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彼岸の客
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私は、都内のタクシー運転手である。アメリカの大学を出ては見たものの、英語はそれほど身に付かず、バブルが弾けた日本ではそれ程いい就職口もなく、結局流れ流れてタクシー運転手になってしまった。
親は投資した学費が回収出来ないとさんざん嘆いたが、東京五輪が近く、また外国人の観光客も増加の一途なので、日常会話程度の英語なら分かる私には有利な状況になっている。
タクシーの運転手は俗に雲助と言われる。雲は遠くに行かなければ商売にならないもので、近場の客ばかりでは儲からない。生活の為には、どうしてもロングの客が必要なのだ。
雲助のもう一つのドル箱は、深夜の客だ。深夜料金が課金されるから効率良く稼げる。そんな雲助の休憩場所は決まっており、青山墓地の周辺か神宮外苑と決まっている。
私は深夜に夜勤で走る場合には、休憩場所は青山墓地の表通りと決めている。ここは六本木に近く、散々に酔った若い女性やホステスが深夜に乗り込んで来てロングの客になる場合があるからだ。
私はその日、彼岸の中日に青山墓地の表通りで休憩していた。時刻は既に午前二時を過ぎていたが、雲助を相手にするラーメン屋の看板だけは妙に赤々として元気だ。
私がウツラウツラと睡魔に襲われようとした時、後部座席のドアをコツコツと叩く音で起こされた。乗り込んで来た客は、白のワンピース姿、年は二十二三といった位の妙齢の女性だった。この辺りは最近は中国人のホステスも多い、私は念の為「ニーシーチョンゴーレンマ?」と聞いてみた。
彼女はそれには反応せず、「相模原までお願いします」と言って来た。来た、久々のロングの客である。しかし、六本木で泥酔したであろう彼女からは、アルコール臭は全くせず一言も喋らない。
兎にも角にも走り出すと、深夜なのでメーターは見る見る上がる。相模原の彼女の自宅前まで送った時には五万近くにもなっていた。「持ち合わせがないので、家から持って来ます」、彼女はいそいそと家の玄関から入っていった。
しかし、待てど暮らせど彼女は出てこない。しかも彼女の座っていた所はグッショリと濡れており、車内は冷房を入れたように妙に冷え切っていた。私は意を決して玄関の呼び鈴を押した。
中から彼女の父親と思しき初老の男性が出て来たので、一部始終を話すと彼は溜息をついて言った。「またですか。もう娘はとうに亡くなっておるんですよ。六本木のクラブで外人に不法薬物を飲まされて、急性アルコール中毒で逝ってしまったのです。青山墓地に葬ったのですが、彼岸の中日になるとこうして魂だけが帰省するのです」。そう言って、失意の表情で料金をそっと支払った。
(完)
親は投資した学費が回収出来ないとさんざん嘆いたが、東京五輪が近く、また外国人の観光客も増加の一途なので、日常会話程度の英語なら分かる私には有利な状況になっている。
タクシーの運転手は俗に雲助と言われる。雲は遠くに行かなければ商売にならないもので、近場の客ばかりでは儲からない。生活の為には、どうしてもロングの客が必要なのだ。
雲助のもう一つのドル箱は、深夜の客だ。深夜料金が課金されるから効率良く稼げる。そんな雲助の休憩場所は決まっており、青山墓地の周辺か神宮外苑と決まっている。
私は深夜に夜勤で走る場合には、休憩場所は青山墓地の表通りと決めている。ここは六本木に近く、散々に酔った若い女性やホステスが深夜に乗り込んで来てロングの客になる場合があるからだ。
私はその日、彼岸の中日に青山墓地の表通りで休憩していた。時刻は既に午前二時を過ぎていたが、雲助を相手にするラーメン屋の看板だけは妙に赤々として元気だ。
私がウツラウツラと睡魔に襲われようとした時、後部座席のドアをコツコツと叩く音で起こされた。乗り込んで来た客は、白のワンピース姿、年は二十二三といった位の妙齢の女性だった。この辺りは最近は中国人のホステスも多い、私は念の為「ニーシーチョンゴーレンマ?」と聞いてみた。
彼女はそれには反応せず、「相模原までお願いします」と言って来た。来た、久々のロングの客である。しかし、六本木で泥酔したであろう彼女からは、アルコール臭は全くせず一言も喋らない。
兎にも角にも走り出すと、深夜なのでメーターは見る見る上がる。相模原の彼女の自宅前まで送った時には五万近くにもなっていた。「持ち合わせがないので、家から持って来ます」、彼女はいそいそと家の玄関から入っていった。
しかし、待てど暮らせど彼女は出てこない。しかも彼女の座っていた所はグッショリと濡れており、車内は冷房を入れたように妙に冷え切っていた。私は意を決して玄関の呼び鈴を押した。
中から彼女の父親と思しき初老の男性が出て来たので、一部始終を話すと彼は溜息をついて言った。「またですか。もう娘はとうに亡くなっておるんですよ。六本木のクラブで外人に不法薬物を飲まされて、急性アルコール中毒で逝ってしまったのです。青山墓地に葬ったのですが、彼岸の中日になるとこうして魂だけが帰省するのです」。そう言って、失意の表情で料金をそっと支払った。
(完)
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