鹿鳴館

dragon49

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鹿鳴館

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 明治政府は、新政府による統治に当たって人材の不足によって悩んでいた。特に、新警察の樹立に伴い幕府時代の同心、特に岡っ引きをそのまま巡査に登用する例が多かった。

 特に、関西の治安については上方といわれるように朝廷とその取り巻きの貴族たちが華族として高貴な身分を引き継いでいたため事情は複雑であった。

 そこで、新政府内部にあった西郷の提案により大阪勤番にあった旧幕臣、善岡と佐野を関西方面を見る警察官僚として登用してはどうかという案が浮上した。

 ついては上京にあたり失礼があってはならないと鹿鳴館で一泊させることとなった。

 善岡「なんだこの真っ赤な建物は?」

佐野「これが、ハイカラな西洋建築でござるよ」

善岡「何か、会津藩の残党と新政府軍が上野で衝突したとのうわさを聴いたが、キナ臭いのう」

佐野「単なるホラでは?色んな流言が飛び交っていまする」

 善岡と佐野を迎えたのは、果たして外務卿の井上ではなく、着流しの西郷であった。

二人は、顔を見合わせた。

 「いやあ、遠路はるばるご苦労様。先ずはユックリとしてくれんしゃい。モーニングとして目玉焼きを用意したけん。おいどんはこれでごわす」

 西郷は、懐から味噌握りを取り出すと齧り付き、カンラカンラと豪快に笑うと奥に引っ込んだ。

善岡「おい、なんだモーニングというのは?それに目玉焼きとは面妖な」

佐野「それは確か英吉利の言葉、悔やみを申すとか、呻くといった意味かと」

善岡「読めた。奴等、上野で戦死した会津藩藩士の目玉をくり抜いて喰わせるつもりなのだ」

佐野「何と恐ろしい。一体何の為に?」

善岡「知れたこと、踏み絵よ。食ってみよ、ならばお前達の忠義を認めてやるということよ」

ドアをノックする音がし、執事の田中が入って来た。

「モーニングをお持ちしました」

 「ま、待て。いくらなんでも目玉焼きというのは、人の所業とも思えんが」

 執事の田中が首をかしげ、銀製食器の蓋を開けると、そこに何やら平べったい目玉焼きが鎮座している。

佐野「こ、これは?」

田中「鶏卵を焼いたものでござります」

二人は、薄笑いを浮かべた。

善岡「上野の噂は、ホラじゃ」

佐野「ほらー、ホラじゃった」
 
妙に喜ぶ二人を見て、執事の田中は首を捻ってティーを注いだ。

善岡「うわー、血じゃ。鮮血のようじゃ」

佐野「ま、まさか?」

田中は、神妙な顔をして以降問答はしなくなった。
ただ業務をテキパキとこなすばかりで、軽く会釈をすると静かに退室した。





 
 





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