殺戮王から逃げられない

知見夜空

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第六話・勇者が来ても逃げられない

異世界勇者と夫の死体

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 息子を異世界に送ってから1年。我が子の命に神経をすり減らさずに済むようになったナンデは、再び自分の心配をするようになった。

 ヒーロが去ってドーエスと居る時間が長くなったのも良くない。結婚して10年も経てば流石にいろいろ慣れるだろうと思われるかもしれないが、ナンデは朝、ドーエスの腕の中で目覚めるたびに

「あばばばばば」

 寝起きの頭ではなぜ自分が人類の敵と寝ているのか理解できず、未だに新鮮な恐怖を味わっている。

 ドーエスから逃れられる日など来ないのではないか。彼との縁が切れるのは自分が死ぬ時ではないかと、ナンデは絶望しそうになる。

 けれど、そんな光明の見えない日々に風穴を開けるかもしれない知らせが、ナンデのもとに届いた。

「えっ? 異世界からまた勇者を呼ぶ?」

 前回、ヒーロを異世界に逃がした召喚師のゾーハンが、ドーエスを倒す勇者を再び召喚すると言い出した。

 ゾーハンからドーエスへの反意を聞かされたナンデは

「いやいや何を考えてんの。無理無理絶対やめなさいよ」

 ナンデは10年前、魔王を倒そうと軽率に勇者を召喚して現れたのがドーエスだぞとゾーハンを諭した。仮にドーエスより強い者を呼べたとして善人とは限らないと。

 しかしゾーハンは

「こたび勇者として召喚する者の人柄は分かっております。少なくともドーエスほどの暴君ではありません」
「ドーエス様ほど危険じゃないなら、ドーエス様ほど強くもないでしょうよ。下手に逆らって命を粗末にすることはやめなさい」

 ナンデと結婚する前のドーエスは、殺す理由欲しさに自分から人々に無理難題を吹っかける暴君だった。しかし今のドーエスはナンデのおかげでそれほど退屈していないので、自分から生贄を求めることはしなくなった。今は基本的に自分に弓引く愚か者しか殺していない。

 しかしナンデの忠告に、ゾーハンは見下した態度で

「とにかくこれはもう決まったことです。ナンデ様にも協力していただきたい。あくまでドーエスに与すると言うのでしたら、あの者が倒れた後の処遇は保証できませんよ」

 いちおう敬語を使っているが、ゾーハンからすればナンデは単なるドーエスの慰み者で、尊敬に値する女ではなかった。

 悪意に敏感なナンデは、ゾーハンの態度にイラッとしたが、

「私はあの人の強さを嫌と言うほど見て来た。あの人を倒せる者が居るなんて想像できない。悪いことは言わないから馬鹿な真似はやめなさい。これ以上、私に血を見させないで」

 言葉どおり、わざわざいらんことやって私の前で、はらわたをぶちまけるなと強く制止したが、

「チッ。すっかりドーエスに怖気づいて意気地の無い女だ。協力しないのであれば、せめて口を閉じていろ。我々の計画の邪魔をするな」
「ちょっ、何を」

 ナンデはゾーハンに魔法で眠らされてしまった。次にナンデが目を覚ました時には、全てが終わっていた。ゾーハンが呼び出したという異世界の勇者に、ドーエスは八つ裂きにされて死んでいた。

 ゾーハンにドーエスの死体を見せられたナンデは、本当にあの人が死んだのかと驚いた。

「流石に苦戦させられましたが、今度の勇者召喚は大成功でした。勇者を主軸にこの国でも選りすぐりの戦士と僧侶と魔術師の力を結集して、このとおりドーエスを討ち取りました」

 ゾーハンは勝ち誇ったように笑うと、足元の死体を見下ろして

「それにしても麗しきドーエス様も、ただの肉塊になれば威厳も何もありませんね」

 ゾーハンはドーエスの誇りを穢そうとするように、首だけになった彼の顔面を踏みつけようとしたが

「やめてぇぇ!」

 ナンデは悲鳴を上げて飛び出すと、身を挺してドーエスの首を護った。まだ18ほどの若者である勇者はナンデの行動に驚いて、

「なんでドーエスを庇うんですか? ゾーハンたちから聞きましたが、あなたはその男に無理に花嫁にされたのでしょう?」

 まさか無慈悲な夫を愛しているのかと思ったが、ナンデはドーエスの首を抱えたままガタガタと震えて

「だってこんなことをしたら危ない……。もしドーエス様が生きていたら、後でどんな恐ろしいことになるか……」

 夫の生首を抱えてなお、ドーエスの死を信じられないナンデに勇者は

「ドーエスはもう死んだじゃないですか! しっかりしてください!」

 その後、ナンデは錯乱していると隔離された。ドーエスが生前、世界中から集めていた恐怖は彼が死んだ途端、憎悪に置き換わった。ドーエスの死体は見世物にされた挙句、犬に食わせるはずだったが、ナンデが必死に止めるので、ひとまず棺桶に入れて安置された。
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