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第7話・加速度的に落ちて行く2人
期限付きの約束(風丸視点)
「俺にすまないと思うなら、別の形で責任を取ってよ。俺はアンタに出会うまで、幸せだなんて感じたこと、ただの一度も無かったんだ」
強い語調でマスターちゃんの言葉を遮ると
「俺の母親は「生きてりゃいつか機会が来る」って言っていたけど、言っていた本人が死んじまったよ。「もう耐えられない」って自分から。まだ子どもだった俺を置いてさ」
気付けば言うつもりが無かったことまで話していた。母親の話なんて誰にもしたことが無かったのに。
でも一度口にしたら
「だから俺は「生きてりゃいつか幸せに」なんて信じない。アンタの言うように、本物だとか偽物だとか考えて選ぶ余裕なんてねーんだよ。アンタにどれだけ嘘だと言われても、こんなに温かくて幸せなら、偽物でもいいから欲しいんだ」
胸の奥にずっと押し込めていた本音が怒涛のように溢れて
「何もずっと偽物やっていてくれってわけじゃない。アンタが役目を終えたら、ちゃんと帰すから。それまではここに居て。帰る前に一生分の幸せを味わわせてよ……」
気付けば見っともなく縋りついていた。我ながら見苦しくて、マスターちゃんの顔を見られず俯く。それでもマスターちゃんに逃げられないように、弱い力で腕だけ掴んでいた。
……嫌なら振り払って。本当に偽物なら今、失望させて。
裏切られたくないのに期待するもの嫌で、ただマスターちゃんの反応を待っていると
「……何がそんなに風丸を苦しめているんですか? どうしたら私、助けてあげられますか?」
天真爛漫なマスターちゃんには珍しく深刻な声。半端に心配をかけながら、詳細は話せなかった。俺の抱えている問題は、マスターちゃんにはどうにもできない。
助けられないヤツに、助けを求められるほど気の重いことは無い。俺の問題にマスターちゃんを巻き込みたくなくて黙っていると
「すみません、馬鹿なことを言って。私に解決できるような問題なら、風丸は自力でなんとかしていますよね」
マスターちゃんは沈黙から答えを察して
「私、本当に無力ですね。あなたが苦しんでいるのに、何もしてあげられなくて。あなたを幸せにする力じゃなくて、助ける力をもらえば良かった……」
その涙声を聞いて、俺は失言を悟った。言ったってどうにもならないことを、なんでぶちまけちまったんだろう。
案の定、無駄に心配をかけたことを後悔して
「……やだな、マスターちゃん。忍の言うことなんて、あっさり真に受けちゃってさ」
俺はへらっと笑って見せると
「いくらトチ狂っていたって、俺がそんな簡単に人に心を開くはずがないじゃん。母親の話とかも全部嘘だよ。マスターちゃんはお人よしだから、そういう話をすりゃ付け込みやすいかなと思っただけ」
流れるように嘘を吐きながら
「……だから泣かないでよ。悲しいなんて嘘だから」
ふっくらした頬を濡らす涙を、指で拭いながら言った。俺は普段から嘘吐きだし、マスターちゃんはすぐ真に受ける。だからこれで誤魔化せる。
しかしマスターちゃんは泣きながら首を振ると、真正面からギュッと俺を抱きしめて
「私はちょいちょい抜けていますが、風丸には詳しいんです。あなたがようやく見せてくれた本音を、取りこぼしたりしません」
人は自分にとって不都合な真実より、都合のいい嘘を信じたがる。俺が大丈夫だと思えたほうが、マスターちゃんにとって都合がいいはずなのに。騙されたほうが楽なのに。
「どうしたらその苦しみを消せるかは分かりませんが、嘘で誤魔化されて無かったことにはしません」
俺がようやく吐き出した本音の欠片。それだけじゃ胸を刺すばかりで、なんの役にも立たないものを、捨てないで持っていてくれるらしい。多分ただ俺を独りにしないために。
目頭が熱くなって、自分が泣きそうなことを知る。涙なんて、とっくの昔に失くしたはずなのに。
俺は込み上げて来る涙を堪えながら、マスターちゃんの背に腕を回すと
「……じゃあ、もう帰るって言わない?」
「言いません!」
マスターちゃんは、さっきまでの不安そうな顔が嘘のように強く言い放つと
「風丸が本当に偽物でも構わないなら、ここに居る間は全力であなたを幸せにします。いつか離れても辛かった時のことを思い出せないくらい、たくさん大事にしますから。風丸も遠慮しないで、全力で甘えてくださいね」
今日だけじゃなくてマスターちゃんの笑顔を見ると、いつも日を浴びたような心地になる。眩しくて温かくて、染みついた影も汚泥も祓われるような。
「……うん。ありがとう。マスターちゃん」
