迷宮探索者の憂鬱

焔咲 仄火

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Phase 1 生まれ変わってもブラック会社に勤めていた迷宮探索者の憂鬱

第37話 蜘蛛の巣

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 足早に先頭を歩くココロとロキ、それを追うように続くペドロとアルマ。
 ココロの指示に従い迷わず進むロキに、ペドロが声をかける。

「待ってくれ!そっちに捕まった仲間がいるという根拠は何だ?捕まったのなら、さらに急を要するんだ!道を間違っていたら間に合う救出も間に合わなくなるぞ!急ぐ時こそもっと冷静になって確実な道を探した方がいいんじゃないか?」

「じゃあおまえは自分でそれを探せ」

「いや、そういうことを言ってるわけじゃ……」

「ココロがこっちだと言うならこっちで間違いないんだ」

 ロキがそう言うと、ココロも自信を持った顔で頷いた。

「なんでそんな仲間になったばかりのやつの言うことを信用するんだ?」

「この迷宮の中で仲間を信用しなくて誰を信用するんだ?」

 ロキに返された言葉に何も口答えできなくなるペドロ。
 黙ったペドロに向かって、ロキに代わりアルマが説明した。

「大丈夫ですよ。ココロちゃんは魔物の気配を見つける特別な能力スキルがあるんです」

「スキル?なんだそれは?俺たちのレギオンにいた時にはそんな特別な能力はなかったはずだぞ?もしかしてお前たちのレギオンに入ると、秘められた力を解放されるとでも言うのか?」

「そうです!ロキさんはすごいんです。私も回復魔法の効果が上がりましたし!」

「なんてやつだ……、どんな落ちこぼれでも一流にしてしまうっていうのか?」

 後ろで何か言ってる二人をロキはスルーする。
 もちろんそれは二人の勘違いであった。ココロは以前より魔物の気配を察する感知能力に長けていたが、前のレギオンでは新米の彼女の言うことを信じてもらえなかっただけだ。ロキが彼女の能力を伸ばしたわけではない。アルマについても同じである。

★★★★★★★★

 10分ほど歩いただろうか。四人は、蜘蛛の糸が張り巡らされた異様な光景の場所へとたどり着く。
 これまで歩いてきた洞窟とは違う、異様な空間だ。

「これは……蜘蛛の巣か?」

「これほど広範囲の空間を巣としている蜘蛛の魔物の話は聞いたことがないぞ?」

 魔物の気配を察知しているのか、ココロは緊張の表情を浮かべたまま黙っている。
 他の三人もそれ以上言葉を発するのをやめ、足音を出さないよう気を付けながら、その空間の中へと入っていった。
 岩肌は束ねられた蜘蛛の糸でほぼ隠れ、天井から吊るされた糸はところどころ柱のようになっている。
 この空間を素早く移動されたら、剣での攻撃は糸が邪魔をしかなり不利な戦いとなるだろう。
 またこの蜘蛛の糸が上層にいるケイブスパイダーの糸のように可燃性だったとしたら、炎の魔法で焼いて除去しようとすると炎が全体に燃え広がり仲間たちをも炎が包んでしまう。
 どうやって戦うのがよいのか考えていると、突然それが視界に飛び込んで来た。

 洞窟の通路を包む蜘蛛の糸の先には、少し大きな広間となっている空間があった。
 その空間にも縦横無尽に蜘蛛の糸が張り巡らされたが、広間の先には足を閉じて眠っているように見える一体の大きな蜘蛛の姿が。そしてそのオオグモの先にはクモの糸で縛られて身動きが取れない人間の姿があった。

「!」

 ペドロが声にならない声を上げる。

「仲間か?」

 ロキの質問に頷く。
 とらえられたペドロの仲間たちの、蜘蛛の糸の隙間から除く顔は真っ青になっていた。
 おそらく毒が回っているのだろう。救出に一刻も急ぐ。
 だが彼らを助けるためにはあのオオグモを倒さなくてはならないようだ。

「それじゃとりあえずあの蜘蛛を倒してくるわ!」

「待て!あれはおそらくピンクタランチュラの上位種、ジャイアントタランチュラだ。本当はもっと下層に出没するはずだし、この32階層の階層主キングスパイダーよりも強いかもしれない」

「……他に情報は?」

「ジャイアントタランチュラの猛毒はピンクタランチュラよりも強力で、噛みつかれたら激痛と共にすぐに全身に力が入らなくなるという。お前が蜘蛛の糸で捕縛されてしまったら助けようがない。それに猛毒消し薬は人数分、4個だけしか持ってきてない。それに戦闘中に毒を受けたら、おまえに毒消しを与えている余裕もない。正面から戦うのは無謀だ」

