な令嬢”として社交界からも排斥されたミーシャは、
それでも引かなかった。
ならば私は、正しい医療を制度として作る。
一方その頃、国営薬局に現れた謎の新人薬師・ギ・メイ。
彼女は転生者であり、前世の知識を持つ薬師だった。
画一的な万能薬が当然とされる現場で、
彼女は処方箋に書かれたわずかな情報から、
最適な調剤を次々と生み出していく。
「決められた万能薬を使わず、
問題が起きたら、どうするつもりだ?」
そう問われても、彼女は即答する。
「私、失敗しませんから」
(……一度言ってみたかったのよね。このドラマの台詞)
結果は明らかだった。
患者は回復し、評判は広がる。
だが――
制度は、個人の“正
制度を変えようとする令嬢。
現場で結果を出し続ける薬師。
医師、薬局、医会、王宮。
それぞれの立場と正義が衝突する中、
医療改革はやがて「裁き」の局面へと進んでいく。
これは、
転生者の知識で無双するだけでは終わらない医療改革ファンタジー。
正しさとは何か。
責任は誰が負うべきか。
最後に裁かれるのは――
人か、制度か。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』
鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」
幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された
公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。
その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、
彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。
目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。
だが、中身は何ひとつ変わっていない。
にもかかわらず、
かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、
「やり直したい」とすり寄ってくる。
「見かけが変わっても、中身は同じです。
それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」
静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。
やがて彼女に興味を示したのは、
隣国ノルディアの王太子エドワルド。
彼が見ていたのは、美貌ではなく――
対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。
これは、
外見で価値を決められた令嬢が、
「選ばれる人生」をやめ、
自分の意思で未来を選び直す物語。
静かなざまぁと、
対等な関係から始まる大人の恋。
そして――
自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。
---
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる