73 / 105
Phase 2 なぜか世界の命運を担うことになった迷宮探索者の憂鬱
第73話 世界の命運を懸けた交渉の場へ
しおりを挟む
ついにロキたちが国王への謁見する機会がやってきた。それは迷宮踏破記念式典というロキたちの迷宮踏破を祝う式典であり、そこで国王自らロキたちに迷宮踏破の褒美を授ける場である。
式典の主役であるロキたちは、王城へと招かれ、待合室で最後の打ち合わせをしていた。
王城に入るにあたり、ロキたちは全ての武器を取り上げられた。また王城内では聖女が王都に張り巡らしている結界の内でも最も強力な結界が張られており、ロキの魔法も一切使えない。
つまり万が一ロキたちが暴れたとしても、国王には一切危害を与えることはできないようになっている。
それはロキたちに限ったことではなく、聖女の結界は王国の衛兵や勇者ですら魔法やマジックアイテムの力を使うことができない。
だが、そんなことはロキたちにとって全く取るに足らないことだ。
なぜならロキたちは戦いに行くのではない。国王と話をしに行くだけなのだから。
「いよいよだな。大丈夫かレオン?」
「ああ。勇者が俺たちの宿泊先にやって来た時は焦ったが、大きな問題にならなくてよかった。あとは俺がこの国の王から戦争をしないという確約を取るだけだ」
「おまえが前回この王国から侵略戦争を仕掛けられた理由は分からずじまいだが、今この国が戦争の準備をしてる様子もないし、勇者も特にアクションを起こそうとしている様子もない。この状態のまま国王に戦争をしない約束さえしてしまえば、お前が前回遭遇した悲劇は起こらないはずだ」
「だが勇者の動向は気になる。前回あれだけ激しい戦いをしたんだ。俺の正体を知ったら何をしてくるか分からない」
「心配すんな。城内は聖女の結界が張ってあるんだろ?女神の加護だかっていうやつも使えないはずだ。王都の外で正面切って戦ったら俺たちが勝てる相手じゃないけど、加護の効かない城内ではあの勇者もただの人間だ。何も剣や魔法で殺し合うことだけが、戦いじゃないさ。俺たちが臨むのは、交渉という戦いだ」
「交渉ね」
「そうだ」
「もしもこの国の国王が、交渉の成立しない、例えばあの勇者のように無能な男だったらどうする?」
「でも法治国家を治めている国王なのだからその人格に期待するしかない」
「そうか、そうだな。しかしこの交渉に世界の命運がかかってると思うと、胃が痛くなってくるな」
「確かに憂鬱ではあるな」
しばらくしてロキたちは、世界の命運を懸けた交渉の場、迷宮踏破記念式典の会場へと案内された。
式典は王城の大広間で行われる。貴族や役人たちのようなこの国の主要な面々が、順番に大広間へと入場してゆく。
ロキはその列に勇者の姿を発見する。勇者はあくびをして、ひどく退屈そうにしていた。
もしもこの式典を台無しになるとしたら、それは勇者が関わってくる可能性が非常に高い。だが今のところそんな雰囲気を見せないことにほっと安堵の息を漏らす。
そして法衣を着た神殿関係と思われる集団の列も目にした。
王都に来てから、王宮内で戦争する気配があるかどうか、勇者の動向はどうかについては調査してきたが、ロキは一つ見落としていたことに気が付く。それはこの神殿勢力についてだ。
この神殿勢力と呼ばれる神を信仰する宗教集団は、大臣たちよりも強い権力を持つとも言われている。
もしかしてレオンの故郷が侵略されたのは、この神殿勢力が関わっているのかもしれない。
だがどちらにせよこの国の最高権力者は国王であることに変わりはない。
国王と不可侵の契約をしてしまえばあとはどうとでもなるだろう。
ロキが法衣の群れを見ながらそんなことを考えていると、その先頭を歩く一人の女性の姿に気が付く。
「ロキ、あれが聖女だ」
レオンに言われロキはその女性の顔を見た時、驚きの声を上げた。
「ルナさん?」
ロキの声を聴き、神殿勢力の先頭を歩く聖女が振り返る。そしてロキの事を驚きの顔で見た後、すぐに視線を逸らした。
聖女とルナが同一人物かもしれないという可能性にロキの理解が追いつかない。思わずロキは聖女に駆け寄り声を掛けようとする。
すると聖女に近づく前に、周りの神官たちがロキと聖女の間に立ちはだかり、それを遮った。
「何者だ?聖女様にそれ以上近寄るな」
「……」
ロキは近くで聖女の顔を見ようとしたが、聖女は逆に顔を見られないように視線をそらしロキに背中を見せている。
間に立つ神官はロキに話しかける。
「そうか。おまえがこの度の迷宮踏破した探索者か。その功績は見事だが、それと聖女様に近づくことと関係はない。聖女様は神聖な存在。お前のごとき庶民が気軽に近寄って良いものではない。元の場所に戻れ」
「ルナさん?」
「聖女様をその名で呼ぶな。聖女様の名前はレオーネ様だ」
もう一度ルナの名を呼ぶが、聖女は返事をせず、神官にそれを注意される。人違いなのだろうか?だとしたらそれを確認したい。だがそれは許してもらうことはできないと分かり、ロキは黙って仲間の元へと戻った。
「大丈夫かロキ?」
「ああ……」
「ルナって、アルマたちと炊き出しを手伝いに行った時の女か?」
「そうだ。でもそうだとしたらなぜ聖女が一人で貧民街で炊き出しを?」
ルナの事を知るアルマ、ココロ、アポロも不思議そうな顔をしている。
「レオーネがルナかどうかは今はどうでもいい。それよりも王都の謁見だ」
ロキはそう言って頭を切り替えようとしたが、おそらく勇者側の立場である聖女と敵対する可能性について思考を巡らせていた。
