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Phase 1 生まれ変わってもブラック会社に勤めていた迷宮探索者の憂鬱
第32話 しいたけ
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「やだー!しいたけ嫌いー!」
賑やかな金牛亭に、ひと際大きなココロの声が響いた。
いつも夕食は自宅で食べているマルコを除いた残りのメンバー、ロキ、アルマ、ココロ、レオンの四人は今宵も仲良く夕食を食べていた。
「好き嫌いをしてたらダメだ!しいたけを食べれるようにならなきゃ大きくなれないぞ!」
「食べても大きくなれないもん!」
「確かに!ハーフリングだもんな!ワハハハ!」
「ロキのいじわるー!」
食べ物の好き嫌いが多いココロにロキは何でも食べさせようと、大皿に乗せられた焼いた肉や野菜などのたくさんの食物の中から、しいたけを取ってココロの皿に乗せてやったところ、ココロの強い反発を受けていた。
「アルマ~!ロキがいじめる~!」
「ロキさん!ココロちゃんをいじめないでください!」
「いじめてるわけじゃないよ!食べ物の好き嫌いがあると、栄養のバランスも悪くなるし、性格にも影響を与えるだろ?だから俺はココロにしいたけを克服して、健全な精神を養ってもらおうと思ってるんだ」
「もー!そう言って、本当は面白がってるだけでしょう!」
「なぜ分かった?」
「顔が笑ってますよ」
「おかしいな……」
アルマに笑い顔を指摘され、顔の筋肉を動かしごまかそうとするロキ。
「ロキのばかー!」
「なんだと?!バカって言うやつがバカなんだぞ!」
「ククク、なんだよそれ!」
ロキの返しに思わすレオンが笑う。
笑われた意味が分からずロキは不思議な顔をすると、レオンが言葉を続けた。
「何の論理だよそれ!」
「あれ?『バカって言うやつがバカ』って言わない?」
「初めて聞いたよ!」
「えっ?うそ?アルマは?」
「私も初めて聞きましたー。ロキさんって時々変な言葉遣いしたり、変なこと言ったりしますよね」
「うっそ?!俺の前世の世界じゃ常識だぜ?」
「出たよ前世!」
「なんだよレオン!俺に前世の記憶があるって話、信じてくれてたんじゃねえのかよ?!」
「信じてるけどさ、なんでも前世のせいにされると、どこまでが本当でどこからが作り話か分かんなくなるぜ」
「全部本当だわ!嘘なんてついてねーわ!」
ロキは心外とばかりに怒りだす。
そんなロキを相手にもせず、アルマが話し出す。
「でも当たり前だと思ってたことが、自分の住んでた地域だけだったってことってありますよね。私この迷宮都市に出てくるまで、食事にはパンも食べることが当たり前だと思ってたんですけど、この街の人ってお肉だけ食べてる人が多いですよね。栄養バランス大丈夫なのかな?」
「そうだな。習慣の違いってあるよな」
「無視すんな!」
「ロキさんはでもバランスよくいろいろ食べますよね」
「よくぞ気づいてくれた!その通り。肉も豆も野菜も、もちろんしいたけも何でも食べることで、俺のようにバランスの良い肉体と精神が形成されるのだ!」
「ロキは何でも食べるせいで個性がないよな」
「なんだと!」
「ほら、なんか嫌いな食べ物とか、苦手なものがあると、そいつのキャラクターみたいになるじゃん?ロキってなんかなんでもできるけど、悪く言ったら無個性だよな」
「うぐぐ……」
「何か言い返してくれよ」
「返す言葉がない……」
凹むロキを見て、三人は笑う。
「それに比べるとアルマちゃんは回復特化でキャラが濃いよな」
「そんなことないです……私戦闘になにも役に立てなくて……」
「そこが個性なんだよ。ココロだって索敵がすごいらしいな」
「まあね!」
レオンに褒められたココロが胸を張ると、ロキはしょんぼりしながらエールを一口飲み、そして大皿から肉や野菜などバランスよく自分の皿に取り分けた。
「どうせ俺なんてただの器用貧乏だよ。弓や槍も使ったことがあるけど、だれにも負けないっていう特技は何一つねえし……」
「あ、いじけた……」
「ほおっておきましょう!」
「ワハハ!ところでロキとアルマちゃんが初めて会った時って、アルマちゃんがモンスタートレインに囲まれてたって言ってたよな?戦闘ができないのに、よく無事だったな」