固く抱き合いながら、期限付きの約束をする。この温もりを失くす日を、今は考えないように目を閉じた。
強い語調でマスターちゃんの言葉を遮ると
「俺の母親は「生きてりゃいつか機会が来る」って言っていたけど、言っていた本人が死んじまったよ。「もう耐えられない」って自分から。まだ子どもだった俺を置いてさ」
気付けば言うつもりが無かったことまで話していた。母親の話なんて誰にもしたことが無かったのに。
でも一度口にしたら
「だから俺は「生きてりゃいつか幸せに」なんて信じない。アンタの言うように、本物だとか偽物だとか考えて選ぶ余裕なんてねーんだよ。アンタにどれだけ嘘だと言われても、こんなに温かくて幸せなら、偽物でもいいから欲しいんだ」
胸の奥にずっと押し込めていた本音が怒涛のように溢れて
「何もずっと偽物やっていてくれってわけじゃない。アンタが役目を終えたら、ちゃんと帰すから。それまではここに居て。帰る前に一生分の幸せを味わわせてよ……」
気付けば見っともなく縋りついていた。我ながら見苦しくて、マスターちゃんの顔を見られず俯く。それでもマスターちゃんに逃げられないように、弱い力で腕だけ掴んでいた。
……嫌なら振り払って。本当に偽物なら今、失望させて。
裏切られたくないのに期待するもの嫌で、ただマスターちゃんの反応を待っていると
「……何がそんなに風丸を苦しめているんですか? どうしたら私、助けてあげられますか?」
天真爛漫なマスターちゃんには珍しく深刻な声。半端に心配をかけながら、詳細は話せなかった。俺の抱えている問題は、マスターちゃんにはどうにもできない。
助けられないヤツに、助けを求められるほど気の重いことは無い。俺の問題にマスターちゃんを巻き込みたくなくて黙っていると
「すみません、馬鹿なことを言って。私に解決できるような問題なら、風丸は自力でなんとかしていますよね」
マスターちゃんは沈黙から答えを察して
「私、本当に無力ですね。あなたが苦しんでいるのに、何もしてあげられなくて。あなたを幸せにする力じゃなくて、助ける力をもらえば良かった……」
その涙声を聞いて、俺は失言を悟った。言ったってどうにもならないことを、なんでぶちまけちまったんだろう。
案の定、無駄に心配をかけたことを後悔して
「……やだな、マスターちゃん。忍の言うことなんて、あっさり真に受けちゃってさ」
俺はへらっと笑って見せると
「いくらトチ狂っていたって、俺がそんな簡単に人に心を開くはずがないじゃん。母親の話とかも全部嘘だよ。マスターちゃんはお人よしだから、そういう話をすりゃ付け込みやすいかなと思っただけ」
流れるように嘘を吐きながら
「……だから泣かないでよ。悲しいなんて嘘だから」
ふっくらした頬を濡らす涙を、指で拭いながら言った。俺は普段から嘘吐きだし、マスターちゃんはすぐ真に受ける。だからこれで誤魔化せる。
しかしマスターちゃんは泣きながら首を振ると、真正面からギュッと俺を抱きしめて
「私はちょいちょい抜けていますが、風丸には詳しいんです。あなたがようやく見せてくれた本音を、取りこぼしたりしません」
人は自分にとって不都合な真実より、都合のいい嘘を信じたがる。俺が大丈夫だと思えたほうが、マスターちゃんにとって都合がいいはずなのに。騙されたほうが楽なのに。
「どうしたらその苦しみを消せるかは分かりませんが、嘘で誤魔化されて無かったことにはしません」
俺がようやく吐き出した本音の欠片。それだけじゃ胸を刺すばかりで、なんの役にも立たないものを、捨てないで持っていてくれるらしい。多分ただ俺を独りにしないために。
目頭が熱くなって、自分が泣きそうなことを知る。涙なんて、とっくの昔に失くしたはずなのに。
俺は込み上げて来る涙を堪えながら、マスターちゃんの背に腕を回すと
「……じゃあ、もう帰るって言わない?」
「言いません!」
マスターちゃんは、さっきまでの不安そうな顔が嘘のように強く言い放つと
「風丸が本当に偽物でも構わないなら、ここに居る間は全力であなたを幸せにします。いつか離れても辛かった時のことを思い出せないくらい、たくさん大事にしますから。風丸も遠慮しないで、全力で甘えてくださいね」
今日だけじゃなくてマスターちゃんの笑顔を見ると、いつも日を浴びたような心地になる。眩しくて温かくて、染みついた影も汚泥も祓われるような。
「……うん。ありがとう。マスターちゃん」
固く抱き合いながら、期限付きの約束をする。この温もりを失くす日を、今は考えないように目を閉じた。
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