迷宮探索者の憂鬱

焔咲 仄火

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Phase 1 生まれ変わってもブラック会社に勤めていた迷宮探索者の憂鬱

第10話 ラットマン

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 三人の後ろを歩きながら俺は、道の先から聞こえてくる物音に気付いた。

「待て?」

「なんだ?まだ分かれ道まで戻ってねえぞ?」

 不機嫌なアドンに対し黙るよう手を挙げて制し、そして音の正体を探る。

「足音がする。魔物だ」

「え?」

 俺の言葉にびっくりしたのが斥候のフーゴ。本来こいつが最初に気づかなければいけない役目のはずだ。
 アドンは武器を構え緊張感が漂う。

「2、3……4体?この階層なら、おそらくラットマンだ。ラットマンが4体こちらに向かって歩いてきている」

「え?なんで分かるの?」

 足音にも気づけないレンジャーのフーゴの質問には答えない。

「よ、4体も?仕方ない、迂回しよう」

「は?」

 アドンのセリフに思わず変な声を出してしまう。

「いや、4体っつってもラットマンだし……」

 ラットマンは前足で武器を持ち、後ろ足で二足歩行をする大型のネズミだ。
 二本足で歩くため、逆にネズミよりも歩くのが遅い。四肢も短いため攻撃範囲が短く、脅威にはならない。
 群れに遭遇して取り囲まれてしまうと大変かもしれないが、こちらが4人相手が4体なら1人1体倒せばよいだけだ。それに……

「迂回っつっても後ろは行き止まりだぜ?」

 俺の言葉にアドンは顔を歪めて困りだした。明らかに狼狽している。
 たった4匹のラットマンに焦るだなんて、こいつ本当にC級探索者か?
 さすがに不思議すぎて質問してみる。

「おまえいつも4体いたら逃げてんの?いつもどうやってんの?」

「バカヤロウ!魔物を舐めんなよ!生き物っていうのは簡単には死なねえんだ。2体以下じゃなきゃ逃げるべきだろ!」

 嘘だろ?その手に持っている見た目にも派手な長剣ロングソードは、お飾りなのか?
 生きてる世界が違いすぎて会話が成立しない。
 そうこうしているうちに、キィキィというラットマンたちの鳴き声が聞こえてきた。

「ど、どうしよう……」

 ちびデブの情けない声に、答えに詰まる残る二人。
 仕方なく俺は指示を出す。

「やるしかねえだろ。どうせ戻っても行き止まりなんだし。ほら来るぞ!ダミアンは魔法、フーゴは弓で攻撃しろ。近づいてきたら俺ら二人が対処する」

 なんでラットマンごときにそこまで怯えるんだか……
 そしてその姿が視界に入った時、フーゴの矢が飛ぶ。
 だがそれはラットマンまで届くことなく地面に落ちる。

「おい、ちゃんと狙え!」

「やってるだろ!」

 珍しく声を荒げて怒るフーゴ。
 ちゃんと狙ってあれなのか?
 次にだいぶ遅れてダミアンの火球ファイアボールが飛ぶ。それは全く見当違いの方向へ飛び、岩壁に衝突して破裂音と共に消える。
 俺は黙ってダミアンの顔を見ると、ダミアンも怒って

「そんなに毎回当たるわけがないだろう!」

 と俺に暴言を吐く。
 こいつ魔法使いだよな?今まで見てきたどんな魔法使いよりもへたくそだ。なんなら剣士の俺よりも下手だ。ここで見本を見せてやってもいいが、さらにキレられそうなのでやめておく。

「もういい、お前らは後ろで待機しとけ。間違って俺らに当たるのが怖い。行くぞアドン」

「命令するな!」

 大デブアドンは俺にそうキレるが、それなら自分から指示を出してもらいたいものだ。
 俺たち二人は剣を構えラットマンに向かって歩き出す。
 空腹な状態のラットマンは好戦的だ。その手に持った木の棒を構えて俺たちに向かってくる。
 俺の前のラットマンがその木の棒を振りかぶった時、俺は首筋をカタナで切り裂く。
 キィー!という断末魔の叫び声を上げながら、一体目が倒れる。
 やせ細ったカタナでもラットマンごとき斬るのには支障がなさそうだ。
 その横ではアドンが、ラットマンの持つ木の棒とチャンバラを始めていた。
 ラットマンの持つ木の棒よりもアドンの持つロングソードの方が遥かに頑丈だ。ぶつかるたびに木の棒が傷ついてゆく。アドン優位のはずだが、そのうちアドンの息が上がって、ぜえぜえと呼吸が荒くなってゆく。
 その間にも俺は二体目のラットマンの首を切り裂いて倒す。残る一体がアドンに向かってゆこうとしたため、後ろからそいつの息の根も止める。
 あとはアドンとタイマンしているラットマンだけだ。手を出したら怒るかと思い様子を見ていると、なんとラットマンの木の棒にはじかれて、アドンはロングソードを落としてしまう。

「嘘だろ?」

 あまりにびっくりして変な声が出てしまった。

「ひい!」

 木の棒を振りかぶったラットマンにビビって頭を抱えるアドンを助ける形で、俺はラットマンの喉にカタナを突き刺す。
 四体目のラットマンも一撃で死に、地面には4個の魔石が残っていた。

「大丈夫か?」

 俺がアドンのロングソードを拾って手渡すと、アドンはわなわなと肩を震わせ始めた。
 怪我はしていないはずだ。つーか、木の棒で殴られてもそうそう怪我はしないだろう。ラットマンが本当に怖いのは、掴まれて噛み付き攻撃される時だ。

「チョーシに乗ってんじゃねえぞ!」

 突然アドンが大声を上げるので、俺は一瞬何が起きたか分からなかった。
 曰く、命令するな、年下のくせに偉そうだ、D級のくせに偉そうだ、俺たちの方がずっと経験が長いんだ……。
 この大デブ、ラットマンごときに後れを取っていたことは棚に上げてしまったらしい。
 助けてもらったお礼が先では?

 あまりに的外れすぎて、逆に冷静になった俺は、どうするべきか頭を悩ます。
 このままだと、上司ゲイズに休暇を認めさせられるだけの財宝を稼ぐのは困難だ。いや、それどころか、稼ぐ財宝よりも消費するアイテムの金額の方が高くなり、また大赤字になりかねない。生活してゆけなくなってしまう。
 ともかく、こいつらを最大限活用できるように戦闘をしなくてはならない。
 だとしたら下手に言い返しては逆効果だ。なんならこいつらが取りこぼした魔物は俺が全部倒せばいい。
 とにかく今日も上手くいかなかったといって大した成果も上げずに帰ったら、余計にゲイズの機嫌が悪くなる。
 それは避けたい。俺はとにかく休暇を取りたいのだ。
 そのためなら多少へりくだってもいい、こいつらがちゃんと魔物を倒させなければ。
 そしてポーションなどは極力使わずに済むよう、気を付けなければ。
 本当は先日突破した30階層以降のために、対毒装備をそろえたいと思っていたが、今回はそんな余裕はとてもないだろう。

 前々回は良い仲間に恵まれたが、今回は本当に最悪のメンバーだ。
 昨日の新人より扱いづらいわ。
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