「他に策は?」

「このメンバーでは……」

「分かった、それじゃ俺が倒してくるからここで待ってろ」

「え?」

 ロキが迷わず、一人ジャイアントタランチュラへと向かって行った。

「見つかると危ないですよ!」

 アルマがそう言ってペドロの服の裾を引っ張る。

「あ、ああ……」

 不思議そうな顔をして、ペドロはアルマとココロと一緒に岩陰に身を隠す。

「一応聞くが、お前たちは前に出なくていいのか?」

「私は回復役なので」

「ココロも見守る役なの」

「お前たち二人とも非戦闘員なのか?」

 ペドロは驚いた顔で尋ねると、二人はそろって頷いた。
 そんなのんきな会話を交わしている間に、ロキはショートソード片手にジャイアントタランチュラとの戦いを始めた。

「あっ!」

 ジャイアントタランチュラが前足をロキにぶつけてこようとし、ペドロが焦るが、ロキは難なくかわし一太刀を入れる。

「ロキさんは強いので多分大丈夫ですよ!」

「ロキは大丈夫!」

 二人の論理的ではない自信にペドロは不安を覚えるが、確かにロキは一人で善戦していた。

「一撃でも食らったら終わりなのに、なんであんなに恐れずに向かっていけるんだ?狂戦士なのか……?」

 そうこうしているうちに、ロキの剣の攻撃で足を何本か失ったジャイアントタランチュラは、動きがだんだんを遅くなり、そして最後にロキの渾身の一撃が脳天に振り下ろされると、ジャイアントタランチュラは完全に動かなくなった。そしてその体は光と消える。

「マジか……本当に一人で倒しちまった……」

「何だよ?倒すって言ったじゃねえか。信じてなかったのかよ?」

 驚いたペドロの声が聞こえたのか、ロキは若干キレ気味で返答する。

「いや、あんたが強いのは知ってたが、剣の腕がここまでとは知らなかったんだ」

 ペドロの脳裏に、ロキがレギオンに殴り込んで来た夜のことが思い浮かぶ。
 あの時ロキは、徒手空拳でペドロの仲間たちをぼこぼこにしてしまった。剣を持っていたら皆殺しにされていたのかもしれないと恐怖を覚える。

「いや、本当に見事だ!すごいとしか言いようがない」

「そんなことより早くあいつらをあそこから下ろしてやろう」

「あ、ああ、そうだった!」

 瀕死のペドロの仲間たちをくるんでいる蜘蛛の糸を、ペドロのナイフでどうにか切ってゆく。
 皆顔色がひどく悪い。ジャイアントタランチュラの毒はよほど強力なようだ。
 糸を切ったら早く猛毒消し薬を与えなければとペドロが考えていると、後ろでロキの声が聞こえた。

「アルマ、キュアーをかけてやれ」

「キュアーですか?」

「そうだ。キュアーって唱えて魔法をかけてやれ」

「はい。キュアー」

毒消し魔法キュアーが使えるのか?だがこれは普通の毒じゃなくて猛毒だ。上位毒消し魔法でないと……」

 蜘蛛の糸を切るペドロが振り返って言った瞬間、アルマが魔法を唱える。

「≪キュアー≫!」

 魔法をかけられると、毒に侵されたペドロの仲間たちの顔に一瞬で血の気が戻る。
 驚き見守るペドロの視界には、意識を取り戻した仲間たちの顔があった。

「すごい……あんた高位の回復魔法使いだったのか……」

「早く糸を切ってやれよ」

「あ、ああ!」

 手が止まっていたペドロにロキが指摘する。
 その後ペドロは一人ひとりに状況を説明しながら蜘蛛の糸から解放していった。

「しかし食われてなくてよかったな。保存食にでもするつもりだったのかな?」

「怖いです……」

 ロキの疑問に、人間が食べられることを想像したアルマが怖がる。
 その時、ペキペキという奇妙な音が鳴り響く。

「なんの音だ?」

 その場にいる全員が音のする正面を見ると、蜘蛛の糸でできた壁だと思っていた場所がひび割れしているところだった。

「なんだ?」

 あまりに大きな物体であったために、意識できていなかった。それは壁ではなく……

「まさか?これって蜘蛛の……卵?」

 割れ目から一体の蜘蛛が猛スピードで飛び出してくると、それを合図に一斉に大量の蜘蛛が、言葉の通り蜘蛛の子を散らすように部屋中に散開した。
 ジャイアントタランチュラが守っていた卵の中から現れたのは、ピンク色の体毛を持つ猛毒の蜘蛛の魔物。

「ピンクタランチュラ?!しかもこんな数?!」

 ピンクタランチュラは一体だけでも倒すのに骨が折れる。その毒はジャイアントタランチュラほどではないにせよ、激痛を伴う猛毒だ。猛毒消し薬はたったの4つしかない。
 逃げるにしても帰還のスクロールは戦闘中には使えない。蜘蛛の卵が孵るのがもう少し遅かったのならば離脱できていたのに。絶体絶命だ。そうペドロが絶望した時。

「アルマ!ヒール準備よろしく」

「はい!」

「新しく覚えた中級魔法使うチャンスだ。≪氷爆フローズンバースト≫!」

 ロキが魔法を唱えた瞬間、部屋全体に広がるピンクタランチュラたちが爆散してゆく。

「うおー!魔力がどんどん抜けてゆく~!アルマー!」

「≪ヒール≫!」

「おお!センキュー!」

 大量のピンクタランチュラたちは、全て魔石へと姿を変えていた。
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