「アルマは回復魔法を使えるから……」
「そうですね。ヒールでゾンビを追い払って耐えてました」
「ん?」
「え?」
アルマとロキの会話の中に、二人の認識に相違があった。
「いやアルマ、ゾンビだけでなくてラットマンの方が数が多かったじゃないか?襲われてケガしても、自分にヒールをかけて回復していたんだろ?」
「あ、いえ。ずっとヒールでゾンビを追い払っていただけで、けがはしてなかったです」
「え?なんで?」
「え?」
アルマとロキが目を合わせ、お互いに何が言いたいか伝わらずにいた。
少ししてロキの隣に座るレオンが、ロキに顔を寄せ手で口元を覆ってひそひそ話で声をかける。
「なあロキ、ラットマンをヒールで追い払えるなんて話、聞いたことないよな?」
「ああ。ヒールでダメージを負うのはアンデッドモンスターだけだ。ラットマンはアンデッドではない」
「ロキ、聖女の使う奇跡の一つに、魔物を寄せ付けない結界を張るということができると聞いたことがある」
「まさか、アルマが無意識にそれを使っていたって言うのか?」
「分からんが、それなら説明が付くだろう?」
「ううむ……明日検証してみるか……」
二人がひそひと話をしている隙に、ココロがこっそりと自分の皿に乗せられたしいたけをロキの皿に移していた。
ロキはレオンとの話に夢中で、それに気が付いていない。
「もー、二人で何を内緒話してるんですか?」
アルマにそう言われ、ロキは答える。
「あ、ああ。明日の探索について決めた。明日はちょっと31階層に行ってみるか!」
「ええ?!私たち中層なんてまだ一度も行ったことないですよ?!」
「もし危なかったら、帰還のスクロールですぐに帰ろう」
「えー?大丈夫かなあ?」
「大丈夫大丈夫!」
ロキはそう答えながら、再びエールを口にして、自分の皿の上の肉などを食べる。
何も考えずにココロの置いたしいたけも食べていると、ココロが口を押えてクスクスと笑っていた。
「どうしたココロ?」
「なんでもない!」
「ん?」
すると、ロキはココロの皿の上のしいたけが無くなっていることに気が付く。
「なんだココロ、しいたけ食べれたのか?」
「そう」
「偉いな!」
そう言ってロキはココロの頭を撫でてやると、ココロはクスクスと笑っていた。
賑やかな金牛亭に、ひと際大きなココロの声が響いた。
いつも夕食は自宅で食べているマルコを除いた残りのメンバー、ロキ、アルマ、ココロ、レオンの四人は今宵も仲良く夕食を食べていた。
「好き嫌いをしてたらダメだ!しいたけを食べれるようにならなきゃ大きくなれないぞ!」
「食べても大きくなれないもん!」
「確かに!ハーフリングだもんな!ワハハハ!」
「ロキのいじわるー!」
食べ物の好き嫌いが多いココロにロキは何でも食べさせようと、大皿に乗せられた焼いた肉や野菜などのたくさんの食物の中から、しいたけを取ってココロの皿に乗せてやったところ、ココロの強い反発を受けていた。
「アルマ~!ロキがいじめる~!」
「ロキさん!ココロちゃんをいじめないでください!」
「いじめてるわけじゃないよ!食べ物の好き嫌いがあると、栄養のバランスも悪くなるし、性格にも影響を与えるだろ?だから俺はココロにしいたけを克服して、健全な精神を養ってもらおうと思ってるんだ」
「もー!そう言って、本当は面白がってるだけでしょう!」
「なぜ分かった?」
「顔が笑ってますよ」
「おかしいな……」
アルマに笑い顔を指摘され、顔の筋肉を動かしごまかそうとするロキ。
「ロキのばかー!」
「なんだと?!バカって言うやつがバカなんだぞ!」
「ククク、なんだよそれ!」
ロキの返しに思わすレオンが笑う。
笑われた意味が分からずロキは不思議な顔をすると、レオンが言葉を続けた。
「何の論理だよそれ!」
「あれ?『バカって言うやつがバカ』って言わない?」
「初めて聞いたよ!」
「えっ?うそ?アルマは?」
「私も初めて聞きましたー。ロキさんって時々変な言葉遣いしたり、変なこと言ったりしますよね」
「うっそ?!俺の前世の世界じゃ常識だぜ?」
「出たよ前世!」
「なんだよレオン!俺に前世の記憶があるって話、信じてくれてたんじゃねえのかよ?!」
「信じてるけどさ、なんでも前世のせいにされると、どこまでが本当でどこからが作り話か分かんなくなるぜ」
