【騎士王と主の伝説】18禁乙女ゲーの世界に来たからには全力で推しを幸せにします【風丸編】

知見夜空

文字の大きさ
40 / 68
第7話・加速度的に落ちて行く2人

期限付きの約束(風丸視点)

「俺にすまないと思うなら、別の形で責任を取ってよ。俺はアンタに出会うまで、幸せだなんて感じたこと、ただの一度も無かったんだ」

 強い語調でマスターちゃんの言葉を遮ると

「俺の母親は「生きてりゃいつか機会が来る」って言っていたけど、言っていた本人が死んじまったよ。「もう耐えられない」って自分から。まだ子どもだった俺を置いてさ」

 気付けば言うつもりが無かったことまで話していた。母親の話なんて誰にもしたことが無かったのに。

 でも一度口にしたら

「だから俺は「生きてりゃいつか幸せに」なんて信じない。アンタの言うように、本物だとか偽物だとか考えて選ぶ余裕なんてねーんだよ。アンタにどれだけ嘘だと言われても、こんなに温かくて幸せなら、偽物でもいいから欲しいんだ」

 胸の奥にずっと押し込めていた本音が怒涛どとうのように溢れて

「何もずっと偽物やっていてくれってわけじゃない。アンタが役目を終えたら、ちゃんと帰すから。それまではここに居て。帰る前に一生分の幸せを味わわせてよ……」

 気付けば見っともなく縋りついていた。我ながら見苦しくて、マスターちゃんの顔を見られず俯く。それでもマスターちゃんに逃げられないように、弱い力で腕だけ掴んでいた。

 ……嫌なら振り払って。本当に偽物なら今、失望させて。

 裏切られたくないのに期待するもの嫌で、ただマスターちゃんの反応を待っていると

「……何がそんなに風丸を苦しめているんですか? どうしたら私、助けてあげられますか?」

 天真爛漫なマスターちゃんには珍しく深刻な声。半端に心配をかけながら、詳細は話せなかった。俺の抱えている問題は、マスターちゃんにはどうにもできない。

 助けられないヤツに、助けを求められるほど気の重いことは無い。俺の問題にマスターちゃんを巻き込みたくなくて黙っていると

「すみません、馬鹿なことを言って。私に解決できるような問題なら、風丸は自力でなんとかしていますよね」

 マスターちゃんは沈黙から答えを察して

「私、本当に無力ですね。あなたが苦しんでいるのに、何もしてあげられなくて。あなたを幸せにする力じゃなくて、助ける力をもらえば良かった……」

 その涙声を聞いて、俺は失言を悟った。言ったってどうにもならないことを、なんでぶちまけちまったんだろう。

 案の定、無駄に心配をかけたことを後悔して

「……やだな、マスターちゃん。忍の言うことなんて、あっさり真に受けちゃってさ」

 俺はへらっと笑って見せると

「いくらトチ狂っていたって、俺がそんな簡単に人に心を開くはずがないじゃん。母親の話とかも全部嘘だよ。マスターちゃんはお人よしだから、そういう話をすりゃ付け込みやすいかなと思っただけ」

 流れるように嘘を吐きながら

「……だから泣かないでよ。悲しいなんて嘘だから」

 ふっくらした頬を濡らす涙を、指で拭いながら言った。俺は普段から嘘吐きだし、マスターちゃんはすぐ真に受ける。だからこれで誤魔化せる。

 しかしマスターちゃんは泣きながら首を振ると、真正面からギュッと俺を抱きしめて

「私はちょいちょい抜けていますが、風丸には詳しいんです。あなたがようやく見せてくれた本音を、取りこぼしたりしません」

 人は自分にとって不都合な真実より、都合のいい嘘を信じたがる。俺が大丈夫だと思えたほうが、マスターちゃんにとって都合がいいはずなのに。騙されたほうが楽なのに。

「どうしたらその苦しみを消せるかは分かりませんが、嘘で誤魔化されて無かったことにはしません」

 俺がようやく吐き出した本音の欠片。それだけじゃ胸を刺すばかりで、なんの役にも立たないものを、捨てないで持っていてくれるらしい。多分ただ俺を独りにしないために。

 目頭が熱くなって、自分が泣きそうなことを知る。涙なんて、とっくの昔に失くしたはずなのに。

 俺は込み上げて来る涙を堪えながら、マスターちゃんの背に腕を回すと

「……じゃあ、もう帰るって言わない?」
「言いません!」

 マスターちゃんは、さっきまでの不安そうな顔が嘘のように強く言い放つと

「風丸が本当に偽物でも構わないなら、ここに居る間は全力であなたを幸せにします。いつか離れても辛かった時のことを思い出せないくらい、たくさん大事にしますから。風丸も遠慮しないで、全力で甘えてくださいね」

 今日だけじゃなくてマスターちゃんの笑顔を見ると、いつも日を浴びたような心地になる。眩しくて温かくて、染みついた影も汚泥も祓われるような。

「……うん。ありがとう。マスターちゃん」

 固く抱き合いながら、期限付きの約束をする。この温もりを失くす日を、今は考えないように目を閉じた。
感想 10

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。