庚申塚

dragon49

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庚申塚

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 八月の新盆も終わりかけた、ある暑い日の昼下がり、初老の職人風の男が路面電車を見ながら、キンキンに冷えたソーダ水を煽っていた。

 「何も変わってねぇなぁ、アイツだけは」、目の前を路面電車が通るたびに男は、ジッと自分の手を見つめ職人タコを確認するように溜息をついた。

 「お父さん、またここに居たの~?お父さん突然フッと居なくなっちゃうから、ご近所さんたちがボケちゃったんじゃないのかと心配してるんだからね」、この男の長女が額に玉の汗を浮かべてくって掛かった。
 
 「冷蔵庫にメロンが有ったろう、アレを切って仏壇にあげたか?」、「あげたわよ、お母さんが好きだったからね」、男は頷くと線香をあげる仕草を見せて、またソーダ水をガブリと飲み干した。

 「お父さん、畳の注文入ったわよ、畳替えの仕事!」、娘が男を鼓舞するように語りかけた。「フローリングの時代だ。新品の畳打ちの仕事もメッキリ減ったし、もう店を閉めようと思ってな」、「もう日本人は畳の部屋じゃなきゃダメでしょ~」、娘は地団駄踏んだ。
 
 「お父さん、一回で良いから私と一緒に病院行って検査して診てもらおう?」、「バカヤロウ!オレが逝くときゃな、母さんがあの世から迎えに来る時だ!」、男が毒を吐いたので、娘は這々の体で自宅に逃げ出した。

 男は、またボンヤリとして腰に下げた手拭いで額の汗を拭うと、昨晩の銭湯の主人の話を思い起こしていた。
(近頃、若い女の中国人留学生が数人来るようになってね。洗い場で下着を洗濯するもんだから、年配の御婦人連中から苦情が出てね.....)
 
 いつの間にやら西陽が射すようになり、男はまた路面電車を見て呟いた。
(アイツが話しができればなぁ~。俺とこの街を見て何と言うだろうか?)

 男の居る庚申塚の前を路面電車があいも変わらず、またチンチンと走り去って行った。

(終わり)
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