「全部本当だわ!嘘なんてついてねーわ!」
ロキは心外とばかりに怒りだす。
そんなロキを相手にもせず、アルマが話し出す。
「でも当たり前だと思ってたことが、自分の住んでた地域だけだったってことってありますよね。私この迷宮都市に出てくるまで、食事にはパンも食べることが当たり前だと思ってたんですけど、この街の人ってお肉だけ食べてる人が多いですよね。栄養バランス大丈夫なのかな?」
「そうだな。習慣の違いってあるよな」
「無視すんな!」
「ロキさんはでもバランスよくいろいろ食べますよね」
「よくぞ気づいてくれた!その通り。肉も豆も野菜も、もちろんしいたけも何でも食べることで、俺のようにバランスの良い肉体と精神が形成されるのだ!」
「ロキは何でも食べるせいで個性がないよな」
「なんだと!」
「ほら、なんか嫌いな食べ物とか、苦手なものがあると、そいつのキャラクターみたいになるじゃん?ロキってなんかなんでもできるけど、悪く言ったら無個性だよな」
「うぐぐ……」
「何か言い返してくれよ」
「返す言葉がない……」
凹むロキを見て、三人は笑う。
「それに比べるとアルマちゃんは回復特化でキャラが濃いよな」
「そんなことないです……私戦闘になにも役に立てなくて……」
「そこが個性なんだよ。ココロだって索敵がすごいらしいな」
「まあね!」
レオンに褒められたココロが胸を張ると、ロキはしょんぼりしながらエールを一口飲み、そして大皿から肉や野菜などバランスよく自分の皿に取り分けた。
「どうせ俺なんてただの器用貧乏だよ。弓や槍も使ったことがあるけど、だれにも負けないっていう特技は何一つねえし……」
「あ、いじけた……」
「ほおっておきましょう!」
「ワハハ!ところでロキとアルマちゃんが初めて会った時って、アルマちゃんがモンスタートレインに囲まれてたって言ってたよな?戦闘ができないのに、よく無事だったな」
「アルマは回復魔法を使えるから……」
「そうですね。ヒールでゾンビを追い払って耐えてました」
「ん?」
「え?」
アルマとロキの会話の中に、二人の認識に相違があった。
「いやアルマ、ゾンビだけでなくてラットマンの方が数が多かったじゃないか?襲われてケガしても、自分にヒールをかけて回復していたんだろ?」
「あ、いえ。ずっとヒールでゾンビを追い払っていただけで、けがはしてなかったです」
「え?なんで?」
「え?」
アルマとロキが目を合わせ、お互いに何が言いたいか伝わらずにいた。
少ししてロキの隣に座るレオンが、ロキに顔を寄せ手で口元を覆ってひそひそ話で声をかける。
「なあロキ、ラットマンをヒールで追い払えるなんて話、聞いたことないよな?」
「ああ。ヒールでダメージを負うのはアンデッドモンスターだけだ。ラットマンはアンデッドではない」
「ロキ、聖女の使う奇跡の一つに、魔物を寄せ付けない結界を張るということができると聞いたことがある」
「まさか、アルマが無意識にそれを使っていたって言うのか?」
「分からんが、それなら説明が付くだろう?」
「ううむ……明日検証してみるか……」
二人がひそひと話をしている隙に、ココロがこっそりと自分の皿に乗せられたしいたけをロキの皿に移していた。
ロキはレオンとの話に夢中で、それに気が付いていない。
「もー、二人で何を内緒話してるんですか?」
アルマにそう言われ、ロキは答える。
「あ、ああ。明日の探索について決めた。明日はちょっと31階層に行ってみるか!」
「ええ?!私たち中層なんてまだ一度も行ったことないですよ?!」
「もし危なかったら、帰還のスクロールですぐに帰ろう」
「えー?大丈夫かなあ?」
「大丈夫大丈夫!」
ロキはそう答えながら、再びエールを口にして、自分の皿の上の肉などを食べる。
何も考えずにココロの置いたしいたけも食べていると、ココロが口を押えてクスクスと笑っていた。
「どうしたココロ?」
「なんでもない!」
「ん?」
すると、ロキはココロの皿の上のしいたけが無くなっていることに気が付く。
「なんだココロ、しいたけ食べれたのか?」
「そう」
「偉いな!」
そう言ってロキはココロの頭を撫でてやると、ココロはクスクスと笑っていた。
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