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第10話・さよならマスターちゃん
幸福な結末なんて(風丸視点)
避けられない別れなら、せめてマスターちゃんを悲しませるべきじゃない。マスターちゃんはずっと、こちらが困惑するほど、いつも俺を気にかけてくれたから。少しでも辛そうな顔をしたら、きっと向こうに戻ってからも、ずっと俺の心配をさせてしまう。
だからあえて薄情なほど平気なフリをした。マスターちゃんに余計な心労をかけるくらいなら、酷いヤツだと見限られたほうがマシだと。
だけどマスターちゃんは絶対に俺を好きでいると言ったとおり、最後まで俺の身を案じてくれた。自分が持っているいちばんの宝を、惜しげもなく与えて。あり得ないほどの献身への見返りは何1つ求めないまま。
下手に口を開けば引き留めてしまいそうで、無事を祈る言葉に「分かった」と返した後は、ずっと俯いていた。マスターちゃんが消える瞬間なんて見たくなかった。
送還の完了は一時的に増えた光量が、ふと消えたことによって知った。次に顔をあげた時には、マスターちゃんはまるで最初から居なかったように消えていた。
その代わりマスターちゃんが立っていた場所に、何か落ちていた。何気なく拾ったそれは
「なんだ? これ……羽飾り?」
「由羽ちゃんの落とし物かな?」
それは純白の羽根を模した飾りのようなものだった。羽根と軸の繋ぎ目は金と緑色の宝石で装飾されており、小さくても高価であることが知れた。
マスターちゃんは金髪ちゃんと違って、自分のためのものはほとんど買わなかった。それなのに、こんな装飾品を持っていたのが意外だった。
飾り気の無いヤツだったけど、案外、光物が好きだったのかな? それなら何か買ってやれば良かった。
いつも与えられるばかりだった。キスも抱くのも俺がしたいだけで、本当にこちらからは何1つマスターちゃんに返せなかった。
もっと大事にすれば良かった。俺が捧げられるものは全て捧げて。この世の何より好きで大事で特別なんだと、何千回でも伝えて。幸せな顔をもっと見たかった。
止めどなく込み上げる後悔とともに
「って、風丸。泣いているの?」
和泉の姐御の指摘に、俺はサッと顔を逸らした。だけど涙を見られては、もう誤魔化せず
「……あなたはやっぱり由羽ちゃんが好きだったんじゃないの? じゃなきゃどうして、あの子が居なくなって、力の影響が消えたのに泣いているの?」
「仮にこの気持ちが本物だとしても、俺はマスターちゃんとは行けねぇよ」
「どうして?」
姐御の追及に、俺はしばし沈黙したが
「……アンタとユエルには話してもいいか」
マスターちゃんを失って、何もかもどうでもよくなった。このうえ姐御から「なんでなんで」言われ続けるよりは、ハッキリ事情を説明したほうが楽だ。
俺は和泉の姐御とユエルの前で、いつも首に巻いていたストールを外した。
「な、何? その痣?」
俺の首には縄のような赤黒い痕が、幾重にも巻き付いている。一目で不吉さを感じさせるそれは
「呪いですか? それもかなり強力な」
「そう。俺はこの呪いのせいで、一生自由になれないのさ」
俺はそのまま2人に、忍の里の長に呪縛されていることを話した。
「術者を殺そうとすれば死ぬ。命令に逆らっても死ぬ。定期的に呪いをかけ直さなければ死ぬ。だからどこにも逃げられない。異世界なんてもってのほかさ」
俺の事情を知った姐御は
「ユエル。ユエルはこの呪いを、なんとかできないの?」
「待ってください……」
ユエルは俺の痣に手をかざして、どんな呪いか調べると
「術者の魔力を妨害して、呪いを発動させないことはできるかもしれません。でもそれには僕が定期的に、守護の魔法をかけ直す必要がある。だとしたら、やはりこの世界から出ることは……」
できないとは言えず、言葉を濁すユエルに
「そんな深刻な顏すんなよ。アンタらが俺のために気を揉む必要は無い」
俺は素っ気なく言うと、マスターちゃんが落とした羽飾りを見おろして
