夏フェス行ったら異世界に迷い込んだ

焔咲 仄火

文字の大きさ
8 / 28
第1章

第8話 夏フェス行ったら異世界の村に辿り着いた

しおりを挟む
 その後、スコップを使いアロエを採集すると、クロエに先導されながら山を下りた。
 およそ二時間で山を下り終え、村が見えて来た。畑に囲まれる形で、木造の小さな家がいくつも集まって集落となっている。
 鉄筋コンクリート造りの家などはなさそうだ。文明レベルはどれくらいなのだろう?クロエのスコップは鉄製だったから鉄製品はありそうだが、村の雰囲気からしてやはり俺のいた世界よりは遅れている気がする。スマホとか見せたら驚かれるだろう。どうせ電波も届かないし、電池の節約のため電源はOFFにしてある。

「着きました。ここです!」

 初めての異世界の村に緊張していると、すぐにクロエの先生の診療所までたどり着いた。

「ただいまー!」

「お、おじゃまします……」

 クロエの後に続いて、玄関をくぐる。
 俺はクロエに案内された部屋で椅子に座ると、着替えてくるから待っててと言って出ていったクロエを待った。

「おや?お客さんですか?」

 そう言って、茶色い長い髪の女性が部屋に入って来た。
 少し痩せていて、クロエと違って落ち着いた雰囲気の人だ。女性の年齢は見た目では分からないのだが、俺よりも年上だろう。だがクロエのお母さんと言うにはまだ若い。
 おそらくこの人がクロエの言う先生だろう。

「お邪魔してます。イタミ・カイと言います。龍神山で道に迷ってたらクロエと会って、クロエの薬草を採るのを手伝ってきました」

 俺は席を立って礼をする。

「そうでしたか、クロエがお世話になりました。ここで診療所をしていますファランです。何かご迷惑をおかけしませんでしたか?」

 ファラン先生はそう言って頭を下げる。なんだかとても丁寧な人だ。
 そんな話をしていると、着替え終わったクロエが戻ってきた。

「せんせー!ただいま!」

 クロエは部屋に入るなり、そう言ってファランさんに後ろから抱きついた。

「あらあら、お客さんの前で」

 ファランさんはクロエの頭を撫でると、クロエにも椅子に座るよう促した。

「おかえりクロエ。カイさんにどんなご迷惑をかけたのか聞かせてくれる?」

 クロエは、ファランさんにどんなことがあったのか説明をした。相変わらず分かりにくいクロエの説明に、俺がところどころ補足説明を加えて手助けをした。

「魔物がでたんですね。それは危ないところでした。クロエ、まだ一人で山に入っちゃいけないって言ったでしょ?」

「でも、先生のために何か新しい薬草を見つけてきてあげたいって思ったの!」

「もう……。ありがとう」

「そうだ、ファランさん、巨大蜂から出てきたこの魔力宝石ってやつはどうすればいいですか?」

 俺はリュックのポケットから、暗い紫色をした宝石を取り出す。
 美しい形の結晶だ。
 ファランさんは、それを見て目を丸くする。

「大きいですね!それに曇りがない。これは魔力が均一に籠っているわ。カイさん、これはちゃんとしたところに持って行けばとても高価で売れるものです。大切にしてください」

「ええっ?」

「カイさんお金持ちですね!」

「いやいや、これはクロエが取り出したのだから、クロエのものだろ?」

「蜂を倒したのはカイさんですよー」

 クロエは、この魔力宝石が高価なものだと分かっても、所有者は俺だと言ってくる。なんて欲がない子なんだ。

「カイさん、クロエもこういってますし、どうか引き取って持っていてください。それを売れば当分遊んで暮らせますよ」

「そんな高価なものをいいんですか?」

「はい」

 ファランさんもクロエと同じで欲の無い人なのだろう。俺はその厚意をありがたく受け取っておくことにした。

「分かりました。ありがとうございます。でもどこに売りに行けばいいのか分からないので、後で教えてくださいね」

「ええ、もちろん」

 その後もう少し話を聞くと、どうやらクロエは度々ファランさんと一緒に山に薬草を採りに行った事があり、二人とも持っている鑑定のスキルで、時々新しい薬草を見つけているらしい。
 この国の王女の病気の治療のために、こんな小さな村の診療所のファランさんのところにも昨日召集がかかったらしい。クロエは少しでも役に立とうと、忙しいファランさんの代わりに一人で新しい薬草を探しに山に登ったのだそうだ。

「それでね先生、これがアロエだよ」

 クロエは異次元収納ナイロンリュックから、今回採取してきたアロエを取り出す。
 ファランさんはアロエを鑑定し、万能薬であることを確認すると、とても嬉しそうな顔でクロエにお礼を言った。

「すごい薬草を見つけたのね。クロエ、ありがとう」

 そう言ってまた頭を撫でられると、クロエは目を細めながら嬉しそうな顔をする。

「カイさんもありがとうございました」

「いえ、俺は大したことはしてませんよ」

「ところでそのバッグはどうしたの?どうやってこんなに大きいアロエを入れてたの?」

 ファランさんに聞かれ、異次元収納ナイロンリュックの事を説明する。いったいどれだけの収納力があるのか分からないが、リュックのサイズよりも大きなものがじゃんじゃん入る異次元収納機能があること。巨大蜂にボロボロにされたバッグの代わりに俺がクロエにあげた事を話した。

「異次元収納のバッグですか。噂では聞いた事がありましたが、私も見るのは初めてです。カイさん、こんな高価なものをそんなに簡単にいただくわけにはいきません」

「うーん……、でもほとんど同じデザインのリュックを持ってるんですよ、ほらこれ。こっちの方が高かったんですよね」

「え……?」

 ファランさんは、俺が何を言ってる事が理解できないような表情をする。
 高いっていうけど、そもそも日本円に直すといくらくらいするのか実感わかないんだよね。
 日本に持って帰っても売れない気がするし、クロエも喜んでるし。

「カイさん……、本当にありがたいのですが、私はあまりお金を持っていないので、それに見合うお礼ができないのですが……」

「いえいえ、お礼とかいらないので!」

「先生、カイさんは優しいんだよ」

「もう……。すいません本当に」

 それから俺は、デイリーガチャのスキルの事や、道に迷って異世界からここにやってきたみたいだという話を告げる。
 異世界からやってきたことは話すべきか迷ったのだが、この人なら話しても大丈夫だと感じた。裏表のないクロエがこれだけ懐いているのだから良い人に違いないし、実際に会った雰囲気でそう直感したのだ。
 俺が異世界から来たという話を聞いたファランさんは、顔を青くしてビックリしていた。

「カイさん……、その話はあまり他の人には話さない方がいいと思います」

「やっぱりそうですか?」

「異世界からやって来たというなら、カイさんの国籍はこの世界にはないのですよね?だとしたら不法入国で捕まる可能性もあります。こんな村ならそんなことを調べられるような事はないでしょうが、噂が知られたら役人が調べに来るかもしれません」

「結構法律とかしっかりしてるんですね……」

「ええ。カイさんはこれからどうされるおつもりですか?」

「元の世界に帰る方法を探したいのですが、どうすればいいのか分からなくて……」

「もし急いでいないのでしたら、元の世界に戻る方法が分かるまでここでゆっくりしていってください。クロエがお世話になりましたし、少しでもお礼になれば」

「それはとても助かるんですが、良いんですか?」

「はい」

 ファランさんは笑顔で頷いた。

「ありがとうございます」

 俺はその厚意に甘えることにした。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...