島津の剣

dragon49

文字の大きさ
上 下
2 / 5

02 警告弾

しおりを挟む
 正午過ぎに最前線に本陣を移した家康は早速に命を発した、「大筒を放て!」。大筒を預かる番頭はこれを聴いて肝を潰した。「いけませぬ、今大筒を放てば打ち掛かって交戦中の黒田勢にも被害が及ぶ恐れありますれば」。

 「誰が敵陣の正面に撃ち込めと申した?もっと南の松尾山が目標じゃ!!」、家康の果断に大筒組の家臣は震撼した。(これは戦を分ける賭けじゃ、下手をすれば中立の小早川を敵に回すやも?しかし大御所様の命なれば勝算ある筈)。

  大筒組の砲弾は、関ヶ原に綺麗な弧を描いて二発三発と次々に松尾山の小早川陣に着弾した。

  正午過ぎ、松尾山の小早川秀秋の陣では、あちらこちらから昼餉の炊煙が上がろうとしていた。東西陣営が死闘を繰り広げるのを高見の見物を決め込んでの優雅な戦闘である。

  この時、雷鳴の様な轟音と共に松尾山全体が二度三度と震撼した。「な、なんじゃ今の轟音は?」、小早川秀秋は本来臆病なので大そう肝を潰し青くなった。

 「はっ、本陣に大筒の砲弾を撃ち込まれたよしに御座います」、側近の一人が応えた。「どこの陣から発せられたものか?」、「東軍の大将、内府様の陣から発せられたものに御座います」。

 「いかん!これは内府様からの警告弾じゃ。直ぐに諸将を集めよ!」、小早川秀秋は出陣の攻撃準備を整えさせた。「我が小早川の一隊は、これより大谷吉継の陣を側面から突く!皆の者続け!」。

  松尾山から降りる大百足の様に小早川が約一万の兵で大谷吉継の陣を側面から急襲すると、正面の福島隊と五分に渡り合っていた大谷吉継は算を乱して敗勢が濃厚となった。

 大谷吉継は、西軍の宿将である。これが敗走し始めると、黒田隊が石田隊に猛然と突撃してこれを突き崩し、戦局は大いに東軍の勝勢に傾き始めた。

(人は信なくしては立てん。これで三成の首はとったも同然、そろそろ佐和山城にも別働隊を送って、奴の根城を焼いてやろうか)、家康はこの瞬間、秀光率いる本隊の到着を待たずに、関ヶ原の戦いでの勝利を確信した。

 (続く)
しおりを挟む

処理中です...