式典の主役であるロキたちは、王城へと招かれ、待合室で最後の打ち合わせをしていた。
王城に入るにあたり、ロキたちは全ての武器を取り上げられた。また王城内では聖女が王都に張り巡らしている結界の内でも最も強力な結界が張られており、ロキの魔法も一切使えない。
つまり万が一ロキたちが暴れたとしても、国王には一切危害を与えることはできないようになっている。
それはロキたちに限ったことではなく、聖女の結界は王国の衛兵や勇者ですら魔法やマジックアイテムの力を使うことができない。
だが、そんなことはロキたちにとって全く取るに足らないことだ。
なぜならロキたちは戦いに行くのではない。国王と話をしに行くだけなのだから。
「いよいよだな。大丈夫かレオン?」
「ああ。勇者が俺たちの宿泊先にやって来た時は焦ったが、大きな問題にならなくてよかった。あとは俺がこの国の王から戦争をしないという確約を取るだけだ」
「おまえが前回この王国から侵略戦争を仕掛けられた理由は分からずじまいだが、今この国が戦争の準備をしてる様子もないし、勇者も特にアクションを起こそうとしている様子もない。この状態のまま国王に戦争をしない約束さえしてしまえば、お前が前回遭遇した悲劇は起こらないはずだ」
「だが勇者の動向は気になる。前回あれだけ激しい戦いをしたんだ。俺の正体を知ったら何をしてくるか分からない」
「心配すんな。城内は聖女の結界が張ってあるんだろ?女神の加護だかっていうやつも使えないはずだ。王都の外で正面切って戦ったら俺たちが勝てる相手じゃないけど、加護の効かない城内ではあの勇者もただの人間だ。何も剣や魔法で殺し合うことだけが、戦いじゃないさ。俺たちが臨むのは、交渉という戦いだ」
「交渉ね」
「そうだ」
「もしもこの国の国王が、交渉の成立しない、例えばあの勇者のように無能な男だったらどうする?」
「でも法治国家を治めている国王なのだからその人格に期待するしかない」
「そうか、そうだな。しかしこの交渉に世界の命運がかかってると思うと、胃が痛くなってくるな」
「確かに憂鬱ではあるな」
しばらくしてロキたちは、世界の命運を懸けた交渉の場、迷宮踏破記念式典の会場へと案内された。
式典は王城の大広間で行われる。貴族や役人たちのようなこの国の主要な面々が、順番に大広間へと入場してゆく。
ロキはその列に勇者の姿を発見する。勇者はあくびをして、ひどく退屈そうにしていた。
もしもこの式典を台無しになるとしたら、それは勇者が関わってくる可能性が非常に高い。だが今のところそんな雰囲気を見せないことにほっと安堵の息を漏らす。
そして法衣を着た神殿関係と思われる集団の列も目にした。
王都に来てから、王宮内で戦争する気配があるかどうか、勇者の動向はどうかについては調査してきたが、ロキは一つ見落としていたことに気が付く。それはこの神殿勢力についてだ。
この神殿勢力と呼ばれる神を信仰する宗教集団は、大臣たちよりも強い権力を持つとも言われている。
もしかしてレオンの故郷が侵略されたのは、この神殿勢力が関わっているのかもしれない。
だがどちらにせよこの国の最高権力者は国王であることに変わりはない。
国王と不可侵の契約をしてしまえばあとはどうとでもなるだろう。
ロキが法衣の群れを見ながらそんなことを考えていると、その先頭を歩く一人の女性の姿に気が付く。
「ロキ、あれが聖女だ」
レオンに言われロキはその女性の顔を見た時、驚きの声を上げた。
「ルナさん?」
ロキの声を聴き、神殿勢力の先頭を歩く聖女が振り返る。そしてロキの事を驚きの顔で見た後、すぐに視線を逸らした。
聖女とルナが同一人物かもしれないという可能性にロキの理解が追いつかない。思わずロキは聖女に駆け寄り声を掛けようとする。
すると聖女に近づく前に、周りの神官たちがロキと聖女の間に立ちはだかり、それを遮った。
「何者だ?聖女様にそれ以上近寄るな」
「……」
ロキは近くで聖女の顔を見ようとしたが、聖女は逆に顔を見られないように視線をそらしロキに背中を見せている。
間に立つ神官はロキに話しかける。
「そうか。おまえがこの度の迷宮踏破した探索者か。その功績は見事だが、それと聖女様に近づくことと関係はない。聖女様は神聖な存在。お前のごとき庶民が気軽に近寄って良いものではない。元の場所に戻れ」
「ルナさん?」
「聖女様をその名で呼ぶな。聖女様の名前はレオーネ様だ」
もう一度ルナの名を呼ぶが、聖女は返事をせず、神官にそれを注意される。人違いなのだろうか?だとしたらそれを確認したい。だがそれは許してもらうことはできないと分かり、ロキは黙って仲間の元へと戻った。
「大丈夫かロキ?」
「ああ……」
「ルナって、アルマたちと炊き出しを手伝いに行った時の女か?」
「そうだ。でもそうだとしたらなぜ聖女が一人で貧民街で炊き出しを?」
ルナの事を知るアルマ、ココロ、アポロも不思議そうな顔をしている。
「レオーネがルナかどうかは今はどうでもいい。それよりも王都の謁見だ」
ロキはそう言って頭を切り替えようとしたが、おそらく勇者側の立場である聖女と敵対する可能性について思考を巡らせていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
11
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる