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碁敵
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江戸中期、将軍の代は七代の家継公から八代の吉宗公に移ろうとする頃の話である。
江戸城の辰巳、八丁堀界隈の銭湯「亀屋」の二階では、馴染みの客が湯上りに番茶や饅頭などの甘味を楽しみながら碁打ちに興じる。
銭湯の二階では、その奥座敷で湯上りの客に酒だけでなく、最近湯女が過剰な奉仕に及んでいるとの風評が立ち、臭覚の鋭い岡っ引きの三次が昼の八つ時にふらりと現れた。
三次は、一風呂浴びると二階に上がり、調度をしている三助を見つけると、碁打ちに興じたいので主人の卯吉を連れて来るよう頼んだ。
「あれ、これはこれは三次の親分さん、久しぶりじゃーございませんか。今日はどういった御用で?」、奥から出てきた卯吉が愛想笑いを浮かべた。
「なーに、大した用事じゃねえ。今度将軍様の代が変わるって同心の旦那から聞いたもんでな、おまえとは古い付き合いだ、碁打ちでもしながらその話でもしようかなってな」。
そして卯吉先手番で黒石を布いてから半刻も過ぎた頃、三次が番茶をゴクリと含んでから徐に口を開いた。
「今度の将軍様は紀州から来なさる。それでな旧臣の魑魅魍魎みてぇな古狸が悪さをしねえようにだ、御庭番衆てぇのを連れて来るってえ話だ」
「‥‥‥」、卯吉は盤面をジッと見やっている。
「その御庭番衆ってのはな、江戸城中だけじゃねえんだ。江戸の街中まで目を光らせるって話だ」
「‥……」、卯吉の目が充血してくる。
「ことに幕府は吉原を公娼として、廓内に番所まで置いている関係上、渡世人がやってる岡場や鉄火場には厳しくなる。
ことに最近噂になってる出会い茶屋や銭湯の湯女の…」
「あったー、これで負けた。こんな手があったとは!」、卯吉が月白に手をやると、湯女が奥から盆に載せた饅頭とタコ糸に通した文銭の塊を三次にさっと差し出した。
「卯吉、俺は古い付き合いは大事にする男だ、余計な事はしゃべらねえから安心しな!」、三次は饅頭を頬張り、文銭を懐に入れると、傍らに立っている湯女の太腿をピシャと叩いて亀屋を後にした。
江戸城の辰巳、八丁堀界隈の銭湯「亀屋」の二階では、馴染みの客が湯上りに番茶や饅頭などの甘味を楽しみながら碁打ちに興じる。
銭湯の二階では、その奥座敷で湯上りの客に酒だけでなく、最近湯女が過剰な奉仕に及んでいるとの風評が立ち、臭覚の鋭い岡っ引きの三次が昼の八つ時にふらりと現れた。
三次は、一風呂浴びると二階に上がり、調度をしている三助を見つけると、碁打ちに興じたいので主人の卯吉を連れて来るよう頼んだ。
「あれ、これはこれは三次の親分さん、久しぶりじゃーございませんか。今日はどういった御用で?」、奥から出てきた卯吉が愛想笑いを浮かべた。
「なーに、大した用事じゃねえ。今度将軍様の代が変わるって同心の旦那から聞いたもんでな、おまえとは古い付き合いだ、碁打ちでもしながらその話でもしようかなってな」。
そして卯吉先手番で黒石を布いてから半刻も過ぎた頃、三次が番茶をゴクリと含んでから徐に口を開いた。
「今度の将軍様は紀州から来なさる。それでな旧臣の魑魅魍魎みてぇな古狸が悪さをしねえようにだ、御庭番衆てぇのを連れて来るってえ話だ」
「‥‥‥」、卯吉は盤面をジッと見やっている。
「その御庭番衆ってのはな、江戸城中だけじゃねえんだ。江戸の街中まで目を光らせるって話だ」
「‥……」、卯吉の目が充血してくる。
「ことに幕府は吉原を公娼として、廓内に番所まで置いている関係上、渡世人がやってる岡場や鉄火場には厳しくなる。
ことに最近噂になってる出会い茶屋や銭湯の湯女の…」
「あったー、これで負けた。こんな手があったとは!」、卯吉が月白に手をやると、湯女が奥から盆に載せた饅頭とタコ糸に通した文銭の塊を三次にさっと差し出した。
「卯吉、俺は古い付き合いは大事にする男だ、余計な事はしゃべらねえから安心しな!」、三次は饅頭を頬張り、文銭を懐に入れると、傍らに立っている湯女の太腿をピシャと叩いて亀屋を後にした。
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