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07 花見の苦しみ
隅田川の虹
しおりを挟む東京の上野公園は花見の時期を迎え、早朝から行楽客でごった返していた。
大地の祖母きくは、日曜日は馴染みの客が来るのだが中川豆腐店を臨時休業とし娘のみや子と孫の大地とともに花見に来ていた。
「さあ、大地。おまえの好きな厚揚げとインゲンの煮込みだよ。お握りも沢山持ってきたからね」
きくは、愛おしそうに大地の頭を撫でた。
大地は、これには応えず親子連れが肩車に興じる姿をジーっと見ていた。
「大地、タコさんウィンナーにハンバーグ、ナポリタンも作ったんだ。母さん、早起きして沢山作ったからね」
母親のみや子が、下町の洋食で誘った。
「ねえ、お父さんはどんな人だったの?おばあちゃんも母さんも、お父さんのことを聴くと何にも話してくれないじゃないか。どうしてなのさ?」
きくとみや子は、冷水を浴びせられたかのように俯いて黙ってしまった。
同じ商店街の八百屋も少し離れた所でシートを大きく広げて花見をしていた。一人娘の道子は、大地の同級生で幼馴染みでもある。
「どーしたのさ、大ちゃん。また、おばあちゃんとお母さんを困らせてるんじゃないの?」
道子は、大地の視線の先を探した。
「アッ!まーた大ちゃん、他所のうちの肩車に憧れてる。うちのお父さん来てるから、やってもらいなよ」
道子は、弁当のタコさんウインナーを見つけると楊枝でつついて頬張った。
「いいよ!うるさいなぁ!」
大地は血相を変えて立ち上がると、一目散に上野公園から走り去った。
残されたきくとみや子は、まるで通夜のようにおし黙っていた。
「まーた大坊の奴、臍を曲げやがったな」
一部始終を見ていた道子の父親大作が心配してやって来た。
「さあ、そんなに鬱ぎ込んでないで、一緒にやりましょう!」
大作は、下町のオトコらしく気さくだ。
周囲は既に盛大に談笑が始まっている。
みや子ときくは、ヨロヨロとして相席を承知したが、大地のいない宴会で愛想笑いを繰り返すばかりで表情は冴えなかった。
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