こんな馬鹿でダメな男、好きなはずないから

知見夜空

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第四話・海水浴に行こう

眠るまで手を繋いで

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 親元を離れた解放感か、僕以外は夜になっても一様にハイテンションだった。当然すぐに眠る空気ではなく、僕たちは大広間に集まって遊ぶことになった。僕はトランプを持って来ていたが、8人も居ると多すぎる。

 千堂がみんなで映画でも見ようと言うので、動画配信サイトから選ぶことになったが

「ち、小さい子も居るんだから、ホラーはやめておかないか?」
「男も女も子どもも居るからこそ、ホラーが最適じゃない? あんまり難しい話だと子どもはついて来られないし、ホラーならだいたいみんな見られるし」

 だいたい見られないから反対しているんだが? しかしこの場でホラー嫌いは僕だけのようで

「俺も怖いのがいい!」
「夏の夜はやっぱりホラーですよね!」

 子どもたちも女の子たちも、まさかの乗り気だ。ただでさえ嫌とは言えない雰囲気なのに、千堂が追い打ちをかけるように

「なーに、白石クン? 不安そうな顔して。まさかお化けが怖いの?」

 図星を突かれた僕は咄嗟に強がって

「ホラーなんて所詮フィクションなのに怖いはずがない。僕は子どもたちが眠れなくなるんじゃないかと心配しただけだ」
「そこまで怖いヤツは流さないから大丈夫だって。ちゃんと子どもも楽しめるマイルドなヤツにするから」

 千堂はホラー映画に詳しいようで「じゃあ、今日はこれとこれの2本立てで」とサクサク選んだ。

 ちゃんと子どもたちに配慮したようで、スプラッタ的な要素は無かったが

「わぁっ!? また出たぁ!」

 ふと油断すると、不気味な女が画面に映り込むタイプの映画で、日常でも起こりそうな恐怖演出が逆にメチャクチャ怖かった。

 途中で退席して1人で部屋に戻るのはかえって怖くて、けっきょく最後までしっかりホラーを見てしまった……。


 僕以外の皆はお菓子を食べながら、ワイワイ、キャーキャー。ホラー映画で盛り上がった後。夜の11時頃に子どもたちが寝落ちしてしまったので、ようやくお開きになった。

 僕と千堂で子どもたちをベッドに運んだ後、僕たちもそれぞれの部屋に戻った。千堂は客室で、僕はいちばん広い主寝室。しかしさっき見た映画の、特にジャパニーズホラーが、あまりにも日常に起こりそうなタイプの作品だったせいで怖くて眠れない。

 しかもトイレに行きたくなってしまった。映画を見ている間、恐怖のあまり喉が渇いて、お茶を飲みすぎたせいだ。朝まではとても尿意を我慢できそうにない。しかし1人でトイレに行くのは怖い。霊は水場に集まると言うし、洗面所には鏡もある。何か映りそうな予感がひしひしとする……。

 もしじいやが別荘に居たら、恥を忍んで助けを求めたかもしれない。しかし急な増員のせいで部屋数が足りなかったので、じいやは夕食の片づけをした後、別の場所に泊りに行った。

 つまりこの別荘で僕が頼れそうな相手は

「ふふっ、お化けが怖いからトイレについて来てってマジか。お前、荒事には強いくせに、どうしてこんなどうでもいいところでヘタレなの?」

 案の定、千堂に笑われた僕は、ヤツの後ろを歩きながら

「うるさい、うるさい! お前がホラー映画を見たいなんて言うからだ!」

 他の子たちを起こさないように小声で不満を訴えるも

「子ども向けのマイルドなのを選んだつもりだったんだけどな~。まさかチビたちや女の子たちじゃなくて、いちばん大きなお兄ちゃんが行けなくなっちゃうとはな~?」
「うるさい! 絶対に誰にも言うなよ!?」

 真っ赤になりながら念を押す僕に、千堂はヘラヘラしながら

「大丈夫、大丈夫。お前のイメージを下げても、俺になんの得も無いし。秘密はちゃんと守ってやるから、これからも俺のために、女子にモテモテの白石クンで居てくれ」
「安心はしたけど釈然としない……」

 でも恥を忍んで頼んだだけあって、千堂が居ると心強かった。無事にトイレを済ませて2階の廊下に戻ったものの

「白石、そんなにお化けが怖くて1人で眠れるの?」
「眠れるわけない……」

 千堂の質問に反射的に答える。甘えではなく「お前のせいだぞ」という恨み言のつもりだったが

「じゃあ、一緒に寝てやろうか?」
「は? えっ? 本気で?」

 僕の動揺ぶりが大袈裟に見えたのか、千堂はキョトンとして

「そんなに驚くことないだろ? 俺だって自分が損しないなら人を助けることだってあるよ。特に今回の旅行は、たくさん世話になったからな。添い寝くらいならしてやるよ」
「……お前に一緒に寝てもらったことも、絶対に誰にも言わないか?」

 コイツが僕に優しくしてくれるなんて怪しい。何かの罠じゃないかと疑うも

「疑い深いヤツだな。誰にも言うはずないだろ? 秘密が秘密じゃ無くなったら、強請りのネタが無くなっちまう」
「そうだな。お前はそういうヤツだ」
「安心した?」
「まぁ、逆に」

 コイツと居ると、また変な気分になってしまうかもしれないと少し不安だった。でもこの状況では恐怖が勝って、一緒に寝てもらうことになった。

 主寝室に入った千堂は、クイーンサイズのベッドを見て「おお」っと歓声を上げると

「こんなにデカいベッドはじめて見た。流石は主寝室。他の部屋とは格が違うな」

 そのまま「とうっ」とベッドに飛び込んで

「ベッド、フカフカで気持ちいい。メッチャよく眠れそう」

 体とともにズブズブと眠りに沈んで行こうとする千堂に

「待て。僕を置いて行くな」
「じゃー、お前も早よ来い。俺の瞼は長くは持たんぞ」

 千堂に手招きされて、僕もアイツの隣に横になった。気になるヤツがすぐ隣に居るせいか暗闇が怖いのか、もはやどちらのドキドキなのか分からない。1人よりはいいが、けっきょく眠れそうにないと思いながら目を閉じようとした時。いきなり千堂に手を握られた。

 ギョッとして横を見ると、アイツもまた僕を見ていて

「お前が眠るまで繋いでおいてやるよ。これなら怖くないだろ?」

 眠そうに微笑むと、今度こそスヤァと眠ってしまった。取り残された僕は、千堂に手を取られたままプルプルと震えて

(コイツがたまに発揮する面倒見の良さはなんなんだ……!?)

 そのギャップはズルいと人知れず悶えた。僕の好きな少女漫画でもよく、あまりに魅力的な相手に「ズルい」と言う場面があった。人は甚だしい可愛さやカッコよさに触れると、本当に「ズルい」とか「反則だ」と感じるのだと身を持って知った。

 お陰でお化けへの恐怖は吹っ飛んだが、その代わり千堂のことで頭がいっぱいになって、けっきょくなかなか眠れなかった。
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