夏フェス行ったら異世界に迷い込んだ

焔咲 仄火

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第1章

第2話 夏フェス行ったら喋る猫と会った

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「え……黒猫?」

「クロネ……?いえ、名前ならクロエです」

 猫は自らをクロエと名乗った。
 クロネコクロエ……。
 いや、名前を聞いたわけじゃなかったんだが……。
 いや、そうじゃない、そこじゃない、猫が日本語を喋っていることが問題なのだ!

「どうかしたんですか?」

 明らかに戸惑っている俺に対し、猫は首をかしげて問いかけてくる。
 喋る猫なんて、おかしいだろ?だが実際に今俺の目の前で、猫が流ちょうな日本語で話しかけてくるのだ。
 どうしたらいい?
 話しかけてくる猫に対し返事をしてしまったら、会話が成立してしまう。猫と話していたら、他の人から変な目で見られるに違いない。俺は周りから変な人だと思われたくない。
 だが不幸中の幸いか、ここには周りに人はいない。
 だから大丈夫。猫と話しても大丈夫だ。
 もし客観的に見ておかしい人でも、今は誰も俺を見ていない。

「ふぅ……」

 俺は一呼吸置いて落ち着きを取り戻し、猫に事情を聞くことにした。

「や、やあクロエ。俺はカイ伊丹海イタミカイだ」

「カイさんですね」

「さっき助けてって聞こえたけど、どうかしたの?」

「わざわざ助けに来てくれたんですね。優しい~。ありがとうございます」

 そう言って猫は頭を下げる。礼儀正しい猫だ。

「実は私、薬草を探しに山に入ったんですが、大きな蜂に襲われて逃げてきたんです」

「それは大変だったね。山の中はスズメバチが出ることもあるから気を付けないとな」

 と、そこまで言ってわが身を振り返る。
 フェスとしては問題ないが、登山としてはあまりに軽装だ。
 寒さ対策で薄手のナイロンパーカーを着ているが、下は短パンだ。足を刺されたら怖い。蜂が出るなら、さっきみたいに道を外れるのは危険だ。人通りのないところだと、どこに蜂がでるか分からない。気を付けなければ。

「刺されたわけじゃないんだね?」

「はい!すぐに逃げて来たので大丈夫でした!」

「それは良かった」

 蜂に刺されたら、毒を吸い出してあとは冷やすくらいしかない。虫よけスプレーならあるが、虫刺されの薬すら持ってきてない。

「それで、蜂に襲われた時に荷物を落としちゃったんです。薬草は見つけたのですが、道具も荷物の中に入っているので薬草を採れなくて……」

 薬草を採る事を手伝ってという意味の、助けてだったのか。怪我とかじゃなくて良かった。
 それにしても、猫が使う道具とは?
 想像してみたが思い浮かばなかった。猫に付けるといったら、首輪くらいのものじゃないのか?
 ちなみにクロエには首輪は付いていない。飼い猫じゃないのか?

「薬草ねえ……」

「あっちに生えてるんですけど、付いてきてもらえますか?」

「ああ」

 そう言われて、俺は喋る猫、クロエの後を歩く。
 いやしかし、それにしても不思議な気分だ。
 だって俺、猫と普通に話してるんだよ?
 もしかしてこれがタヌキやキツネに騙されるというやつなのだろうか?
 そんな不安をかき消すため、疑問に思ってることをいろいろとクロエに聞いてみようと思う。

「ところで、クロエ。クロエというかクロって感じだな。クロ、ここがどこか分かるかな?」

「わー愛称ですね!はい。場所なら分かりますけど?」

「俺ちょっと道に迷っちゃったみたいなんだ。ちょっと教えてほしいんだけど、ここはまだ龍神山かな?」

「そうですよ。龍神山の中腹ですね」

「やっぱり日本か。俺てっきり異世界にでも迷い込んじゃったのかと思ったよ」

「え?にほんってなんですか?」

「え……?」

 俺の脳裏に、まさかという三文字がよぎる……。

「日本のR県R市の、龍神山でしょ?」

「グリセリア王国バーガンディ領の、龍神山に決まってるじゃないですか」

 まあ猫が喋ってる時点で薄々感づいていましたが……、
 やっぱ異世界じゃん!そんな国、地球上にないじゃん!まさかの山の名前だけ同じで別の国かよ?!

 俺は脳が柔らかい。環境の変化に対応しやすい。だからもう受け入れちゃう。
 この喋る猫が異世界から迷い込んできたのか、俺は異世界に迷い込んだのどちらかに間違いないだろう。

 俺がこの現実を受け入れようと自問自答していると、林を抜け、開けた斜面に出た。
 日陰を抜けると、夏の日差しがジリジリと照り付けていた。
 暑い……。

「あれです!」

 そう言ってクロエが前足で差した先にあったのは、アロエだった。

「アロエじゃん」

「カイさんご存知なんですか?物知りですね!もしかしてカイさんも薬草に詳しいんですか?」

「いやいやいや、全然詳しくないよ。アロエは有名だから知ってるだけだよ」

「有名じゃないですよ。珍しいですよー」

 いや有名だろ。……日本ではな。

「これがどうやら万能薬みたいなんですよ。傷薬にも内服薬にもなるみたいで」

 確かにアロエは怪我した箇所に塗っても、飲んで胃薬にもなると聞いた事がある。
 俺は山道から身を乗り出すと、アロエの傍まで行く。

「どれくらいほしいの?一枚じゃ足りない?」

 そう言ってアロエの上部の若い葉を一枚ちぎる。

「あ、できれば根っこから掘り出して、株ごと欲しいんですが……」

 言われて俺は目が点になる。
 こんなでかいアロエの根を掘り返すとなると大変だ。
 俺の腰くらいの高さ、抱きかかえられないくらい横に広がっている。
 スコップすらないというのに。そして例え掘り出したとしても、どう運べばいいのか?
 俺はその大きなアロエの横に生えている、まだ小さな株を見つける。

「クロ、それならこっちのでどうだ?」

 そっちの株なら、植木鉢で栽培できそうなくらいの大きさだ。

「あ、はい。それで十分です。上手く栽培できるかな?」

「アロエは強いから大丈夫だと思うよ。だけど……」

 俺はアロエの下の地面を見る。根っこってどんだけ深くまで生えてるんだろう?土を掘り起こすにしてもスコップみたいな道具がないとな。

「どうやって掘ろう?」

 俺が地面を見て悩んでいると、クロエも気づいたようだ。

「あっ、そっかー。道具がないと掘ることもできませんね」

 分かってもらえたらしい。もし土が柔らかければ引き抜く事もできるかもしれないが、触ってみたところしっかりと固まっていた。これでは、アロエを引き抜いたら茎から折れてしまうだろう。

「スコップなら私の荷物の中に入ってたんですけど、蜂のところで落としてきてしまったんですよね」

「スコップ?クロは、猫なのにスコップなんて使えるの?それとも猫用スコップとかあるの?」

「な、何を言ってるんですか?私は猫じゃなくて、人間ですよ!喋る猫がいるわけないでしょう!」

 何を言ってるんだはこっちのセリフだ。目の前にいるじゃないか……。
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