「……本来なら存在しないはずの幸せを数か月も味わえたんだ。十分すぎるほど恵まれているよ。使い捨ての下忍にしてはね」
まるで形見のように、手の中のそれを握りしめた。
だからあえて薄情なほど平気なフリをした。マスターちゃんに余計な心労をかけるくらいなら、酷いヤツだと見限られたほうがマシだと。
だけどマスターちゃんは絶対に俺を好きでいると言ったとおり、最後まで俺の身を案じてくれた。自分が持っているいちばんの宝を、惜しげもなく与えて。あり得ないほどの献身への見返りは何1つ求めないまま。
下手に口を開けば引き留めてしまいそうで、無事を祈る言葉に「分かった」と返した後は、ずっと俯いていた。マスターちゃんが消える瞬間なんて見たくなかった。
送還の完了は一時的に増えた光量が、ふと消えたことによって知った。次に顔をあげた時には、マスターちゃんはまるで最初から居なかったように消えていた。
その代わりマスターちゃんが立っていた場所に、何か落ちていた。何気なく拾ったそれは
「なんだ? これ……羽飾り?」
「由羽ちゃんの落とし物かな?」
それは純白の羽根を模した飾りのようなものだった。羽根と軸の繋ぎ目は金と緑色の宝石で装飾されており、小さくても高価であることが知れた。
マスターちゃんは金髪ちゃんと違って、自分のためのものはほとんど買わなかった。それなのに、こんな装飾品を持っていたのが意外だった。
飾り気の無いヤツだったけど、案外、光物が好きだったのかな? それなら何か買ってやれば良かった。
いつも与えられるばかりだった。キスも抱くのも俺がしたいだけで、本当にこちらからは何1つマスターちゃんに返せなかった。
もっと大事にすれば良かった。俺が捧げられるものは全て捧げて。この世の何より好きで大事で特別なんだと、何千回でも伝えて。幸せな顔をもっと見たかった。
止めどなく込み上げる後悔とともに
「って、風丸。泣いているの?」
和泉の姐御の指摘に、俺はサッと顔を逸らした。だけど涙を見られては、もう誤魔化せず
「……あなたはやっぱり由羽ちゃんが好きだったんじゃないの? じゃなきゃどうして、あの子が居なくなって、力の影響が消えたのに泣いているの?」
「仮にこの気持ちが本物だとしても、俺はマスターちゃんとは行けねぇよ」
「どうして?」
姐御の追及に、俺はしばし沈黙したが
「……アンタとユエルには話してもいいか」
マスターちゃんを失って、何もかもどうでもよくなった。このうえ姐御から「なんでなんで」言われ続けるよりは、ハッキリ事情を説明したほうが楽だ。
俺は和泉の姐御とユエルの前で、いつも首に巻いていたストールを外した。
「な、何? その痣?」
俺の首には縄のような赤黒い痕が、幾重にも巻き付いている。一目で不吉さを感じさせるそれは
「呪いですか? それもかなり強力な」
「そう。俺はこの呪いのせいで、一生自由になれないのさ」
俺はそのまま2人に、忍の里の長に呪縛されていることを話した。
「術者を殺そうとすれば死ぬ。命令に逆らっても死ぬ。定期的に呪いをかけ直さなければ死ぬ。だからどこにも逃げられない。異世界なんてもってのほかさ」
俺の事情を知った姐御は
「ユエル。ユエルはこの呪いを、なんとかできないの?」
「待ってください……」
ユエルは俺の痣に手をかざして、どんな呪いか調べると
「術者の魔力を妨害して、呪いを発動させないことはできるかもしれません。でもそれには僕が定期的に、守護の魔法をかけ直す必要がある。だとしたら、やはりこの世界から出ることは……」
できないとは言えず、言葉を濁すユエルに
「そんな深刻な顏すんなよ。アンタらが俺のために気を揉む必要は無い」
俺は素っ気なく言うと、マスターちゃんが落とした羽飾りを見おろして
「……本来なら存在しないはずの幸せを数か月も味わえたんだ。十分すぎるほど恵まれているよ。使い捨ての下忍にしてはね」
まるで形見のように、手の中のそれを握りしめた。
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